2021年3月3日水曜日

大学の選抜度と女子学生比率

  暦の上では春になりました。しかし北風の強い,寒い日が続いています。春らしく暖かい日が続くようになるのは,もうちょい先でしょうか。

 昨日の日経新聞によると,東京大学は新執行部(学長,副学長,理事)の9人のうち5人を女性にするとのことです。ねらいは,意思決定に多様な視点を取り入れると同時に,女子学生を増やすことにあるのだそうです。

 東京大学のHPの公表統計によると,2020年5月時点の学部学生数は6257人,うち女子は1214人となっています。女子の率は19.4%,2割にも達しません。東大の学生生活実態調査のバックナンバーによると,2000年11月時点の学部の女性学生比率は17.5%です。この20年間で女子学生率はほとんど変わっておらず,執行部の構造を変えないといけない,ということになったのでしょうか。

 なお全国の大学生の女子比率は45.5%で,偏りはほとんどありません(2020年5月,文科省『学校基本調査』)。あまりいい言葉ではないですが,選抜度の高い大学ほど,女子学生の率が低いのではないか,という仮説が浮かびました。

 これを検証したいのですが,全国の大学を偏差値別に仕分けする気力はありません。ここでは簡便に,①最高峰の東京大学,②旧帝大,③国立大学,④大学全体,という4つの群を設定し,各々の学生の女子比率を出してみます。

 上述のように①は19.4%,④は45.5%です。②の旧帝大は,北大・東北大・東大・名大・京大・阪大・九大の学部学生の女子比率を出します。ソースは,各大学のHPです。③の国立大学のデータは,『学校基本調査』で知れます。

 結果は下表のごとし。2020年5月時点の数値です。

 予想通り,選抜度が上がるにつれ,学生の女子比は下がってきます。大学全体では45.5%,国立大学では36.8%,旧帝大では27.7%,東大では19.4%,という具合です。

 はて,これはどういう事情なのか。戦前期と違って,大学受験のチャンスは両性に等しく開かれています。学生のジェンダー・アンバランスは,入試での合格率の性差なのか,それとも女子の受験生そのものが少ないのか。

 この点を吟味するには,受験者と合格者の性別人数が必要です。東京大学は,後者の男女別の数は公表していますが,前者は非公表です(why?)。西の雄の京都大学は,両方の男女別の数を出していますので,これを使いましょうか。2020年度の学部一般入試の「合格者数/受験者数」を,男女別に示すと以下のようです。

 男子=2147人/5477人=39.2% 

 女子=  578人/1628人=35.5%

 合格率は,男子のほうが4%弱高いですが,有意差のレベルではありません。分母の受験者をみると,男子が5477人で,女子は1628人で,受験する段階で人数に大きな性差が出ています。女子は男子に比して,難関大学にトライする子が少ない(学力は同じであっても)。教育社会学の用語で言うと,事前に「自己選抜」をして降りてしまうと。

 私が高校の頃,九大に行ける力があるのに,「女子だから地元の鹿大にしなさい」と,親に言われていた生徒がいました。こういう圧力は,女子をして自己選抜に向かわしめる典型要因といえます。

 上記の性別データは,京都大学全体のものですが,最難関の医学部医学科に限ると,入試の合格率は男子が43.4%,女子は29.8%と,明瞭に男子のほうが高くなっています。これなどはフェアな競争試験の結果で,理系学力の性差を持ち出したくなる人もいるでしょう(女子の点数を操作していたという,私大医学部のとんでもない不正もありましたが…)。

 確かに「PISA」などの国際学力調査をみても,理系教科の平均点は日本の場合,「男子>女子」となっています。しかしですね,これとても,思春期・青年期のジェンダー的社会化の影響ともとれるのです。「PISA」と並んで有名な学力調査「TIMSS」は,小4と中2を対象としていますが,算数(数学)で625点以上とった児童生徒の女子比率は,小4では49%,中2では44%,となっています(TIMSS 2015)。

 小4の時点では,算数がバリバリできる児童は男女半々なんです。これが中2になると,44%にちょっと下がります。その後はどうかというと,高1を対象とした「PISA 2018」によると,数学的リテラシーがレベル6以上の生徒の女子比は35%です。そして大学になると,たとえば医学部の女子比率は2割弱という有様です。

 加齢につれて,女子が劣勢になってきますが,「女子が理系なんて…」などというジェンダー・プレッシャーに晒されて,ということも考えられます。

 上に掲げた,選抜度別の大学生の女子比率から話が広がりましたが,こういうファクトを男女の学力差などと解釈せず,日本のジェンダー・クライメイトの中で「つくられる」ものである,という視点が大事かと思うのです。ちなみに前の記事で書きましたが,理系学力が「男子>女子」というのは,国際的にみると普遍的でも何でもありません。むしろ特異です。

 女子の自己選抜,理系教科ができる群の中での女子比率の低下…。これを自然なことと,放置してはなりますまい。ジェンダーの視点から,メスを入れられるべきことです。