2019年9月11日水曜日

避難所指定学校の防災機能の都道府県比較

 先日,台風15号が関東地方に襲来しました。横須賀に上陸したのは9日の午前2時頃。暴風雨の音で眠れず,アパートも揺れ,恐怖を感じました。

 夕刻のウォーキングでこの辺を歩くと,屋根瓦が飛び,2階のベランダがごっそりもぎ取られている家屋が見受けられます。人手不足で修理業者もすぐには来てくれないでしょうから,当分の間,殺伐とした風景を見せられそうです。

 被害が甚大で,家屋が倒壊したり,ライフラインの断絶が長引いたりするようであれば,避難所での生活を強いられます。避難所に指定されているのは地域の公共施設,その代表格は学校です。

 学校には広い校庭や,雨露をしのげる体育館があるためですが,空間やハコがあるだけではダメで,生活に必要な物資が備蓄されていることが望ましい。

 文科省の統計によると,今年4月1日時点において,避難所に指定されている公立学校は全国に3万349校あります。小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校です。これらの学校のうち,6つの資源(防災機能)を保有している学校のパーセンテージは以下のごとし。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/bousai/1420466.htm

 1)備蓄倉庫 ・・・ 78.1%
 2)飲料水 ・・・ 73.7%
 3)非常用発電機等 ・・・ 60.9%
 4)LPガス等 ・・・ 57.1%
 5)災害時利用通信 ・・・ 80.8%
 6)断水時のトイレ ・・・ 58.3%

 この数字の意味合いは分かりませんが,炊事や暖をとるのに必要なガスや,人間の生理を処理するのに欠かせない断水トイレの保有率が低いのは,痛手であるように思います。

 しかし地域差があり,石川県では避難所指定学校(以下,学校)の全てがLPガスを備えており,鳥取県の学校の断水トイレ保有率は100%となっています。上記の文科省資料に,6つの防災機能の保有率が都道府県別に出ていますので,その一覧をご覧に入れましょう。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。鳥取県は,5つの機能の保有率が全国一となっています(LPガスだけ陥落しているのはどういう事情か?)。石川県もスゴイ。避難所指定学校の防災機能が充実している県です。

 対して郷里の鹿児島県をみると,すべての機能の保有率が全国値を割っています。うーん,台風や水害が多い県なんですがね。活火山の桜島も擁しています。

 6つの防災機能の保有率を合成して,各県の避難所指定学校の防災機能充実度を評価する単一尺度を作ってみましょう。値の性質が違うので,6つの数値を単純に平均することはできません。そこで,それぞれの数値を0.0~1.0の範囲の相対スコアに換算します。最低値を0.0,最高値を1.0とした場合,いくつになるかです。以下の式で計算します。

 相対スコア=(当該県の値-最低値)/(最高値-最低値)

 鹿児島県の備蓄倉庫保有率は58.6%ですが,これを相対スコアにすると,(58.6-35.4)/(100.0-35.4)=0.359 となります。47都道府県の分布幅(0.0~1.0)の中で,どの辺に位置するかの表現です。

 こうすることで6つの保有率を同列に扱うことができ,平均するのも可能になります。鹿児島県の6つの保有率スコアを平均すると0.242となります。本県の避難所指定学校の防災機能充実度を測る総合尺度です。防災機能指数ということにしましょう。

 このやり方で,47都道府県の避難所指定学校の防災機能指数を計算しました。高い順に並べてみます。


 トップは石川県の0.941です。上記の一覧表で分かるように,6つの機能の保有率とも,バランスよく高くなっていますので。避難所指定学校の防災機能の最優良県なり。鳥取県は,LPガスの保有率が陥落しているのがネックになりました。

 石川県に次ぐのは東京都。首都圏直下型地震への警戒か,そもそも財政に比較的余裕があるためなのか。東海大地震の被害が懸念される静岡県も上位5位に入っています。本県の教員採用試験では毎年,学校防災の問題が出ます。

 表の右下に目を移すと,防災機能指数が低いのは西南で多いようです。郷里の鹿児島はワースト4位。鹿児島,沖縄,長崎…。これらの県の離島部は台風銀座とも言われているのですが。

 上表の指数を地図に落としてみると地域性も浮き出てきます。0.5と0.6で区切った3段階で塗り分けてみました。


 東日本大震災に見舞われた宮城県,東海・中部,四国地方において,避難所指定学校の防災機能指数が高くなっています。首都圏大地震,東海大地震,南海トラフ地震への警戒ゆえでしょうか。

 対して中国や九州は真っ白。台風がよく通り,豪雨による水害に見舞われやすいエリアでもあります。「備え」を充実させたいものです。

 ただ専門家も言われるように,避難所の機能を学校だけに任せるのはいただけません。「寺や神社,民間企業」なども分担すべきでしょう。求められるのは,防災体制の組織化です。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/541492/

 今回は生活物資(施設)の保有率という点で,47都道府県を比べましたが,ジェンダーの視点による評価も欠かせません。避難所生活で生じるニーズは,女性と男性では違いますので。ジェンダーの視点による都道府県比較は,日本女性学習財団機関誌『We Learn』の8月号でやっています。興味ある方はどうぞ。