2015年7月2日木曜日

若者の自殺率の都道府県比較

 社会の危機状況の指標として注目される自殺率。近年,人口全体の自殺率は減っていますが,若者の自殺率だけは伸びています。この点については,前にデータで示したところです。

 就職失敗自殺,ブラック企業,展望不良…。最近の若者を取り巻く状況を思うとさもありなんですが,地域による差もあるでしょう。白書等では全国のデータしか示されませんが,彼らの危機状況のレベルは地域によって異なると思われます。

 そこで今回は,若者の自殺率を都道府県別に出してみようと思います。こういうデータは,あまり見かけませんよね。各県の若者施策担当者の方々の参考になればと思います。

 自殺者数といえば厚労省の「人口動態統計」ですが,最近は,公表データがとても充実してきており,死因別・年齢層別のデータが県別に公表されています。私は最新の2013年の資料にあたって,各県の20代の自殺者数を採取しました。原表は,下記サイトの表2です。県ごとにエクセルファイルが分かれているので,数値を取り出すのに手間がかかりました(笑)。

 首都の東京でいうと,2013年中の20代の自殺者は312人です。「人口推計年報」から分かる,同年10月時点の東京の20代人口は約169万人。よって,この年の20代の自殺率は,ベース10万人あたりの数にして18.5となります。

 このやり方で,47都道府県について,2013年の20代の自殺率を計算しました。下の表は,値が高い順に並べたランキング表です。


 トップは秋田で32.0であり,その次が被災県の福島の31.4です。上位5位のうち4県が東北県となっています。一方,同じ東北の青森は最下位です。その次に低いのは,南端の沖縄。首都の東京も,若者の自殺率は相対的に低いようです。

 県別の若者の自殺率は,分子が多くないので,安定した傾向ではないのでしょうが,2013年の資料から算出された,県別の20代の自殺率はこのようなものです。

 秋田は子どもの学力も首位なのですが,能力に見合う活躍の場を得られないでいる若者が欲求不満を募らせているのでしょうか。本県は子どもの学力が高いにもかかわらず,大学進学率は低い水準になります。おそらくは,経済的障壁が大きく立ちはだかっているとみられます。このことは若者をして,希望と現実のギャップに由来する焦燥,マートン流にいうとアノミーの状態に据え置くのに十分でしょう。6位の福井も,このような状況にあるのかもしれません。

 福島と宮城については,2011年の震災の影響を疑ってみる必要があります。この未曽有の災害によって,若者の生活基盤が破壊されたことは,誰もが認めるところです。

 以上は20代の自殺率の比較ですが,言わずもがな,若者だけを全体の文脈から切り離すのは好ましくありません。各県の人口全体の自殺率も比較軸に据え,若者の特徴を検出してみましょう。若者の自殺率が全体よりも高いならば,当該の県では,危機が若者に集中する度合いが高いといえます。

 私は,2013年の人口全体の自殺率を横軸,縦軸に20代の自殺率をとった座標上に,47都道府県をプロットした図をつくりました。


 下の実斜線は均等線であり,この線よりも上にある県は,全体よりも若者の自殺率が高いことになります。数としては,ちょうど半分ほどです。自殺は若者ではわずかとみられがちですが,最近の統計でみると,半分ほどの地域で若者の自殺率高が目立っているのです。

 中でもとりわけ要注意と判断されるのは,点斜線よりも上に位置する県です。若者の自殺率が全体よりも5ポイント以上高い県で,先ほど言及した秋田と福井,そして被災2県がこのゾーンに入っています。

 福島と宮城は,全体の自殺率の相対順位は中ほどですが,若者の自殺率は上位です。2011年の大震災に由来する危機は,前途ある若年層に集中しているとも考えられます。

 北陸の福井は,この傾向がもっと顕著です。上述の秋田と似たような若者のアノミーがないか,点検してみる必要があるのではないでしょうか。

 繰り返しますが,若者の自殺率を県別に出す場合,分子が多くないので,安定した傾向を見出すのは困難です。上記のランク表も,年によってかなり変動することでしょう。「秋田や福井と同様,学力が高く,進学率が低い青森の自殺率はなぜ低いか?」と問われるならば,返答に窮します。データの精度を高めるのは,2013年の単年だけでなく,過去5年くらいの自殺率を揃えることが求められます。

 今回お見せしたのは,その前段に位置するラフデータです。そこから導かれる仮説的見解は,①若者アノミー,②震災危機の若年集中,という2点でしょうか。前者は,最近問題になっている教育格差・進学格差は,若者の生に影響する可能性を示唆するものです。これから精緻な検証を要する事項ですが,記録にとどめておきたいと思います。