2012年9月19日水曜日

成人の肥満率の国際比較

 前回は,わが国の成人の肥満率がどう変わってきたかを明らかにしました。そこにて分かったのは,中高年層を中心に,肥満化が進行してきていることです。2010年でみると,BMIが25超の肥満者の比率は,50代では37.3%にもなります。およそ3人に1人です。

 しかるに,米国のような社会では,国民の肥満化がもっと進んでいます。世界全体を見渡すなら,米国をも凌駕する社会が見受けられるかもしれません。今回は,できるだけ多くの国(社会)のデータをもとに,成人の肥満率の国際比較を手掛けてみようと思います。

 用いる資料は,WHOの"World Health Statistics"の2012年版です。この資料から,2008年の成人(20歳以上)の肥満率を,189の国について知ることができます。ここでいう肥満率とは,BMIが30を超える者が全体に占める比率をさします。
http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/en/index.html

 前回もいいましたが,BMIとは,Body Mass Indexの略称であり,人間の肥満度を測るための尺度です。体重(kg)を身長(m)の2乗で除すことで求められます。国際基準では,この値が30を超える者を肥満者とみなしています。BMIが30を超える人間についてイメージを持っていただくため,いくつかの例を挙げましょう。上記の式に依拠して,7つの身長ごとに,BMI30に相当する体重(kg)を計算してみました。

 ①:身長1.60mの場合 → 体重76.8kg以上
 ②:身長1.65mの場合 → 体重81.7kg以上
 ③:身長1.70mの場合 → 体重86.7kg以上
 ④:身長1.75mの場合 → 体重91.9kg以上
 ⑤:身長1.80mの場合 → 体重97.2kg以上
 ⑥:身長1.85mの場合 → 体重102.7kg以上
 ⑦:身長1.90mの場合 → 体重108.3kg以上

 私と同程度の身長(④)の場合,体重91.9kg以上が肥満と判定されます。どうでしょう。原資料に書かれているような,"obese"(でっぷり肥った)という形容がまさにふわしい人間です。WHOの資料に載っている各国の肥満率は,BMIが30を超える"obese"な者の比率のことです。

 2008年の日本の場合,この意味での肥満率は,成人男性で5.5%,成人女性で3.5%です。しかし米国の場合,順に30.2%,33.2%にもなります。この国では,成人男女の3人に1人が,上の例のような肥満者ということになります。

 これは2国の数値ですが,他の多くの国も交えた比較を行いましょう。横軸に成人女性,縦軸に成人男性の肥満率をとった座標上に,189の国をプロットしてみました。日本を含む主要先進国の位置を読み取っていただければと思います。点線は,189国の平均値を意味します。


 いやー,上には上がいるものです。米国とて,189国の中でみれば,成人の肥満化の程度は「中ほど」というところです。右上にあるのは,男女双方の肥満率が高い社会です。太平洋の南西部に浮かぶナウル共和国の肥満率は,男性は67.5%,女性は74.7%にもなります。この島国では,成人の約7割がBMI30超の肥満者です。

 ほか,図の右上には,クック諸島,トンガ,パラオ,サモアなど,太平洋南部の島国が位置しています。これらの国における成人の肥満化は,日本や米国のような先進国の比ではありません。また,女性の肥満率が男性よりもかなり高いことも特徴です。マーガレット・ミードの『サモアの思春期』では,この島における「女性の男性的性質」というようなことが明らかにされていますが,こういう(逆)ジェンダーも影響しているのでしょうか。

 さて,上図では,われわれに馴染み深い主要国の傾向が,左下の部分に凝縮されてしまっています。そこで,ピンク色の枠内を拡大した図もつくってみました。下図がそれです。


 この図では,米国や南米諸国が右上に位置しています。アルゼンチンは,肉の生産量が多い国ですよね,一方,原点に近い左下には,日本や韓国のようなアジア諸国やアフリカ諸国がプロットされています。ヨーロッパ諸国は,だいたいその中間です。

 図中の国名の位置から予想されることですが,各国の肥満化の程度は,経済発展の程度と関連しているようです。WHOの資料では,各国を経済発展の程度に応じて4つにグルーピングし,それぞれの肥満率の平均がとられています。ピンク色のドットから分かるように,富裕国の群ほど,肥満率が高いゾーンに位置しています。肥満とは,豊かさの病理であることも知られます。

 国際比較は面白いものです。自分の国の立ち位置が分かると同時に,現象の社会的性質をも把握させてくれます。現在は,諸々の国際機関の原統計がネット上で見れるようになっています。今回使った"World Health Statistics"も然り。この資料は,大学院生の頃,松本良夫先生と自殺の国際比較研究を行った際に,統計局統計図書館で閲覧した覚えがあります。でも今は,そうした手間はかかりません。WHOのサイトにて,PDFファイルで全文を閲覧することができます。

 私は,自前で下手に代表性の低い調査などをするよりも,信頼のおける公的調査の結果をしゃぶり尽くすことが大切であると考えています。そのための環境は着々と整備されてきています。こうした条件を使いこなせるようになりたいと思います。公的統計は,国民の共有財産なり。近く,『国勢調査』のオーダーメード集計の発注に挑戦してみるつもりです。
http://www.stat.go.jp/index/seido/2jiriyou.htm

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