春も近くなってきました。私は7時前に起き,ラジオ体操をして,主要紙サイトのニュースをチェックします。朝日,NHK,日経,毎日の順です。朝日は有料会員登録(月980円)をして,記事はほぼ見放題です。
日経も良質な記事が多いので有料登録しようかと思っているのですが,やや費用が高く,二の足を踏んでいます。ひとまず,有料記事を月10本まで読める無料会員登録をしています。
その日経サイトに,「氷河期の統計,実態を映さず 内定率高く出る傾向に注意」という記事が出ています。「氷河期」「統計」。私が飛びつきたくなる言葉で,すかさずクリック。内容は予想通り,当局の就職内定率のトリックについてです。就職希望者ベースの数値なんで,途中で「もうダメだ」と諦めた学生,音信不通になった学生などは分母から除かれている。だから,氷河期世代の統計でも,就職率が9割超なんていう数字が出るのだと。
学校卒業者の就職率の公的調査は,文科省・厚労省の「大学等卒業者の就職状況調査」です。10月,12月1日時点の内定率と,4月1日時点の最終就職率が公表されています。私は1999年春に大学を出ました。1999年4月1日時点における,4年制大学卒業者の就職率,および就職希望者率は以下のようになっています。
就職率=92.0% 就職希望者率=68.3%
氷河期世代といわれる私の世代ですが,大卒者の就職率は92%。そんなに悪くはないじゃん,という印象を与えられます。そこが問題で,どういう事態であるかを図解すると以下のようになります。
卒業生全体を分母にすると,就職率は,68.3% × 92.0%=62.8%となります。これはリアリティのある数値です。まさに氷河期世代。しかし就職非希望者の中には,就職の意思がない大学院等進学者もいるので,この部分は分母から除くべきでしょう。よって,真正の就職率はもうちょっと高くなるとみられます。
ここで,文科省『学校基本調査』の出番です。春の大学卒業者の進路が,細かいカテゴリー別に集計されています。1999年3月の大学卒業者について,以下の数値を拾ってみます。
A)卒業生総数=53万2436人
B)大学院等進学者数=5万4023人
C)就職者数=32万72人
D)臨床研修医数=6450人
Dの臨床研修医とは,医学部卒業生の多くが最初に進むキャリアですので,これは分子の就職者に足しましょう。分母は,卒業生総数から,就職の意志がない大学院等進学者を引いた数を充てます。
就職率=(C+D)/(A-B)=68.3%となります。
これが,1999年春の大卒者の精密な就職率です。7割を切っていて,氷河期世代の就職率としてリアリティがありますね。私はこのやり方で,各年春の大卒者の就職率を計算しました。以下は,1990~2020年の30年間の推移です。
上記の日経記事では,文科省の公表統計では「氷河期の実態が出てこない」と嘆かれていますが,ちゃんと頭を使って算出した就職率だと,氷河期の存在がはっきりと浮き出てきます。現在では40代前半になってますが(私は44歳),この世代への支援が求められます。ロスジェネ限定の採用試験を実施する自治体や官庁が続出っしているのは結構なことです。
前にニューズウィーク記事で書きましたが,上記の就職率のグラフに,小学校教員採用試験の競争率を重ねてみると,逆の動きになります。民間への就職が厳しかった氷河期では,教員採用試験の競争率がメチャ高だったのです。ピークは2000年度採用試験の12.5倍で,大卒者の就職率が最も低かった年と一致します。
ロスジェネの中には,優秀であっても,夢破れて教員になれなかった人も多いはず。こういう人たちが再挑戦できるよう,教員採用の門戸も開いてほしいものです。昨今の教員不足の解決に寄与してくれるメシアです。
就職率から話が広がりましたが,政府の公表統計は信頼できるからと鵜呑みにせず,「これはおかしいな」と思ったら,ちゃんと自分の頭で考えて,現実により接近した指標を考えてみる。ちきりんさんの『自分のアタマで考えよう』は名著ですが,これってホントに大事だと思います。
コロナの影響で,昨年春の就職率は下落しているかと思いきや,そうではないようです。しかし今年春はどうか分かりません。ロスジェネに続く,第2の悲劇の世代「コロナ・ジェネレーション」が出ないとも限りません。