2015年8月15日土曜日

無解答率

 毎年,文科省の『全国学力・学習状況調査』が実施されていますが,子どもの学力を測る指標として最もよく使われるのは,各科目の平均正答率です。

 しかし,もう一つ面白いメジャーがあります。それは,無解答率です。思考を放棄して,解答欄を空白で出す者の割合ですが,知識を問うA科目よりも,知識を活用させるB科目で,この比率は高くなっています。

 考えるのが面倒くさい,ということでしょうね。B科目の問題は結構ひねられており,対象の児童・生徒に考えさせる問題となっています。2014年度の小学校6年生の国語Bでは,以下のような設問が盛られています。詳細は,下記サイトでご覧ください。


 覚えた知識を即答させるようなものではなく,考えて選ばさせる,書かせる,という形式です。この手の問題に出くわすと思考が停止し,解答欄を空白で出す児童もいるわけです。東京の公立小学校6年生の場合,各設問の無解答率は,上から順に8.6%,3.7%,5.6%,9.1%,8.6%,5.2%,5.2%,6.5%,20.7%,27.7%となっています。最後の記述式問題の無解答率は,3割近くにもなります。

 これらの率を平均すると,10.1%となります。この値は,子どもの思考停止尺度とみなすことができますが,秋田の値はわずか3.5%です。この県では,とにかく何かしらの考え・意見を書く児童が,大都市の東京より多いようです。

 同じ値を全県について計算してみました。国語Bと並ぶ,もう一つの活用科目である算数Bの無解答率平均も出しました。下表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをし,上位5位の数値は赤色にしています。


 無解答率が県によって違っており,国語Bでは3.5~11.4%,算数Bでは1.6~5.4%のレインヂがあります。双方とも,無解答率が最も低いのは秋田です。討議型の授業,家族の会話の頻度が高いなど,他人の意見を咀嚼し,自分の考えを表明する機会が多いためでしょうか。

 一方,大都市やその近郊県では無解答率が高くなっています。国語Bのマックスは三重の11.4%,算数Bは神奈川の5.4%です。

 都市部では,早期受験をする子どもが多く,点数がとれるようなテクニックを身につけさせる授業をしてくれ,という要望が多いと聞きます。塾通いが多いので,家族の会話の頻度も,先にみた秋田よりは少ないことでしょう。

 表の右端には,各県の公立小6児童の通塾率を掲げています。塾や家庭教師について勉強していない者の比率を,全体(100.0)から差し引いた値です。通塾率と無解答率の相関をとると,面白い傾向が出てきます。


 通塾率が高い県ほど,国語の活用科目での無解答率(思考停止率)が高い傾向にあります。相関係数は+0.680であり,1%水準で有意です。算数Bの無解答率と通塾率は,+0.588という相関です。

 点数主義の弊害,通塾による家庭生活の浸食といった要因だけでによるのではないでしょうが,その可能性を全面否定することはできますまい。

 自分の頭で考えないこと,権威者や識者に盲従すること・・・。これは非常に恐ろしいことです。安保法案問題が頭をもたげている昨今にあっては,それをとくに強く感じます。学力のメジャーである平均正答率だけでなく,思考停止の尺度である無解答率にも注目しなければならないと思いました。目下,県レベルの分析しかできませんが,個票データを使って無解答率の要因を析出するのは,重要な課題でしょう。

 2020年頃には,『全国学力・学習状況調査』のローデータが,一部抽出分だけでも利用可能になっているか・・・。それが実現する日を,私は夢にまでみます。