2015年7月5日日曜日

47都道府県の保育タイプ

 古市憲寿さんの「保育園義務教育化」(小学館)という本が話題になっています。私はまだ読んでいませんが,内容の紹介文をみると,次のようにあります。
http://www.shogakukan.co.jp/books/09388430

 「保育園義務教育化はただ少子化解消に貢献するというよりも,社会全体のレベルをあげることにつながる。良質な乳幼児教育を受けた子どもは,大人になってから収入が高く,犯罪率が低くなることがわかっている。」

 へえ,すごいことがデータで分かっているのですね。知りませんでした。この中に「良質な乳幼児教育」とありますが,あらゆる段階の教育の中で,各人が受ける教育の質の差が最も出るのは,乳幼児期,すなわち就学前教育であるのかもしれません。この段階においては,父母の意向が強く反映されるのはいうまでもありません。

 私は,小学校に上がる前の就学前教育の構造がどうなっているかを,データで知りたくなりました。地域による違いにも興味を持ちます。厚労省の「国民生活基礎調査」の中に,この関心に応えるデータがありますので,それを分析してみましょう。具体的にいうと,乳幼児の主たる保育者に関する統計です。ここでいう乳幼児とは,就学前の子どものことです。

 最近,2013年の「国民生活基礎調査」は3年に一度の大規模調査ですが,乳幼児がいる世帯の世帯主に対し,当該子の主な保育者を尋ねています。6つの選択肢を提示し,当てはまるものを全て選んでもらう形式です。それによると,638万人の乳幼児の主な保育者は,下表のようになっています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html


 主に父母によって保育されている乳幼児が最も多く,全体の45%を占めています。その次が認可保育所で34%,3人に1人です。赤ちゃんも含む乳幼児全体でみると,わが国の就学前保育はまだ「父母型」なのですね。

 北欧国など他の社会がどうなっているかが興味深いですが,あいにく国際比較のデータはありません。しかし,国内の地域比較は可能です。上表は全国統計ですが,地域によって数字はずいぶん違うことと思います。私は,量的に多数を占める赤色のカテゴリーの比重に着目しました。「父母型」か「保育所型」か。この軸の上に,47の都道府県を位置付けてみようという試みです。

 各県の乳幼児のうち,主な保育者が父母である者と,認可保育所である者の比率をまとめてみました。


 全国値では父母が45%,認可保育所が34%ですが,この値がどうかは県によって大きく違っています。首都の東京は父母が49%,保育所が29%ですが,北陸の福井は順に29%,61%です。前者は父母型,後者は保育所型と性格づけることができるでしょう。

 ひとまず客観的な基準を設けることとし,保育所率から父母率を引いた値がマイナス10ポイントより低くなる県を父母型,プラス10ポイントより高くなる県を保育所型としましょう。右端は,この基準でそれぞれの県をタイプ分けした結果です。

 数でみると,父母型が20,保育所型が11,どちらにも該当しない中間型が16となっています。各タイプが地域的に固まっていることにも注目。首都圏や近畿では父母型が多く,日本海沿岸では保育所型が多くあります。地図にすると,この構造はもっとクリアーです。


 私型の保育(赤)と公型の保育(青)の塗り分けでもあります。このタイプ如何によって,子育て期の女性の就業率が大きく異なるのは,申すまでもありません。

 日本海沿岸で,働くママが多いのは,よく知られています。その理由として三世代世帯率が高いからだといわれますが,上図のような保育タイプの違いによる部分も大きいでしょう。しかるに私としては,こういう世代構造よりも,今見ているような就学前教育構造の影響が大きいのではないか,と思っています。この点については,6月21日の記事もご覧ください。女性の就業率に及ぼす,保育所効果と親族効果の大きさを比べています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/06/blog-post_21.html

 これから先,女性も重要な労働力となってくることは不可避であり,女性の就業チャンスを大きく規定する就学前教育(保育)の有様が大きな関心事となるのは,当然の成り行きです。

 しかるにもう一つ大事なのは,当の子どもの発育や人格形成との関連です。たとえば,父母型の保育を受けた者と保育所型の保育を受けた者では,青年期以後の人格形成や成人後の地位達成にどういう差異がみられるか。この点を解明した,追跡調査みたいなのはあるのでしょうか。

 子どもの学力が高い秋田や福井は,上の地図では青色です。主な保育者が認可保育所である乳幼児の比率(2番目の表のb)と,公立小学校6年生の算数Bの正答率(2013年度)の相関係数を出すと+0.352であり,5%水準で有意です。単なる疑似相関かもしれませんが,乳幼児期における集団的社会化の効果の可能性を消し去ることができますまい。

 冒頭の古市さんの本では,この点について詳しく書かれていそうで楽しみです。これから読ませていただきたいと考えております。乳幼児教育の有様は,母親の就業チャンスとの関わりで論じられることが多いのですが,本書は子どもの人間形成との関連に焦点を当てた本であると拝察します。楽しみです。

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