2018年10月15日月曜日

ペーパーティーチャー

 人手不足が深刻化していますが,教員の世界にもその波が及んできています。「教員は魅力的な仕事なんで,なり手はいくらでもいるだろう」と思われるかもしれませんが,さにあらず。教員のブラックぶりも知れ渡ってきていますしね。

 通常の採用試験だけでは,一定の質が担保された人材を十分に確保できないと,自治体間で現職教員を奪い合う動きも出てきています。福岡県は,昨年の冬に都内で現職教員対象の選考会を実施し,都の現職教員45人が合格したそうです。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181014-00000016-pseven-soci

 手塩にかけて育てた人材を奪われる都にとっては,たまったものではないでしょう。しかし,自治体間でこういう競争がなされることは,教員の労働条件改善の競争が行われることでもあるので,一概に悪いとは言えないと思います。福岡県は,さぞいい条件を提示したのでしょう。東京も,地方から飛んでくる「ハゲタカ」の襲来に備え,教員の労働条件改善に取り組まないといけません。

 目を向けるべきは,現職教員だけではありません。外国語に堪能であるとか,国際競技大会への出場実績があるとか,優れた資質・能力を持つ人材は,世の中に数多くいます。教員免許状を持たずとも,こういう人たちが教壇に立てるよう,特別免許状や臨時免許状を付与するのも一つの手です。上記記事によると,京都府はこういう取組を積極的に実施しているようです。

 あとは,ペーパーティーチャーです。教員免許状を持っているが別の仕事をしている,ないしは無職である人は数多し。「即戦力にならない」と頭ごなしに決めつけないで,潜在保育士ならぬ「潜在教員」のプールに目を向けてみてはどうか。新卒時の採用試験が激戦だった,われわれロスジェネには,こういう人が多くいるでしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/1010750439501938689

 私の世代(1976年生まれ)は,99年春に大学を卒業し,2016年では40歳になっています。文科省の『教員免許状授与件数等調査』によると,99年春の小学校普通免許状取得者は2万205人。2016年10月時点の40歳の小学校本務教員は7517人(『学校教員統計調査』2016年)。

 単純に考えると,免許を持っているがそれを使っていない人は,前者から後者を引いて1万2688人となります。予想はしていましたが,教員免許の活用度って低いのですね。私の世代では,小学校の免許取得者の3人に2人がペーパーティーチャーです。

 これは,採用試験が厳しかった私の世代のデータで,他の世代では様相は違うでしょう。私は手元の資料を使って,1963~86年生まれ世代について,同じやり方でペーパーティーチャー数を推し量ってみました。新卒時の普通免許状取得者数と,2016年時点の年齢の本務教員数を照合することによってです。

 下表は,その結果です。97年春の免許取得者だけでは,原資料でなぜか得られませんでしたので,ペンディングにしています。


 算出されたペーパーティーチャー数は,上の世代ほど多くなっています。現在教壇に立っている人も多いですが,世代の人口量が多いので免許取得者も多かった。新卒時はバブルの好況期だったので,教員にならず民間に流れた人も多数でした。

 しかし最近の世代では,ペーパーティーチャー数は1万人を割っています。少子化で人口量が減っていることもあるでしょうが,取得した免許の活用率がアップしているためです。一番下の86年生まれ世代をみると,免許の活用率(b/a)は54.4%となります。

 参考までに,この指標の世代変化を描くと下図のようになります。新卒時の免許取得者のうち,2016年10月時点で教壇に立っている人の率です。上表のbをaで割った値になります。


 70年代半ば生まれ,私の世代がボトムですね。教員採用試験が厳しかったことの影響がはっきり出ています。その後の世代では,免許取得者が教員になる率は高まっています。採用試験の競争率低下と同時に,大学の教職課程の質が担保されるようになっているためと思われます。「やる気のある人じゃないと,教育実習は受けさせない!」など。

 おっと,話が逸れてしまいました。最初の表によると,2016年10月時点の30~53歳(42歳除く)のペーパーティーチャー数は,27万4526人です。同年齢の小学校本務教員(21万3260人)よりも多くなっています。

 このうち,一定の社会経験を積んでおり即戦力となり得る人材が半分とすると,13万7263人。結構な数ではないですか。新卒時の試験が激戦だったばかりに,夢破れて他の職業に流れた人にカムバックしてもらうのもいい。
 
 前に,ニューズウィーク記事で明らかにしましたが,日本の教員の社会人経験者比率は低くなっています。教員不足解消の救世主は,内の人材だけではありません。学校に新風を吹き込ませるうえでも,外に目を向けてほしいものです。