最近,一般入試で学生を多く入れている学部ほど正規就職率が高いとか,早い段階からゼミを必修にしている学部は退学率が低いとかいう記事をよく見かけます。それだけ,大学の「教育効果」というものに関心が集まっているのでしょう。
しかるに,この手の議論をする際,まずもって統制(control)すべき変数があります。それは入試難易度です。このような①インプット要因を揃えた上で,教育実践の有様(②スループット)と就職率なり無業率なりの③アウトプットの関連を追求する必要があります。
私もこういう分析をしたいと思い,現在独自のデータベースをつくっているところですが,①と③のデータ入力作業がだいたい終わりました。ここにて,両者の関連の一端をご覧に入れましょう。中抜けになりますが,後ほど②も加えた精緻な分析を行うための足がかりにしたいと思います。
読売新聞教育部『大学の実力2014』(中央公論新社)から,全国の大学の学部別の退学率を知ることができます。私は,私立大学の各学部(4年制)の退学率が,それぞれの入試難易度(偏差値)によってどう変異するかを明らかにしました。
上記の資料には,2種類の退学率が掲載されています。在学期間中(4年間)の退学率と初年次退学率です。以下の式で算出したとあります。
・在学期間中の退学率=2013年3月までの退学者/2009年4月の入学者
・初年次退学率=2013年3月までの退学者/2012年4月の入学者
私立大学の場合,最初の在学期間中の退学率が分かるのは1,215学部です。このうち,学習研究社の『大学受験案内2014』にて,入試偏差値が判明するのは1,192学部なり。
http://hon.gakken.jp/book/1130386100
私は,この1,192学部を偏差値の高低に依拠して4群に分かち,各群の在学期間中の退学率分布を調べました。下図は,折れ線による分布図です。*偏差値算定不能のBF(ボーダーフリー)の学部は,40未満の群に含めています。
偏差値が低い群ほど,分布の山が高いほう(右側)にシフトします。40未満の群でいうと,10~11%台の階級が最多です。この群では,413学部中111学部(26.9%)が,在学期間中の退学率20%超となっています。
各群の退学率の平均値を出すと,偏差値40未満群は15.6%,40台群は9.9%,50台群は5.7%,60以上群は3.5%,というようになります。リニアな傾向です。私立大学の学部別の退学率は,やっぱり偏差値と関連しているようです。
次に,初年次退学率も加味してみましょう。初年次退学率とは,入学後1年を待たずして辞めた者の比率です。上記の1,192学部全てについて,こちらの退学率も知ることができます。
私は,横軸に在学期間中の退学率,縦軸に初年次退学率をとった座標上に各学部をプロットした図を,偏差値の群ごとにつくりました。偏差値と2種類の退学率の関連を俯瞰できる仕掛けです。赤色のドットは,現在私が教えに行っている学部です。
ほう。偏差値が低い群ほど散らばりが大きく,偏差値が上がるにつれてドットが原点付近に収斂してきます。このことの意味について説明は要りますまい。偏差値と退学率の相関という,巷でいわれていることがくっきりと可視化されています。
教育社会学の理論に,「配分→社会化」理論というのがあります。人がある組織に配分されると,当該組織に向けられた社会的な眼差し(役割期待)に沿うような形において社会化される,というものです。高等学校の場合,制服という明瞭なシンボルがありますから,このような効果はいっそう強いと考えられます。
大っぴらに書くのは憚られますが,社会学の観点からは,こうした集団による「外的拘束性」の作用が厳として存在することを指摘しないわけにはいきません。
しからば,各大学での実践はまったく無力なのかというと,決してそういうことはありません。図から分かるように,どの群の布置構造をみても,ある程度のバラつきが観察されます。こうした差異は,各学部の偏差値のようなインプット要因とは別の要因によって生じています。各学部の教育実践も,その中に含まれるでしょう。
なずべきは,各群内部のバラつきの要因を明らかにすることです。読売新聞社の『大学の実力2014』には,入試形態はどうか,ゼミを必修にしているか,経済的支援をどれほどしているか,というような情報が学部別に掲載されています。入試偏差値や専攻(文/理系)といった条件を揃えた上で,これらの実践要因と退学率や無業率との関連を分析したら,興味ある知見が出てくるかもしれません。今後の課題にしたく思います。
さしあたり,もうちょっと,中抜きの「インプットーアウトプット」関連の分析を続けましょう。次回になるかは分かりませんが,今度は,偏差値と無業者輩出率の相関分析をしてみようと思っています。