2019年11月5日火曜日

フルタイム就業者の所得の職業比較

 朝晩,急に冷え込むようになりましたが,いかがお過ごしでしょうか。

 ここ数日,ツイッターにて,職業別の非正規雇用率のデータを発信しています。図書館司書・学芸員,保育士,幼稚園教員,介護職員…。これらの職業の非正規化は,全国的にスゴイことになっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/1190508161058230272

 教育,文化,福祉…。成熟社会を象徴する職業が軽んじられています。

 司書の非正規率が高いのは知ってましたが,保育士の非正規率もかなり高いことに驚きました。2015年の『国勢調査』のデータによると,全国値で42.2%,マックスの長野県で57.9%です。人手不足で,望めば正規職員として雇ってくれる園なんていくらでもあると踏んでましたが,そうでもないのですね。

 増税で得られた財源で幼保の無償化が始まってますが,保育士の薄給は手付かずのまま。フルタイムの正規職員でも,お給料は少ないことでしょう。業務負担と責任を考えると,正職員で働くなんてアホらしい,パートのほうがいい。こう考える人が多いから,保育士の非正規率が高いのかもしれません。

 久々ですが,『就業構造基本調査』に出ている,職業別の所得分布統計をいじってみたくなりました。職業別の平均所得はこれまで何度も出してきましたが,今回はフルタイム就業者に限定します。また分布の代表値として,平均値ではなく中央値(median)を使います。

 私は,2017年調査の全国編の統計表「03500」に当たって,年間250日・週43時間以上就業している有業者を取り出し,税込みの年間所得の分布を明らかにしました。以下に掲げるのは,全職業1669万人の分布表です。所得の階級は,原資料によります。


 年間250日(月20日),かつ週43時間以上働いているフルタイム就業者のデータです。中層が膨らんだノーマル分布ですね。ピークは300万円台で,全体の20.3%がこの階級に属します。週5日,1日8時間以上勤務してこれかと,ちょっと落胆しますが,老弱男女ひっくるめた全労働者だとこんな感じです。

 累積%値が50ジャストの中央値も,この階級に含まれるようです。按分比例を使って推し量りましょう。

 按分比 =(50.0-34.2)/(54.4-34.2)= 0.781
 中央値 = 300万円+(100万円 × 0.781) = 378.1万円

 最近のフルタイム就業者の所得中央値は378万円と出ました。400万円は超えるかと思ってましたが,さにあらず。貧しくなってますね。ちなみに所得300万円に満たないプアは全体の34.2%います(上表の真ん中の%値)。フルタイムで働いても,3人に1人がプアであると。フルタイム・ワーキングプアと命名しておきましょう。実数にして571万人です。

 では,職業別のデータをご覧に入れましょう。私は,フルタイム就業者の年間所得分布をもとに,67の職業の所得中央値を計算しました。中央値は計算に手間取りますが,はじき出される数字はリアルです。また,所得300未満の者の割合も出しました。フルタイムで働いても,プアの状態にある人の率です。

 まずは,管理職からサービス職までの35職業のデータからです。


 赤字は中央値が500万円を越える職業ですが,専門職は高いですね。トップは医師で1226万円。真ん中の中央値でコレです。その次は管理的公務員で915万円,3位は法務従事者(弁護士等)で755万円となっています。

 教員は570万円,著述家・記者・編集者は522万円ですか。後者はプアの率が21.5%と高いことから,売れっ子とそうでない人の格差が大きいものと思われます。

 保育士が属する社会福祉専門職は315万円。私立園の保育士に絞ったら,もっと低いでしょうね。この職業のプア率は45.8%,フルタイム就業しても半分近くが300万円稼げません。介護サービス職はもっと低し。

 続いて,保安職業以降の32職業をみていただきましょう。


 体を動かすブルーカラー系の職業です。全般的に低いですが,公共性のある鉄道運転士と,パイロットを含む船舶・航空機運転手は高くなっています。

 しかし,年間250日(月20日),かつ週43時間以上働いてコレとは,ちょっと驚きます。女性や高齢者が搾取されていることの表れでしょうか。わが国では,働く人が手にする富が,生産年齢の男性に集中しがちです。

 最後に,今みた2つの変数のマトリクス上に,67の職業を配置したグラフにしておきましょう。横軸に中央値,縦軸にプア率をとった座標上に,各職業を散りばめました。点線は全職業の値です。


 両者は表裏ですので,ナナメの配置になります。私が注目する社会福祉専門職と介護職は,左上にあります。重要性を増しているにもかかわらず,待遇は低し。

 あなたの職業はどの辺に位置づくでしょうか。大雑把な職業中分類のデータですみませんが,先ほどの表から自分が属する職業の目星をつけ,該当のドットを赤で囲ってみるとよいでしょう。

 フルタイム就業者に絞った中央値の比較です。こういうデータはあまり出てないと思いますので,参考にしていただければ幸いです。

 余談ですが,データえっせいαの2回目の記事を本日公開しました。テーマは,犯罪の認知度です。犯罪統計には当局の恣意がどうしても入りますが,そこを切り口に社会を読むと面白い。どうぞ,お読みください。
https://note.mu/tmaita77