2022年2月11日金曜日

ロスジェネを教員に

  教員不足が言われています。佐賀県は,小学校教員採用試験を春・秋と,年2回実施するのだそうです(昨日の読売新聞)。夏に受験できなかった人,ないしは他の自治体で不合格になった人を,秋試験で受け入れられますね。

 2021年度の公立小学校教員採用試験(2020年夏実施)の受験者は4万3448人,採用者は1万6440人。競争率は前者を後者で割って2.64倍です。後で述べますが,私の頃と比してだいぶ下がっています。当然,自治体による差もあります。地域差はあまり報じられませんので,私が計算したデータをご覧に入れましょう。

 下の表は,2021年度の小学校試験の競争率を都道府県別に算出し,高い順に並べたものです。政令市は,所在する県の分に含めています。たとえば横浜市の受験者,採用者は神奈川県に含めています。資料は,文科省『公立学校教員採用選考試験の実施状況』です。


 全国値は2.64倍ですが,県による違いがあります。今でも5倍越えの県は3県,マックスは高知の6.85倍です(受験者918人,採用者134人)。

 その一方で13の県で2倍を割っており,最低の佐賀では1.42倍です(受験者280人,採用者197人)。逆の角度で言うと合格率は70%,受験者の7割が通ると。受験者にすれば有難いですが,採用側の心中は穏やかではないでしょう。新規採用者の質の担保も難しいと,頭を抱えているかと思います。それで夏・秋の年2回,採用試験を行うことにしたと。

 リクルートの裾野を広げる上で妙案だと思いますが,上の世代にも目を向けてほしいと思います。われわれロスジェネです。大学卒業時が不況のどん底で,教員採用試験の競争率がものすごく高く,優秀であっても夢破れて教員になれなかった人が多くいます。2000年度の公立小学校採用試験(1999年夏実施)の競争率は12.53倍でした。県別にみると,もっと凄まじい値が出てきます。


 私の頃のデータですが,多くの県で10倍を超えています。20倍を超えるのは11県。マックスの和歌山は54.17倍にもなっていて,何かの間違いではないかと,原資料を何度も確認しましたが,受験者325人,採用者6人という数字がバッチリ記録されています。

 現在,競争率が1.42倍と最も低い佐賀県も,当時は20倍超えでした。現在40代半ばになっていますが,優秀でありながらも,夢破れて教壇に立てなかった人が多くいるかと思われます。

 私の世代では,教員免許状を持ちつつもそれを活用していない,つまり教員になってない人は数で見てどれほどいるのでしょう。私は1999年春に大学を出ましたが,同年春の小学校教員普通免許状授与数は2万205件(文科省『教員免許状授与件数等調査』)。この世代は2019年に43歳ですが,同年の43歳の小学校本務教員は7437人(文科省『学校教員統計』)。単純に考えると,この世代の小学校教員免許活用率は36.8%です。残りの63.2%,実数で見て1万2768人は,いわゆるペーパーティーチャーであると。私もそのうちの一人です。

 小学校教員免許状を持ちつつも,それを使っていない。ロスジェネには,こういうペーパーティーチャーが,上記の数を5倍して6万人はいるのではないでしょうか。採用試験がものすごく厳しかった世代ですので,優秀な人も多く含まれているはずです。最近,地方公務員や国家公務員採用試験で,ロスジェネ限定試験が実施されるケースが増えていますが,教員採用試験でもやってみたらどうでしょう。「夢よもう一度」と,優秀な人材が押し寄せるかもしれません。

 そのためには制度改正も必要で,この世代が有している,失効した教員免許状を回復させる措置が必要です。教員免許更新制の廃止は決まりましたが,失効した教員免許状の回復措置がないならば,幅広い世代からの応募は叶いません。現在,なり手が不足している産休代替教員を募る上でも欠かせません。

 2019年春に,朝日新聞から「ロスジェネ救済策」について取材を受けましたが,今だったら,教員をはじめとした「公」の仕事への吸収促進を,と答えていたでしょう。