2017年12月9日土曜日

教員給与の段階比較

 「新しい経済政策パッケージ」なるものが閣議決定されました。
http://www5.cao.go.jp/keizai1/package/package.html

 目玉は,幼児教育と高等教育の無償化です。前者についていうと,3~5歳の幼稚園・認可保育所の費用は一律無償,3歳未満は非課税世帯に限って無償にするそうです。ここにかなりの財源が投入されるのですが,懸案の保育士の給料はというと,月額3000円上がるだけ…。

 うーん。待機児童問題の原因は保育所不足,保育所不足の原因は保育士不足,保育士不足の原因は生活が成り立たぬほどの超薄給であること。すっかり知れ渡っていることですが,この部分を蔑ろにしていいものか。保育所を無償にしても,入れなければどうしようもないですからね。

 データを出すのも嫌になりますが,2016年の厚労省『賃金構造基本統計』によると,保育士の所定内平均月収は21.6万円で,46.7%,半分近くが月収20万円未満となっています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 この手のデータは至る所で提示されますので,「そんなもんだろう」という感覚が定着してしまっていますが,他の段階の教員給与と比較することで,その異常性を改めて浮き彫りにしてみましょう。

 幼稚園から大学までの各段階の教員給与は,文科省『学校教員統計』から知ることができます。最新の2016年度の統計から,平均月収と月収20万未満の者の割合を拾ってみます。ここでいう月収とは,諸手当は含まない本俸額です。高校以下のデータは,下記サイトの表15から拾うことができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001094519&cycode=0

 下表は,採取したデータの一覧表です。


 想像通りですが,上の段階ほど給与は高くなります。しかし,就学前と初等・中等教育の段差が大きいですねえ。平均月収は10万円以上,月収20万未満の薄給率に至っては全然違います。

 教員の年齢構成や学歴構成などの違いにもよるでしょうが,この落差はひどい。人格の礎が築かれる時期の教育(保育)には,高い専門性が求められるはず。にもかかわらず,ここまでの給与差があるのはどういうことか。

 上表のデータを二次元グラフにすると,就学前教育段階の外れっぷりがよく分かります。


 最も悲惨なのは,創設されて間もない認定こども園(幼保連携型)。そして,幼稚園と保育所が近い位置にあります。

 保育士の薄給問題に隠れて,あまり取り沙汰されることはないのですが,幼稚園教員の待遇の悪さも際立っています。幼稚園は,3歳から5歳の幼児の教育を行う「学校」ですが,そこで働く教員の大変さもよく言われます。小学校にもまして,モンスター・ペアレンツの出現度が高いとか…。

 それにもかかわらず,上図から分かるように,待遇は劣悪。そのせいかは分かりませんが,幼稚園教員の病気離職率は,小学校以降の段階に比して,各段に高くなっています。以下の表は,6つの段階の病気離職率です。2015年度間の病気離職者数を,同年5月時点の本務教員数で除して算出しました。前者の出所は『学校教員統計』(2016年度),後者は『学校基本調査』(2015年度)に出ています。


 あまり強調されることはないのですが,教員の問題が最も深刻なのは,就学前段階かもしれません。

 ここでご覧に入れたデータから,初等以降の段階に比して,想像以上の薄給であることが分かってしまいました。富裕層を優遇することにもなりかねない一律無償化よりも,保育士や幼稚園教員の待遇を改善し,待機児童問題の解消や「質」の担保に重点を置くべきかと思います。

 日本の高等教育費の対GDP比が低いのはよく知られていますが,就学前教育費の対GDP比も低し。2014年の国際統計によると日本は0.24%で,OECD加盟国では下から4番目です(OECD平均は0.84%)。
http://www.oecd.org/edu/education-at-a-glance-19991487.htm

 消費税アップで得られる財源を教育振興に充てるのは結構ですが,優先順位を誤らないようにしていただきたいと思います。