2018年3月16日金曜日

寡夫の自殺率

 デュルケムの『自殺論』は,社会学の古典中の古典として知られています。個々人の私的な事情は一切排斥し,自殺の社会的要因を手堅い統計分析で究明しています。
http://www.chuko.co.jp/bunko/1985/09/201256.html


 その基本的なトーンは,社会的連帯が弱まるほど自殺率は高くなる,しっかりとした集団につなぎ留められていない人ほど自殺しやすい,というものです。社会的存在としての人間の様が,データで示されています。「人は集団に属することなくして,自分自身を目的としては生きられない」とは,本書の名言です。

 本書では,18~19世紀のヨーロッパの統計をもとに,属性別の自殺率が算出されています。原書が出たのは19世紀末で,コンピュータはおろか,電卓すらなかった時代です。統計局の友人タルドの協力を得たとはいえ,手作業であれだけのデータを揃えるのは,膨大な労力を要したことでしょう。

 大昔の異国(フランス)の作品ですが,そこに盛られているデータは,現在の日本でも再現することができます。たとえば,配偶関係別の自殺率です。デュルケムは,配偶者と離別ないしは死別した人の自殺率がべらぼうに高い,としています。人とのつながりを持たぬ人,集団に属さぬ人は自殺しやすいという,自己本位的自殺(suicide égoïste)の根拠です。

 今の日本でもこのような傾向は見受けられますが,男女で分けてみると,興味深い事実が出てきます。2015年の統計をもとに,男女の配偶関係別の自殺率を計算してみました。分子は『人口動態統計』,分母は『国勢調査』から得ています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&result_page=1


 家族を持っている有配偶者で自殺率は低く,未婚者,離・死別者になるにつれ高くなります。この傾向は男女とも同じです。

 しかし,男性の離・死別者の自殺率は高いですねえ。とりわけ,若い寡夫の自殺率はハンパありません。働き盛りの男性が頑張れるのは,妻の支え(犠牲)があってのことなのでしょうか…。

 未婚男性の自殺率は,寡夫よりはかなり低くなっています。妻がいないのは同じですが,妻のサポートに依存し,それを失った男性のダメージが大きい,ということでしょう。

 上表の自殺率を折れ線グラフにしておきます。


 こういうデータをみると,「オトコは弱き者」という思いを禁じ得ません。「女性も自立の時代,自立支援を!」とか言われますが,本当に自立支援(別の意味での)が必要なのは,男性かもしれません。今後,離婚率も高まってくるでしょうしね。

 男女のジェンダー規範が強い社会ほど,こういう傾向が強いのではないかと思われます。国際比較をしたら,上記のようなグラフができるのは,日本だけではないでしょうか。

 あいにくその作業は叶いませんが,未婚男性の不幸感が際立って大きいのは日本の特徴ということは,前に示したことがあります。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5154.php

 日本は,女性が男性に頼っている社会といわれますが,実際はその反対なのかもしれません。

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