「別に珍しくはないじゃん」と思われるでしょうが,私にとっては,教えられる内容でした。それは,犯罪発生率の計算の仕方です。
犯罪率は通常,当該地域内で認知された事件の件数を,当該地域の人口で除して算出されます。人口あたり*件,という具合にです。このやり方で都内23区の犯罪率を出すと,都心部で高くなります。千代田区がダントツです。
しかし都心は昼間,他地域から大量に人口が流入してきますから,それだけ犯罪の件数は多くなります。千代田区の場合,昼間人口は夜間人口{定住人口)の15倍にも膨れ上がります。それでいて,ベースに使う人口は,流入人口を含まない夜間人口であると。これでは,都心の犯罪率がべらぼうに高くなるのは当然です。
上記の記事では,このような弊を排した計算方法が提案されています。「昼間人口+流出人口」をベースに充てる方式です。
昼間人口とは,夜間人口(定住人口)と流入人口の合算から,流出人口を引いた値です。字のごとく,昼間の人口です。これに,他地域に出て行っている流出人口を加えた数を分母に充てると。
都内の場合,通勤・通学による人口の地域移動がメチャクチャ激しいので,その影響を除去する必要があります。冒頭の記事で紹介されている犯罪率の計算方法は,それに適しています。
私はこのやり方で,2015年の都内23区の犯罪発生率を計算してみました。分子は2015年間の刑法犯認知件数であり,分母は同年3月の「昼間人口+流出人口」の推計値です。それぞれの出所資料のURLを記しておきます。
下表は,計算の結果です。犯罪発生率は,ベース1000人あたりの認知件数で示しています。
最高は台東区の13.2件,最低は中央区の4.1件となっています。前者は,後者の3倍以上です。赤字は上位5位であり,台東区,豊島区,江戸川区,渋谷区,新宿区の順です。
定住の夜間人口ベースの犯罪率とは,様相が全然違っていますが,各区の治安の指標としては,こちらのほうがよいのではないかと思います。
この新方式で出した犯罪率ですが,各区のどういう社会経済指標と相関しているか。「貧困と犯罪」という犯罪社会学の古典テーマを想起し,各区の平均世帯年収との相関をみてみましょう。前に,『住宅土地統計』(2013年)から計算した数値を使います。下記記事をご覧ください。
23区の平均年収と犯罪率は,有意なマイナスの相関関係にあります。年収が高い区ほど,犯罪率が低い傾向。これまでの夜間人口ベースの犯罪率では出てこなかった傾向が,出てきました。
警察の犯罪地域統計は,事件が起きた場所に基づく「発生地主義」なのですが,犯行者の居住地に依拠した「居住地主義」の統計にすれば,当人の生活条件と犯罪の関連がもっとクリアーになるでしょう。
発生地主義の犯罪統計からは,「犯罪を誘発する環境の浄化を」という提言しかできません。居住地主義の統計なら,当人をとりまく生活環境(貧困など)の改善に向けた動きを促すことができます。こちらの統計も整備していただきたいものです。
しかし現存の統計から,ピンとくる犯罪の地域構造を明らかにできました。『東京カレンダー』の記事には,教えられました。感謝申します。