2015年の『国勢調査』の抽出詳細結果(産業・職業)が公表されました。これをもとに,細かい職業中分類別の生涯未婚率を計算することができます。
職業別の生涯未婚率は,2012年の『就業構造基本調査』をもとに出したことがあります。下記リンク先の記事ですが,本ブログで最も読まれています。結婚しづらい職業は? こういう関心があるのでしょうか。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/02/blog-post_9.html
3年を経た2015年の『国勢調査』のデータでは,どういう結果になるでしょう。それをご覧に入れようと思います。
生涯未婚率とは,字のごとく生涯未婚にとどまる人の割合のことで,統計上は,50歳時点の未婚率とされます。この年齢以降は,結婚する人はほぼ皆無であろう,という仮定を置くわけです。
5歳刻みの官庁統計から生涯未婚率を出す場合,40代後半と50代前半の未婚率を平均する,という便法がとられます。全職業の男性就業者でいうと,40代後半の未婚率は21.6%,50代前半は16.6%ですから,両者を均して生涯未婚率は19.1%となります。女性は14.1%となります。男性のほうが高いのですね。
これは全就業者の生涯未婚率ですが,職業別にみると,値にはバラツキがあります。男女差の傾向も違っています。
下記サイトの表7のデータをもとに,57の職業に従事する男女の生涯未婚率を計算してみました。配偶関係不詳者を分母から除いて出した,40代後半と50代前半の未婚率の平均値です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001097278&cycleCode=0&requestSender=search
40代後半~50代前半の就業者が1000人に満たない職業は計算を見合わせ,「**」としています。
25%(4人に1人)を超える数値には,黄色マークをしました。男性のマックスは包装従事者で63.2%で,女性は著述家・記者・編集者で35.4%となっています。男性は労務職,女性は専門職で生涯未婚率が高い傾向にあります。
うーん,私が関わった女性編集者さんには,未婚の方が結構いるような…。
右端の数値は,女性の生涯未婚率が男性の何倍かを表す倍率です。赤字は1.5倍超ですが,管理職や専門職で「男性<女性」の度合いが高くなっています。研究者もジェンダー差が大きく,男性は13.3%であるのに対し,女性は26.3%です(2倍)。
上表のデータをグラフにすると,生涯未婚率のジェンダー差の構造が分かりやすくなります。横軸に男性,縦軸に女性の生涯未婚率をとった座標上に,双方が分かる52の職業のドットを置いてみましょう。
斜線は均等線で,このラインより上にある職業は,生涯未婚率が「男性<女性」であることになります。
赤枠の内部にあるのは,女性の生涯未婚率の絶対値が高く,かつ性差が大きい職業です。著述家,編集者,アーティスト,研究者…。高度な専門性を要し,多大なコミットメントを求められる職業ですが,家庭との両立が難しい現実もあるでしょう。
ちなみに,2012年の『就業構造基本調査』では「医師」という職業カテゴリーがありましたが,この職業の生涯未婚率の性差は非常に大きなものでした(冒頭のリンク先記事参照)。2015年の『国勢調査』では,医師の生涯未婚率のジェンダー差が見れないのが残念です。
その代わりといっては何ですが,教員に注目してみましょう。教員も高度専門職で,生涯未婚率は男性より女性のほうがかなり高くなっています(男性10.5%,女性17.0%)。教員の激務はよく指摘されますが,女性にあっては,親のサポートが得られるなどの条件がない限り,家庭との両立は甚だ困難である面もあるでしょう。
ところで,教員の生涯未婚率は県によって大きく違っています。2015年の『国勢調査』では,職業別の生涯未婚率を都道府県別に計算することができます。下表は,教員男女の生涯未婚率を高い順に並べたランキング表です。
女性教員の生涯未婚率のトップは,わが郷里の鹿児島ではないですか。3割を超えています。中学の時,「小学校の先生になりたい」と言った女子生徒に,担任が「ヨメの貰い手がなくなるぞ」と言い放ったのを思い出します。
その一方で,当県の男性教員の生涯未婚率は7.2%。差が大きいですねえ。同じ九州の長崎は性差がもっと激しく,男性は最下位なのに,女性は3位です。女性教員の生涯未婚率は,男性の5倍以上です。
「女性教員の生涯未婚率/男性教員の生涯未婚率」の倍率を地図にすると,地域性が浮かび上がります。2倍未満,2倍以上3倍未満,3倍以上の3段階で,47都道府県を塗り分けると,以下のようになります。
むうう。九州県の多くが濃い色で染まっています。トップの長崎は5.3倍,郷里の鹿児島は4.3倍…。
男性教員は結婚しやすいが,女性はその逆。九州では,家庭生活において女性にかかる負荷が大きく,教員という激務の職業と「妻」の二足の草鞋を履くのが困難ということか。女性教員の側も,そんな生活は願い下げと思っているのかも。
最近の世論調査をみると,性別役割分業意識は九州はさほど強くなく,「九州は男尊女卑」ってのは昔のことで,今は変わった。こんなふうに言われますが,上記のような統計をみると,「まだまだ」っていう感じかなあ。
口先の意見ではなく,実際にどういう行動をとっているか。本ブログで繰り返しデータを示したように,男性の未婚率は所得とマイナスの相関,女性はプラスの相関関係にあります。職業別の散布図のグラフ(2番目)からも,それはうかがえるでしょう。
人間の行動は,とても正直です。世論調査の時系列データでもって,「性役割意識はかなり薄くなった」といわれますが,男女の結婚行動を子細に観察すると,上記の通りです。
人がどういう動いているかという事実(fact)に注目することの重要性を,強調しないわけにはいきません。