水曜日の授業終了後,某機関の記者さんとお話しました。雇用の崩壊,暮らしの破壊の問題を追いかけておられる,「アツイ」お方です。
働く人間のワーキングプア化が社会全体にどういう問題をもたらしているかについて語り合ったのですが,そこで聞いたところによると,最近の高卒者の進路に変化がみられるのだそうです。どういう変化かというと,大学進学者の減少,就職者の増加です。
親世代の所得が低下していますから,進学はさせられない,早く就職してくれ,ということなのかもしれません。なるほど。親世代の収入減(ワープア化)による,子どもの教育機会の剥奪という問題に通じます。
興味を持ったので,文科省の『学校基本調査』の統計にあたってみました。下表は,最近3年間の高卒者の進路統計です。①卒業生数,②大学等進学者数,③専修学校進学者数,および④就職者数の推移が示されています。②には短大進学者,③には職業訓練機関等への進学者も含みます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
確かに,大学進学者は減り,就職者は増えています。就職者は2010年では16.7万人でしたが,2013年の春では18.4万人であり,増加倍率にすると1.1倍です。これは,ベースの卒業生数の伸びを上回っています。
この傾向をどうみるかは,人それぞれでしょう,記者氏と私の関心に引き寄せていえば,「親世代の所得低下・ワープア化→子世代の教育機会の剥奪・不平等」という図式になりますが,「大学なんて行っても仕方ない,早く就職したほうがいい」というような,大学への見限りが強まっているとも読めますよね。表にあるように,大学と同じく学費がかかる専修学校への進学者は増えていますから。
考察を深めるため,どういう地域で「大学進学の減少,就職の増加」が顕著かをみてみましょう。私は,47都道府県の大学等進学者と就職者の数が,2010年から2013年にかけてどう変わったかを調べました。下表はその一覧であり,この3年間で何倍になったかという倍率も出しています。
大学等進学者は,増減倍率が0.95未満の数値に青色のマークをしています。大学進学者の減少が比較的顕著な県です。東北,山陰,北九州というように,多くが地方県ですね。
就職者のほうは,倍率が1.15を越える数値に黄色のマークを付しました。この3年間にかけて,就職者の増加が際立っている県です。マックスは長野で,2,592人から3,242人へと1.25倍になっています。
さて,双方のマークがついている県はというと,北海道と福井です。これらの道県では,全国統計で観察される「大学進学の減少,就職の増加」という傾向が,比較的際立っていることが知られます。
この2地域だけでは心もとないので,もう少し基準を緩めて,類似の県をもっと取り出してみましょう。下図は,横軸に大学等進学者,縦軸に就職者の増減倍率をとった座標上に,47都道府県をプロットしたものです。
赤色のゾーンにあるのは「進学減少,就職増加」の傾向がクリアーな県,黄色ゾーンはそれに準じる県です。前者には,先ほど検出した北海道と福井が位置していますが,後者まで範囲を広げると該当する県は11になります。いずれも地方県ですね。
教育機会の剥奪か,大学への見限りかという問題ですが,これら11道県の一人あたり県民所得(2009年度)の平均値は250万円であり,全県平均の255万円をちょっと下回っています。高卒者の「進学減少,就職増加」が進んでいるのは,所得が低い県のようです。
ちなみに,横軸の大学等進学者の増減倍率と県民所得の相関係数を出すと,+0.520となります。所得が低い県ほど,最近3年間の大学・短大進学者の減少幅が大きい,という傾向です。就職者の増減と所得は無相関でしたが,教育機会の剥奪説を支持する材料は結構出てきます。東京や神奈川といった大都市では,大学進学者が増えているし・・・。
しかるに,大学への見限り説も捨てがたし。記者さんの話によると,地方某県の進学校において,公務員試験受験希望の生徒が増えいているそうな。進学校でです。これなどは,「大学なんぞ出ても仕方ない。早く就職しよう」という意向の表れととれるでしょう。
上図の赤色ゾーンにある北海道と福井では,どういう事態になっているのかなあ。関係者に取材とかしたらいいかも。何のツテもない私が頼んでも断られるでしょうから,記者氏に提案してみようかしらん。
この記者氏からは,他にも興味深い現象(キーワード)を教えられました。今回取り上げた「高卒者の進路変動」は,そのうちの一つです。随時,統計でウラをとり,この場で報告していけたらと思います。