2019年11月13日水曜日

有業者のリーダー比率

 私のパソコンには,PISA,TIMSS,PIAAC,そしてTALISなど,国際調査のローデータファイル(エクセル)が入っています。どれも非常に大容量で,開くのに時間がかかり,動作も不安定になります。

 しかし便利なツールも用意されていて,下記サイトにて,3重クロスまでの分析はリモート集計でできます。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 最近は,こちらを使っています。個票データのファイルを開くのが億劫というのもありますが,データの再現が容易であるためです。言わずもがな,再現可能性は科学の大前提です。

 個票データだと,無数の変数の組み合わせが可能ですが,いろいろ欲が出て,自分でもワケが分からない袋小路にハマりがち。しかしリモート集計は3重クロスまでですので,精選した変数によるシンプルな分析を心がけるようになります。亡き恩師がよく言われてましたが,他人にも分かりやすいシンプルな分析がいいのです。

 ここ数日,「出世に際して重要なのは,能力かジェンダーか」という関心をもって,OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」のデータを分析しています。まず思いつくのは,有業者の管理職比率のジェンダー差ですよね。

 「Do you manage or supervise other employees?」という問いに,イエスと答えた人の割合を使いましょう。ただこれには,作業チームのリーダーのような人も含まれるので,管理職ではなく「リーダー」ということにします。

 日本だと,16~65歳の有業者のうちリーダの割合は,男性では40%,女性では16%です。その差は24ポイント,予想通り男性のほうが圧倒的に高し。もはや驚きもしませんが,他国はどうでしょう。調査対象の26か国のデータは以下です。


 下に位置するのは,「男性>女性」の度合いが大きい国ですが,日本と韓国が仲良くワーストに位置しています。リーダー的地位に到達するチャンスのジェンダー差が最も大きい社会です。

 それはどの社会でも同じですが,上のほうの国は,男性と女性の差が比較的小さくなっています。エストニア,スウェーデン,イギリスでは8ポイントの差です。日本や韓国より,ジェンダー差がずっと小さいと。

 上に立つのは有能な人が望ましいのですが,上記の差は能力の性差の反映でしょうか。「PIAAC 2012」は学力調査ですので,認知面の学力も知ることができます。ホワイトカラー労働が多くなっている現在では,学力が職務遂行能力と強く相関するとみてもよいでしょう。

 日本の16~65歳の有業者を,数学的思考力の習熟度レベルに基づいて3つのグループに分けてみます。レベル3未満を低,レベル3を中,レベル4・5を高としましょう。最後の高学力グループのサンプルでリーダー比率を出すと,男性が50%,女性は19%となります。同じ高学力層でも,リーダーの出現率にはジェンダー差があります。というか,上表の有業者全体の場合よりも差が広がるじゃないですか。

 もっと驚くべき事実があります。女性の高学力グループのリーダー比率は,男性の低学力グループよりも低いのです。前者は19%,後者は32%なり。言葉がよくないですが,有能女性よりも無能男性のほうがリーダーになる確率は高いと。能力よりもジェンダーの社会です。

 こういう国って他にあるのでしょうか。他国についても高学力女性,低学力男性の2グループを取り出し,リーダーの比率を計算してみました。データが得られた21か国の一覧をご覧ください。


 一番上のアイルランドでは,低学力男性が27%,高学力女性が45%で,後者のほうが18ポイントも高くなっています。ジェンダーよりも能力です。数としては,こういうタイプのほうが多数です(右端の差分がプラス)。

 悲しいかな,日本はそれとは逆で,能力よりジェンダーの度合いが韓国に次いで高くなっています。無能男性が有能女性の上に立つ。会社勤めをしている人は,こういう光景を常日頃目にしていることでしょう。朝日新聞で「働かないおじさん」が取り上げられていますね。機械的な年功序列で管理職に上り詰め,能力に見合わない高給をむさぼっている中高年男性のことです。

 両性の3つの学力グループの数値をグラフにすると,日本の女性の閉塞状況が露わになります。以下のグラフは,日本とアイルランドの対比です。


 緑は学力高群,オレンジは中群,青は低群のリーダー比率です。アイルランドでは学力レベルが上がるにつれ,両性ともほぼ同じスパンでリーダー比率が上がっていきます。

 しかし日本の女性は何たることか,3つの学力群とも2割弱の位置に固まってしまっています。能力に関係なく女性は低位置に留め置かれる。低位収束現象とでも呼んでおきましょう。

 日本の女性には,見えない天井があるようですが,いわゆるマミートラックの影響もあるでしょう。結婚・出産で退職し,子育て後復職しても,元のキャリアを取り戻すのは難しい。配偶者の転勤についていくことで,キャリアがその都度リセットされる。

 残念といいますか,女性の管理職昇進意欲が低いこともいわれています。「管理職になりたいか」と問うても,イエスという回答の率が男性に比して有意に低し。晩産化の影響で,40~50代のステージは「育児+介護」のダブルケアになる時代ですが,こうした負荷に管理職の重責が加わるのは耐えがたい,という意識もあるとみられます。

 しかしこれは日本の事情で,上記のデータで分かるように,他国では違うのですよね。夫の家事分担が進んでいる,家事の省力化・外注化が進んでいる,女性の昇進に対する妬みがない…。日本と異なる要因は数多く指摘できます。結果として,女性のハイタレントがちゃんと活用されているのは,素晴らしいことです。

 管理職の女性比率を*%にする。こういう数値目標を掲げ,それを達成するためのアファマーティブ・アクションも必要かもしれません。