2019年9月29日日曜日

女性のフルタイム就業率と出生率の相関

 首都の東京では出生率が上がっているのですが,都内の地域別にみるとトレンドは一様ではありません。都内23区でみると,出生率が上がっている区があれば,その逆の区もある。前者には,都心の区が多くなっています。

 前回の記事で明らかにしたことですが,「子育てに専念できる,リッチな主婦世帯が多いからだろ」という意見がありました。確かに富裕層が多いエリアですが,そうなんでしょうか。

 私は都内23区別に,子育て期の有配偶女性のフルタイム就業率を計算してみました。25~44歳の有配偶女性のうち,労働力状態が「主に仕事」の人のパーセンテージです。労働力状態が不詳の人は分母から除きます。資料は,2015年の『国勢調査』です。

 下表は,高い順に23区を並べたものです。加えて,出生率のランキングも明らかにしました。人口当たりの粗出生率ではなく,出産年齢の有配偶女性ベースの出生率です。2015年の出生児数を,25~44歳の有配偶女性数で割って出しました。分子は『東京都統計年鑑』(2015年),分母は上記と同じく『国勢調査』(2015年)から得た数値です。


 既婚女性のフルタイム就業率が最も高いのは,中央区ではないですか。港区は順位は下のほうですが,率は42.2%と23区の平均値よりは高くなっています。タワマンひしめくエリアで,優雅な主婦世帯が多いというのではなさそうです。

 これらの区は所得水準が高いのですが,2馬力の共働き世帯が多いからでしょう。夫婦とも稼ぎが多い,パワーカップルも多いものと推測されます。

 前回もみたところですが,これらの区の出生率は高し。港区は首位,中央区は3位です。この出生率は,出産年齢の既婚女性をベースにしたものであり,都心部には子育てファミリーが多い,という類の事情は除かれています。

 上表のデータをもとに,2つの変数の相関図を描くと以下のようになります。


 出産・子育て期の既婚女性のフルタイム就業率と出生率は,有意なプラスの相関関係にあります。地域単位のデータですが,「働く女性が増えると出生率が下がる」なんてどの口が言った,という感じですね。

 出産・育児にはお金がかかりますが,二馬力でガシガシ稼ぐ世帯が多い区で出生率が高いというのは,まあ理に適っています。ちなみに大阪市の24区のデータでも,同じ傾向が検出されます。
https://twitter.com/tmaita77/status/1177530453709881346

 来月から保育の無償化政策が始まりますが,認可園に入りやすいのは,夫婦とも正社員の世帯なり。首尾よくわが子を保育園に入れたら費用はタダ,それで余裕ができて更なる出産ができる…。こういう構図が強まるかもしれません。

 保育の無償化政策は「富裕層の優遇だ」という声がありますが,具体的にはこういうこと。これが進んだら,出産と経済力のリンクがますます強まることになります。意図せざる結果,政策の逆機能です。

 政府としては,費用負担を軽減することで出産増を狙っているのでしょうが,保育所の定員枠は手付かずのまま。入園競争は以前よりも激化し,入れた世帯と落ちた世帯の落差も大きくなります。この政策は,子持ちの世帯を分断(separate)して,政府への反旗を抑えようという意図でもあるのかと,勘ぐりたくもなります。

 何度も申していますが,無償にしても入れなければどうしようもないのです。

 増税で得られた財源は,保育園の入所枠を増やすことに使うべきでした。具体的には,保育士の待遇改善です。予想ですが,保育の無償化政策は,直ちに機能不全(逆機能)を露呈することでしょう。舵の転換を考えていただきたいと思います。