日本は,学用品に恵まれない子どもが多いそうです。
http://www.from-estonia-with-love.net/entry/pc-in-jp
この記事によると,8つの学用品(机,パソコン,辞書,教科書…)のうち4つ未満しか家にない生徒の割合は,日本は5.6%であり,OECD加盟国の中で4位となっています。
日本は経済大国であると同時に,子どもの貧困大国でもあるといいますが,それを象徴するデータですね。上記記事のデータソースは,OECDの「PISA 2006」です。今から10年以上前のデータですが,最近ではどうなのか。最新の「PISA 2015」のデータで追試をしてみようと思います。
「PISA 2015」の生徒質問紙調査では,13の学用品を提示し,それぞれが家にあるかを尋ねています(Q11)。調査票の質問のスクショを掲げましょう。調査対象は,15歳の生徒です。
http://www.oecd.org/pisa/data/2015database/
全部持っている子もいれば,2・3個しかないという子もいるでしょう。学用品に恵まれない子どもを取り出すためのラインをどこに引くべきか。「PISA 2006」では4個未満としていますが,尋ねている品目の数も違うので,この基準を流用するわけにはいきません。
個票データを加工して,家にある個数の分布を観察することから始めましょう。13の品目全てに有効回答を寄せたのは,64か国の40万584人です(小地域は除く)。家にある学用品の個数の分布は,下表のようになっています。
中央に山があるノーマル分布ではなく,上方に偏っています。最も多いのは10個です(13.86%)。右端の累積相対度数から,ちょうど真ん中の生徒(中央値)も10個であることが知られます。
どうやら,10個というのがフツーの生徒であるようです。しからばその半分の5個に満たない生徒をもって,学用品に恵まれない子としましょう。上表の分布でいうと,その割合は5.37%です。
当然,この割合は国によって大きく違っています。たとえば,メキシコでは20.30%(5人に1人)にもなります。一方,北欧のデンマークでは0.85%しかいません。
この国際基準(13個中5個未満)を適用して,64か国の15歳生徒のうち,学用品に恵まれない子どもが何%いるかを計算してみました。下表は,高い順に並べたランキングです。
トップはアルジェリア,2位はインドネシアです。この2国では,15歳の4人に1人が学用品剥奪状態にあるとみられます。当然ですが,上位には発展途上国が多くなっています。
しかし,表をちょっと下がると日本が出てきます。学用品に恵まれない子どもの割合は5.23%で,64か国中17位。主要国の中では,アメリカを抜いてトップです。
下位のほうをみると,ロシア,ラトビア,ポーランドなどがありますが,共産主義の名残りでしょうか。
しかし,日本とアメリカが主要国の中でトップだとは…。両国はGDPが世界トップレベルの経済大国で,多くの富を有しているのですが,それが子どもの生活には届いていないと。
上表から,OECD加盟の34か国を取り出し,各々の名目GDP額(2015年)と絡めてみると,下図のようになります。アメリカはGDPがぶっ飛んで高いので,横軸は端折っています。GDPの出所は,総務省『世界の統計2017』です。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm
単純に考えれば,多くの富を持っている(GDPが高い)国ほど,学用品剥奪状態の子どもは少なくなるように思えますが,さにあらず。メキシコとトルコを除くと,プラスの相関関係すら見受けられます。
為政者は,富が増えると使い方を誤る性を持っているのか。GDPが低くとも,原点付近の社会のほうが,子どもにとって「生きやすい」という見方ができなくもありません。
学用品という所持の点でも,日本の子どもの「貧しい」状態が露わになりました。冒頭の品目表のうち,日本の子どもの所持率が際立って低いのは,パソコンと勉強用のソフトウェアです。これは,教育のICT化の遅れの表れですが,それが進んだ国では,こういうアイテムも必需品とみなされるのでしょう(生活保護世帯にも支給される)。
日本も,状況は変わっていくでしょう。社会の変化に伴い,何を必需品(奢侈品)をみなすかのラインは,絶えず変えていかないといけません。
現状でいえるのは,日本は,豊かな富と子どもの貧困を併せ持った,何とも奇妙な社会である,ということです。