2018年11月12日月曜日

夫と対等以上稼ぐ妻

 「犬を飼いたい,引っ越そう」という風が心の中で吹き荒れ,ダックスフンドの動画を見たり,ペット可の物件をサーチしたりする,だらけた日々が続いています。明日,遠方の沼津市の物件の内覧に行く予定です。

 おかげで,ブログやツイッターの書き込み頻度が減っています。まあ,一過性のものですのでご心配なく。扶養家族?ができたら,今の稼ぎをちょっと増やさないといけないので,生活は嫌でも引き締まりますし。

 ツイッターで発信したグラフが拡散されていますので,それをネタに話をしましょう。「夫と対等以上稼ぐ妻の割合の国際比較」です。ISSPが2012年に実施した『家族と性役割の革新に関する調査』では,「あなたとパートナーでは,どちらが多くの収入を得ていますか」と問うています。Q22です。個票データは,下記リンク先でダウンロードできます。
http://www.issp.org/data-download/by-year/

 調査票の原文のスクショを載せましょう。やや見にくいですが,ご寛恕のほど。


 私は,25~54歳の女性を取り出し,選択肢の1~4を選んだ人の比率を計算しました。1~7の有効回答をした人の中でのパーセンテージです。夫と対等,ないしはそれ以上稼いでいている妻の割合ということになります。

 日本でいうと,1~7を選んだ有効回答者213人のうち,1~4の人は12人です。比率にすると5.6%,18人に1人です。予想通り,夫と対等以上稼ぐ妻は,ごく少数ですね。妻の稼ぎが一定額を超えると,夫が配偶者控除を受けられなくなる制度もありますし。

 しかし,他国はそうではありません。上記調査の対象は41か国ですが,同じ値を計算し,高い順に並べたランキングにすると,以下のようになります。ツイッターで発信したのはこれです。


 日本の5.6%は,41か国の中では最低です。われわれは慣れ親しんでいる状況(常識)は,世界では普遍的でも何でもありません。国際標準でみたら,特異な部類に属します。中高のジェンダーフリー教育の教材として,生徒にこういうのを見せるといいかもしれませんね。

 アメリカでは34.8%,フランスでは40.4%,上位3位のスイス・ポルトガル・インドでは,半分以上の妻が「夫と対等以上の稼ぎがある」と回答しています。スゴイですね。

 インドは「?」マークが付くのですが,怠ける男性が多いのでしょうか。あるいは,ある方がツイッターで言われていましたが,調査対象となった女性にバイアスがあるのかもしれません。人口超大国のこの国では,精緻なサンプリングもなかなか難しいと思われます。

 先に記したように,わが国では,妻の稼ぎが多すぎると損をするという,配偶者控除制度があります。それを意識した働き方をしている女性も多く,25~54歳の非正規女性(既婚)の46.7%が「就業調整」をしていると答えています(『就業構造基本調査』2017年)。

 今年からそのラインが103万円から150万円に引き上げられましたが,果たして稼ぎの額の問題でしょうか。配偶者の稼得能力が低い場合,主たる家計支持者の所得控除をしようという制度なんですが,現実のところ,女性の稼得能力を抑え込ませる形に機能しています。私としては,稼ぎの額ではなく,稼ぎが少なくなざるを得ない事由を,控除の要件にすべきかと思います。子育て,介護,病気等です。

 ところで,夫と対等以上稼いでいる妻の心の内は様々でしょう。ガシガシ稼げて充実感を得ている人もいれば,夫がだらしないので自分があくせく働かないといけない,という不満を持っている人もるかと思います。

 幸福感とのクロスをして,この点を垣間見てみましょうか。上記調査では,「今の生活をトータルに考えて,自分はどれほど幸福と思うか」と訊いています(Q24)。選択肢は7つですが,最も強い「Completely happy」と「Very happy」の回答比率をとってみます。

 夫と対等以上稼いでいる群(A群)とその他の群(B群)に分け,当該の比率を計算してみました。以下の表は,国別の一覧です。右欄の数値は,%の母数となったサンプル数です。カナダ,イギリス,日本はA群のサンプル数が少ないので(50人未満),左の幸福率は参考程度に見てください。


 A群よりもB群の幸福率が高い国が25か国となっています。しかし,その逆の社会もあり,福祉先進国のデンマークでは,A群が57.4%,B群が45.0%と,前者のほうが12.4ポイント高くなっています。夫と対等以上稼いでいる妻の幸福度が高いようです。

 日本はA群のサンプルがわずかですので参考値ですが,日本もこの部類に入ります。

 傾向を見いだすのは難しいですが,資料として掲げておきます。「こういうことではないか」という,お気づきの点がありましたら,ツイッター等でお教えいただけますとありがたいです。

 ただ,白河桃子氏も言われていますが,専業主婦は,貧困やDV被害と常に背中合わせです。夫にしがみつかないといけないわけですので。それから解き放たれている女性の幸福率が高いというのは,分かる気がします。

 女性の就業意欲や稼得能力を抑え込んでいると言われる,配偶者控除制度を見直せば,最初のグラフに示される日本の状況も変わるでしょうか。この制度は,「妻は仕事はほどほどにして家事,夫はフルに仕事」という,ジェンダーメッセージを発していることは,よく指摘されます。

 労働力不足の時代にあって,配偶者控除のラインがああだこうだと言って,女性の就業を抑え込んでいる場合ではありません。個々の家庭にしても,夫婦の二馬力でないとやっていけません。それが不可能でないことは,今回の国際比較の統計から察することができるかと存じます。