2018年3月23日金曜日

学生の結婚・異性交際

 型破りな広告で知られる近畿大学ですが,広報部長の世耕氏は次のように述べています。

 大学時代は,人生の最高の時。私の持論は“いい彼女が1人見つかったら,そいつの大学時代は楽しいはず”というものです。いくら勉強しても,彼女・彼氏が見つからないと4年間はつまらない」。
http://news.livedoor.com/article/detail/11236151/

 そうですねえ。青年期はアイデンティティ確立の時期で(エリクソン),そのための様々な試行錯誤を許されたモラトリアムの時期ですが,異性との交際の経験を得る,というのも大事なことかもしれません。

 青年期の後の前成人期では,人生を共にする伴侶を見つけることを期待されますが,欧米では,同棲(事実婚)といった「お試し」をする学生も多いのだそうです。10代の高校生でも,そういうことをする生徒がいるのだとか。

 ホントかよと思いますが,データで確かめてみましょう。用いるのは,内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)の個票データです。7か国の高校生・大学生のサンプルを取り出し,結婚・恋人の有無(F3)とのクロスをとってみます。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 本調査の対象は,13~29歳の若者ですが,生徒・学生の年齢構成の影響を除くため,25歳以上を外した,13~24歳を分析対象とします。この年齢層の高校生・大学生のサンプル数・平均年齢を整理すると,以下のようです。


 どの国も,分析の耐え得るサンプル数です(英仏の大学生は100人を割ってますが)。伝統的な在学年齢(25歳未満)に絞っているので,平均年齢にも大差はありません。

 では,これらのサンプルを使って,高校生・大学生の結婚・異性交際の状況をみてみましょう。無回答と,量的に少ない離別・死別者は分析対象から除外します。


 欧米では,結婚している生徒・学生が結構います。米英独仏では,結婚(事実婚含む)者の率は,大学より高校で高くなっています。フランスでは,高校生の3割近くが結婚しています。この国では,高校生でも「お試し婚」をするという話を何かの本で読んだ記憶がありますが,ホントなんですね。

 ピンクの「恋人はいる」までも合わせると,欧米の高校生の4~5割,大学生の5~7割が該当します。

 奥手なのは東アジアの2国で,日本では高校生の86%,大学生の81%が「恋人すらいない」と答えています。最近は締め付けが厳しくなっているので,勉強に忙しく,異性交際なんてするヒマがないのか…。学習時間の増加,交際時間の減少。学生の「マジメ化・ウチ化」現象は,前にデータで示したことがあります。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/06/blog-post_24.html

 上記のデータでは,日本の高校生・大学生で,結婚をしている者は皆無です。「卒業→就職→結婚→出産」というイベント順序が支配的で,それから外れると咎められる社会ですからね。

 しかしわが国でも少数ながら,学生結婚はあります。悉皆調査の『国勢調査』から,15~24歳の学生のうち,有配偶者が何%かを出せます。ここでいう学生とは,労働力状態が「通学のかわたら仕事」ないしは「通学」の者です。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&result_page=1

 1995年と2015年の数値を計算してみます。配偶関係不詳者は分母から除外して出したパーセンテージです。

 1995年 = 10,900/9,557,440 = 0.114%
 2015年 = 10,058/6,899,152 = 0.146%

 わずかですが,結婚している学生の出現率が上がっているではないですか。最近の統計では,この数値を都道府県別に算出できます。以下は,2015年の『国勢調査』から出した数値のランキングです。


 最高は沖縄の0.280%(357人に1人),最低は奈良の0.085%(1176人に1人)となっています。

 スウェーデンでは,大学内に託児所があり,学費も無償。出産育児と学業の両立ができる条件があるそうです。なるほど,上記の帯グラフにあるように,結婚している学生が3割もいるわけですよね(25歳未満のヤング学生に限っても)。
https://twitter.com/takebata/status/976722961259360256

 日本でも,子持ちの社会人学生がキャンパスに多くなれば,そういう条件を整えなくいけなくなるでしょう。子育てをしながら勉強する先輩学生の姿が,20歳そこそこのヤング学生にとってのモデルになり,異性交際・結婚・子育て生活への(見えざる)イントロになるかもしれません。

 日本の大学進学率は50%超で,若き青年男女の多くが大学に籍を置いています。この環境を操作することも,未婚化・少子化の解決に寄与するかもしれませんね。大学をして,同年齢の学生が勉強をするだけの場にしてはいけないでしょう。それでは中高と同じです。

 大学とは本来,異質で多様な「ストレンジャー」が出入りする場所なのです。