前回みたように,近年のわが国の自殺率は低下しているのですが,若者の自殺率だけは上昇しています。今回は,この点について分析を深めた2つの図表をご覧に入れようと思います。
まずは,性別の変化図です。今世紀以降,20代の自殺率が高まっていることを知ったのですが,それが顕著なのは男性と女性のどちらでしょう。私は,1999年と2012年について,20代の各年齢男女の自殺率を計算し,それをつないだ折れ線を描いてみました。
自殺率とは,自殺者数をベースの人口で除した値です。分母の人口は総務省『人口推計年報』,分子の自殺者数は厚労省『人口動態統計』から得ています。双方とも,1歳刻みの細かい数値が公表されています。
この13年間の自殺率の伸びが著しいのは男性のほうです。23歳男性の自殺率は,1999年の23.4から2012年の35.4へと,10ポイント以上も増えています。学校から社会への移行期ですが,おそらく「シューカツ失敗」自殺の増加でしょう。
よくいわれる「シューカツ失敗」自殺ですが,やっぱり男子に集中する度合いが高いのだなあ。寅さんではないですが,「男はつらいよ」です。
次に,どういう動機での自殺が増えているかです。まあ,上記の図からだいたい想像つきますが,警察庁の動機別自殺者の統計にあたって,数を明らかにしてみました。
警察庁の『自殺の概要資料』では,2007年版より,細かい動機別の自殺者数を計上しています。52もの動機カテゴリーが設けられ,各々に該当する自殺者の数が掲載されています。なお,一人の自殺者の動機が複数にわたることもありますので,原表に載っている数値は延べ数であることに留意ください。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm
下表は,20代の動機別自殺者数を,2007年と2012年とで比較したものです。最近5年間の変化をご覧あれ。
予想通り,最も増えているのは「就職失敗」という動機での自殺者です。この5年間で,60人から149人へと2.5倍に増えています。生活苦による自殺が倍増していることも注目されます。
こうした憂うべき傾向の原因としては,新卒一括採用,ブラック企業による搾取などが想起されます。いずれも,社会の側の原因なり。その意味で,近年の若者の自殺増は,社会病理現象であるととれるでしょう。
以下に,前回からの分析の知見をまとめます。
①:近年,若者の自殺だけが増えている。
②:若者の自殺増加が著しいのは,都市よりも地方である。
③:性別にみると,自殺の増分の多くが男性によって担われている。
④:増えている動機は,就職失敗や生活苦といったもの。
既存統計で詰めることができるのはここまですが,病巣がどこにあるのかをより精緻に明らかにし,そこに重点を置いた対策が求められるところです。