2018年4月17日火曜日

関係の貧困と国語の得意度

 『AERA』の4月16日号に,「経済的貧困ではない『関係の貧困』が子どもの読解力に影響」という記事が出ています。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180413-00000045-sasahi-life

 無料塾に集まってくる貧困家庭の子どもをみると,読解力に乏しい,数学の計算問題はできるが文章題になるとできない,LINEでの細切れ単語の会話に浸っており文章を構築できない…。こういう傾向があるとのこと。

 その原因として,家庭での「関係の貧困」があるのではないか,と推測されています。貧困家庭では親子のコミュニケーションが少なく,子どもはネットで好きなコンテンツを見てばかり。自分の世界に籠る。その結果,未知のものに触れ,何かを読み解くことも減ってしまうのではないかと。そして,ズバリ次のように言われています。

 「家族の中での会話量が大事。親の長時間労働が問題ということです」。

 グサッときますねえ。しかし,的を射ているような気もします。とりわけ読解力や文章力となったら,こういう因果経路は強いでしょう。おカネを払って参考書を買ったり,塾に通ったりすることで,一朝一夕に見につくものではありません。対人のコミュニケーションの量がモノをいいます。記事のタイトルの通り,経済的貧困よりも「関係の貧困」が影響するでしょう。

 非常に興味深い説ですが,データで可視化されるでしょうか。国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動等に関する調査』(2014年度)では,小4~6年生の児童に「家の人とその日の出来事について話すことがどれほどあるか」と尋ねています。
http://www.niye.go.jp/kenkyu_houkoku/contents/detail/i/107/

 この問いへの回答を,勉強の得意度とクロスさせてみましょう。経済的貧困のレベルを統制して「関係の貧困」の影響を取り出すため,年収が400万以上600万未満の家庭の子に対象を絞ります。小4~6年生の場合,年収のボリュームゾーンはこの階層です。

 下図は,クロス集計の結果を帯グラフにしたものです。両方の設問に有効回答を寄せた,1931人の児童のデータによります。


 カッコ内はサンプルサイズですが,家族とよく話をする児童が多くなっています。「あまりない」「ない」という子は,全体の2割ほどしかいません。まだ小学生ですからね。

 4つの群の勉強の得意度(自己評定)をみると,家族とよく話をするグループほど,勉強が得意という子が多くなっています。家族と話をする頻度が最も高い群では,52.3%が勉強が得意と答えていますが,会話頻度が最低の群では28.3%しかいません。

 これは家庭の年収を揃えた比較で,塾通いの費用負担能力のような,家庭の経済力の影響は除かれています。家庭でのコミュニケーション頻度の影響を示唆する,一つのデータとみてよいでしょう。むろん,統制すべきファクターは他にもあるでしょうが。

 上記は,勉強全体の得意度とのクロスですが,勉強といってもいろいろな教科があります。先ほど紹介した記事では,「関係の貧困」と読解力の関連が強いことがいわれていますが,そうであるならば,国語の得意度との相関が強そうですね。

 国立青少年教育振興機構の調査では,9つの教科を提示して,それぞれが得意かを訊いています。座学の教科(国語,算数,社会,理科)について,得意と答えた児童の割合を計算してみました。家族との会話頻度による4グループの得意率をグラフにすると,以下のようになります。


 算数・社会・理科は,家族との会話頻度と得意率の間に明瞭な相関関係はみられません。理科は,ほぼフラット(無関係)です。家庭の年収を一定化しているためでしょう。

 しかし国語だけは,右下がりのクリアーな傾向が出ています。家族とよく会話するグループほど,当該教科が得意な児童の比率が高くなっています。

 これはあくまで自己評定で,国語の実際の学力は別物ではないかという異論もあるでしょうが,国語の平均点との相関関係も見受けられます。
https://twitter.com/tmaita77/status/985825901194588160

 国語だけは,経済的貧困よりも「関係の貧困」の影響が強いようです。冒頭の『AERA』の記事で言われている通りですね。読解力や文章力というのは,座学での学習で身につくものではありますまい。他者と向かい合って言葉をかわす,生きた実践で鍛えられるものです。

 最近では,SNSやLINEを介したコミュニケーションの比重が増していますが,細切れの単語や隠語を多用する形式では,長めの文章を書く訓練にもなりません。

 リアルなコミュニケーションの効能も見直したいですね。言語能力の形成途上にある年少の子どもの場合は,とくにです。小さい子どもは,主な生活の場が家庭で「重要な他者」は家族(親)ですので,親子の会話が重要となります。

 子どもに問いを発し,それを咀嚼(読解)させ,理性のツールの言語で応答させる。こういう経験を,意図的に積ませたいものです。それが為される場は,かしこまって向かい合う勉強部屋である必要はありません。食卓をはじめとした,日々の自然な生活の場でいいのです。

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