「結婚・出産なんてぜいたくだ」。藤田孝典さんの名著『貧困世代』(講談社新書)の帯に,こんなフレーズが出ています。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062883580
そうですねえ。私も,男性の年収と未婚率の関連を繰り返し明らかにしてきましたが,その知見からしても,さもありなんです。若者の貧困化が進む中,結婚し子を持つことは,一部の層にしかできなくなっていることではないかと。
わが国では少子化が進んでいますが,「子を持てる(持てない)のは誰か?」という視点を据えないといけません。子育て年代を経済力のレベルで仕分けて,子がいる者の率を比較する。こういう分析も必要になります。今回は,それをやってみることにしましょう。国際比較で,日本の特徴も浮かび上がらせてみます。
データは,OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」です。成人の学力調査ですが,年収や子の有無といった事項も調査されています。分析対象は,30~40代の男性にしましょう。私の年代ですが,結婚して育児をしているパパもいれば,私のように未婚・子なしのオトコもいる。この分岐が経済力と関連しているのではないか。こういう仮説です。
http://www.oecd.org/skills/piaac/publicdataandanalysis/
まずは,この年代の男性のうち,子がいる者は何%かという基本事項を明らかにしましょう。日本は,子の有無を答えた1013人のうち,子ありの者は608人,比率にすると6割ちょうどです。戦後初期の頃なら8割,9割だったかもしれませんが,最近はこんなものでしょう。
上記調査のローデータから,25か国の数値を計算できます。下図は,高い順に並べたランキング図です。アメリカとドイツは年齢を訊いていないので,ここでの分析に含めることはできません。
日本は下から2番目です。最下位はイタリア。両国で少子化が進んでいるのは知られていますが,子育て年代の子あり率という指標でも,それが表れています。
では本題に入りましょう。分析対象の30~40代男性を収入レベルで群分けし,群ごとの子あり率を出してみます。上記の調査では,対象者に年収を尋ね,国全体の分布の中での位置に依拠した階層に割り振っています。以下の6つです。
Ⅰ Less than 10
Ⅱ 10 to less than 25
Ⅲ 25 to less than 50
Ⅳ 50 to less than 75
Ⅴ 75 to less than 90
Ⅵ 90 or more
これでは各群のサンプル数が少なくなりますので,3つにまとめましょう。ⅠとⅡを「下位25%未満」,ⅢとⅣを「中間」,ⅤとⅥを「上位25%以上」とします。
各国の30~40代男性をこの3群に分け,子がいる者の比率を計算しました。下表は,結果の一覧です。
日本の30~40代男性の子あり率は60%でしたが,年収階層別にみると大きく違っています。下位25%未満のプアが32.7%,ミドルが48.5%,上位25%以上のリッチが76.4%と,直線的な傾向です。
「プア < ミドル < リッチ」という傾向は多くの国で同じですが,傾斜が最も急なのは日本です。それは,リッチがプアの何倍かという倍率(右端)からうかがうことができます。日本は2.3倍で,他を圧倒しています。
リトアニアやスロベニアでは,階層格差がほとんどないですね。後者では,リッチよりプアが高いくらいです。国民皆平等の共産主義の名残りでしょうか。
日本は,経済力と結婚・出産の関連が最も強い社会,藤田さんが言う「結婚・出産なんてぜいたくだ」のレベルが,最も高い社会であるようです。*25か国の比較ですが。
しかし,日本のプア中年男性の子あり率は32.7%と,飛び抜けて低くなっています。これは,2つの局面に分けられるでしょう。1)低収入で結婚できない,2)子育てにカネがかかるので出産に踏み切れない,です。
1)については,女性が結婚相手の男性に高い年収を求めるからですが,女性は結婚すると稼げなくなるので,そうせざるを得ないのは道理。男女の収入格差を是正する,保育所の増設など,既婚女性の社会進出を促す条件を整える。これが対策になります。
https://twitter.com/tmaita77/status/930769137592184833
2)は,言わずもがなでしょう。日本の教育費はバカ高。前回記事の試算によると,標準コースでも,子を大学まで出すのにかかる費用は1000万円超えです。子を持てるかどうかが,経済力とリンクするのは当然です。
「結婚・出産なんてぜいたく,カネ次第」。こういう社会はいかにもおかしい。「貧乏人の子だくさん」という言葉があったように,戦後初期の頃まではわが国もそうではなかった。男性の給与が上がるという展望が開け,上級学校進学率も低く,教育費もかからなかったこと。自営業も多かったので,子は労働力という位置づけでもありましたから。
そのような条件がなくなっている現在では,国のテコ入れ(支援)が必要なわけです。教育の無償化は教育費(支出)の軽減策ですが,子育て世帯の収入を増やす施策も必要。児童手当のような支給型に加え,夫婦二馬力で稼げるようにすること,そのために欠かせないのが保育所の増設(保育士の待遇改善)ですが,先日公表された「新しい経済政策パッケージ」を見ると,この部分が蔑ろにされているようで,残念な思いがします。
http://tmaita77.blogspot.jp/2017/12/blog-post_9.html