2013年10月13日日曜日

若者の起業

 組織に雇われて働くのもいいですが,自分で会社を興したい,事業を立ち上げたい・・・。こういうアンビシャスな若者もいることでしょう。飲み屋でこういう野心を吹聴するのは簡単ですが,それを具現している者はどれほどいるのでしょうか。

 毎度使っている『就業構造基本調査』では,起業者の数が計上されています。自営業ないしは役員のうち,現在の事業を自分で興したという者です。25~34歳の若者に焦点を当てて,起業者がどれほどいるのかを調べてみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 2012年調査の結果によると,同年10月時点の25~34歳の有業者は1,204万人です。このうち,上記の意味での起業者は24万人ほどとなっています。比率にすると2.0%,50人に1人というところです。

 5年前の2007年では,同年齢層の起業者は33万人であり,有業者中の比率は2.8%でした。若者の起業は,実数・率ともに減っていることが知られます。2008年のリーマンショックなどを経て,自己防衛の気風が高まっているのでしょうか。そういえば,「増えぬ若者の起業 失敗の代償大きく」と題する記事もあったな。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC02006_S3A800C1NN1000/

 それはさておき,2012年現在の若年起業者の素性を少し解剖してみましょう。まず関心がもたれるのは,どういう産業において起業が多いかです。私は,103の産業について,25~34歳の有業者中の起業者比率を計算してみました。

 有業者全体では2.0%ですが,この値は業界によって大きく異なっています。下表は,1~50位までのランキング表です。比率は,‰で出しています。当該産業の有業者1,000人につき起業者が何人かです。赤線は,全産業の起業者比率(20.2‰)の位置を表します。


 トップは専門サービス業で152.3‰です。この業界では,25~34歳の有業者の7人に1人が起業者ということになります。最新の標準産業分類をみると,専門サービス産業の例として,「法律事務所,特許事務所」,「公認会計士事務所,税理士事務所」,「デザイン業」,「著述・芸術家業」などが挙げられています。
http://www.stat.go.jp/index/seido/sangyo/19index.htm

 なるほど。デザインの会社を立ち上げたなんていう若者の話はよく聞きます。ほか,興信所や通訳案内所なども含まれるようです。

 次に多いのは,インターネット付随サービス業で102.4‰,10人に1人です。IT系の起業は多いという印象を持っていましたが,数値でもそれが確認されます。農業や建設業といった現業系での起業も多いですね。

 配達飲食サービスや訪問介護といった,社会的需要の増加が見込まれる業種での起業(赤字)にも注目。先日,買い物難民を救済する事業を立ち上げた若者がテレビに出ていましたが,「いい仕事をしているな」という感想を持ちました。

 次に,若者の起業が多いのはどの地域かをみてみましょう。私は,25~34歳の有業者中の起業者比率を都道府県別に出し,地図化してみました。若者の起業の地はどこか。若者の起業マップをご覧ください。


 ほう。若者の起業頻度は地理的にみると「西高東低」になっています。郷里の九州なんかは,ほとんどが濃い青色じゃん。若者の起業の地は西にあり。

 はて,こういう若者の起業者率の地域差はどういう要因によるのでしょう。人間形成の影響を想定して,各県の後期中等教育(高校)段階での職業教育比重との関連があるのではと考え,高校生の専門学科生徒比率(2012年)との相関をとってみました。しかるに,算出された相関係数は+0.005であり,無相関でした。

 やっぱり,若者の起業支援にどれほど本腰を入れているかという,政策の影響かしらん。若者の起業者比率トップの山口では,「山口起業カレッジ」なるものを毎年開校している模様です。国レベルでは,起業に伴うリスクの緩和など,いろいろ策を講じているようですが,その熱の入れようは地域によって多様でしょう。
http://www.yamacci-college.com/

 現在,ブラック企業が社会問題化していますが,こうした悪が蔓延る原因の一つは,「ここしか働き場所がない。ここを辞めたらもう後がない」というような状況に若者が追い込まれていることだと思います。

 「仕事がないなら自分で興そう」,「人を騙して儲けるような仕事をする(させられる)くらいなら,社会的意義のある仕事を自分で立ち上げよう」・・・。こういう若者の志を後押しする事業を社会はなすべきであり,そうした取組の進展具合は,若者の起業頻度で冷徹に測られることになります。

 各県や業界は,若者の起業率のような指標にもっと関心を持ってよいでしょう。