2017年12月29日金曜日

中学校の補助スタッフ数の国際比較

 日本の教員の激務は知られていますが,「教員免許がなくてもできる仕事はしたくない」。こういう思いでいる教員は多いでしょう。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-a126.html

 2012年の中教審答申で,教員は「高度専門職」と位置付ける方針が明示されました。専門職とは,特定の(狭い)業務に精通しており,業務の遂行に際して高度な自律性を認められた職業をいいます。

 しかし現実はそれとは遠く,各種調査への回答,給食費の徴収,部活指導など,まるで「何でも屋」のような扱いです。周囲からは専門職と仰がれ,自分自身もそう思いたいにもかかわらず,現実はそうではない。このギャップが,教員の心的葛藤をもたらしています。

 医師や自動車運転手をも凌ぐ長時間労働と同時に,心の内ではこうした葛藤が渦巻いている。このダブルパンチによって,教員は疲弊しきっています。

 願わくは,「教員免許がなくてもできる仕事」は教員以外の人間,いわゆる補助スタッフさんに担ってもらいたいもの。2013年にOECDが実施した国際教員調査「TALIS 2013」から,教員の業務をサポートするスタッフの数を国ごとに知ることができます。
http://www.oecd.org/edu/school/talis-2013-results.htm

 本調査では,各国の中学校の校長に対し,自校の教員数・スタッフ数を尋ねています。以下の5種類の人数を答えてもらっています(校長質問紙調査,問12)。

 a)教員
 b)授業等の補助スタッフ
 c)事務スタッフ
 d)管理職 *校長・副校長も含む
 e)その他のスタッフ

 私は,a~cの数値を国ごとに集計し,教員10人当たりでみて,補助スタッフ・事務スタッフが何人いるかを計算してみました。*ローデータの分析によります。

 日本でいうと,調査対象の192の中学校の教員数は8588人,授業等の補助スタッフは2673人,事務スタッフは1397人です。よって,教員10人あたりの補助・事務スタッフは4.7人となります。教員のおよそ半分です。

 はて,この値は他国と比してどうなのか。調査対象の32か国ついて同じ値を算出し,高い順に並べてみましょう。


 日本は下から4番目です。ざっと見て,教員と補助・事務スタッフが同じくらいという国が多くなっています。色をつけた主要国では,教員の1.5~1.7倍という国が多し。

 中南米の2国では,約2倍です。これらの国では,教員の総勤務時間に占める授業時間の比重が高い,つまり業務はほぼ授業に限定されているのですが,雑務を補助スタッフに委ねられるという条件の故なのでしょうか。

 32か国の平均値は,11.8人です。国際標準は,教員10人に対し,補助・事務スタッフは11.8人であると。後者が前者の半分にも満たない日本の状況は,アブノーマルのようです。

 なお日本国内でみても,学校の特性によって,値には幅があります。私は鹿児島の出身ですが,離島へき地では学校にスタッフがおらず,教員が何から何までしないといけない(だからへき地手当がつく!)。こういう話をよく聞きました。

 しからば,地方か都市の学校かで,上記の数値もだいぶ違うと思われますが,どうなのでしょう。日本の192の中学校を,所在する地域の人口規模で分け,教員10人あたりの補助・事務スタッフ数を計算してみました。


 人口が少ない小都市・村落では,教員あたりの補助・事務スタッフ数が少なくなっています。教員10人につき1人もいません。人口100万以上の大都市でも少ないですが,これはどういうことか…。

 ともあれ,日本では教員の業務をサポートするスタッフが国際的にみても少ない,ということが分かりました。「教員免許がなくてもできる仕事」を負わされ,教員の多くが肉体的に潰れ,心の内で葛藤を抱いています。

 まあ今回のデータは,2013年の国際教員調査のデータであり,来年(2018年)に実施される同調査では,違った結果になっている可能性はあります。「チーム学校」という枠組みの下,部活動指導員をはじめとした各種のスタッフが学校に導入されていますので。

 ただ,スタッフを増やして現状の膨大な業務を分担するというだけでなく,学校に課される業務そのものを減らす,という発想も必要でしょう。教頭等の管理職が一番負担に感じている業務は,国や教育委員会の各種調査への回答だそうです。

 確かに,無駄や重複が多いですからねえ。2年ほど前,都の先生方への講演をしたとき,某小学校の副校長先生が,「本当に無駄な調査が多い。『業務で負担なものは何ですか?』という設問があったが,よっぽど『てめえらの調査への回答だ!』と書こうと思った」とおっしゃり,思わず吹き出してしまいました。

 教員の負担を減らすには,1)補助スタッフを増やす,2)学校に課される業務を減らす,という2つの方策があり,どちらも進めないといけません。

 最初のグラフをもう一度見てほしいのですが,教員の勤務時間が短いイタリアやスペインも,教員あたりのスタッフ数は少なくなっています。推測ですが,これらの国では,学校に課される業務そのものが多くないのでしょう。こういう面の国際比較もできたらなと思います。