子どもの貧困が社会問題化していますが,とりわけ一人親世帯の状況は酷くなっています。日本の一人親世帯の相対的貧困率は半分を超え,世界でトップです。二人親世帯を前提に諸制度が組み立てられており,そうではない少数の一人親世帯に困難が凝縮する構造になっています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-8063.php
しかるに,一人親世帯といっても一枚岩ではありません。夫と離婚した母と子からなる母子世帯が大半ですが,母子世帯のお母さんの中には,結婚せずにずっと子どもを一人で育て続けている人もいます。いわゆる,未婚のシングルマザーです。
基幹統計の『国勢調査』から,母子世帯の数が分かります。定義は,母親と未成年・未婚の子からなる世帯です。2015年調査によると,この意味の母子世帯は75万4724世帯で,他の世帯員がいる世帯も含む母子世帯は106万2702世帯となっています。後者は,親と同居している世帯も含む,広義の数ですね。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&result_page=1
時代別・地域別のデータは,後者のものしか得られませんので,この広義の母子世帯数を使うことにしましょう。しかし上記の数値から分かるように,その多く(7割)は母子だけで暮らしている世帯です。
母子世帯の母親の配偶関係はどうなっているか。下表は,1995年,2005年,2015年の3時点のデータです。
少子化傾向とは裏腹に,母子世帯は増えてきています。1995年では73.6世帯でしたが,2015年では106.3万世帯です。
母親の配偶関係別にみると,増加幅が大きいのは未婚者です。母が未婚の母子世帯は,この20年間で4.8万世帯から17.7万世帯と,4倍近くに膨れ上がっています。全体に占める割合も,6.5%から16.6%へと大幅増です(下段)。最近では,母子世帯の6分の1が,未婚のシングルマザー世帯であると。メディアでよく報じられていることですが,統計でも確認されます。
これは全国の数値ですが,母子世帯の母親の未婚者比率には地域差があります。都市と地方では,かなり違っています。上記の3つの年次について,この値を都道府県別に計算し,高い順に並べたランキングにしてみました。
10%台はピンク,20%以上は濃いピンクにしましたが,全国的に未婚の母子世帯比率が高まっていることが知られます。1割を超える県は,1995年では1県でしたが,2005年では9県になり,2015年では全県が色で染まってしまっています。
東京・沖縄・大阪は,2割超です。東京と沖縄では,母子世帯の4分の1が,未婚シングルマザーとなっています。上位には都市的な県が多く,下位は農村県がほとんどです。県民の意識差なども大きいでしょうね。
未婚のシングルマザーというと,相手の男性に逃げられたとか,否定的なイメージが持たれがちですが,現実は多様です。ここで分析対象にしている母子世帯(他の世帯員がいる世帯も含む)には,もしかすると,婚姻届けを出さないでパートナーの男性と同棲している世帯も含まれるかもしれません。こういう世帯の母親は,統計上は未婚者と計上されます。
いろいろと縛りが生まれる法律婚を回避し,こういう事実婚を選ぶカップルが増えているといいますしね。
2015年調査のデータでは,都内23区別の未婚シングルマザー比率も出すことができます。「おや?」というデータですので,ご覧に入れましょう。
さすがは東京23区。全ての区の率が2割を超え,3割超の区も少なくありません(黄色マーク)。上位3位は,港・中央・千代田です。港区では,シングルマザーの半数以上が未婚者です。
富裕層が多い区ですが,女性の稼得能力が高く,かつ親も裕福なので,結婚せずに一人でやっているママさんが多いのでしょうか。あるいは,事実婚を選択しているキャリアウーマンが多いのか。
https://twitter.com/meimei881/status/997068132580651008
未婚のシングルマザーの増加は,いろいろな角度から眺めないといけませんが,法律婚をせずとも子育てできるようになるのは,望ましいことだと思います。「旦那はいらんが,子どもは欲しい」。こういう考えの若い女性は結構いるようで,これらの女性が出産に踏み切った場合,出生数は一気に団塊ジュニアの頃に回復するという試算もあります。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7974.php
よく知られているように,フランスやスウェーデンとかでは,生まれてくる子どもの半数以上が婚外子で,何の不利益も課せられていません。
ただ現段階で一番問題なのは,未婚のシングルマザーは,母子世帯が受けられる各種の支援の対象から外されていることです。理由は,法律で定める「寡婦」の定義に含まれないから。6月から法改正が始まり,保育料の軽減などは受けられるようになるそうですが,税控除の適用などは「寡婦」の定義を変えないといけないので見送り。
寡婦の定義変更について,政府関係者は「寡婦に未婚を対象に加えると,結婚してから出産するという伝統的な家族観に影響を与えかねない」と言っていますが(2/4,東京新聞),そんな伝統にしがみつく必要はどこにもありますまい。
先ほど,未婚のシングルマザーの華やかな側面の可能性を指摘しましたが,現時点では,そういう人は少数派でしょう。母子世帯の母親の年収は,夫との離別者や死別者と比して,格段に低くなっています。同じような生活条件なのに,寡婦とみなされないだけでこんなに差が出ているのは,異国の人の目からすれば「差別」としか映じないでしょう。
https://financial-field.com/tax/2018/03/15/entry-13835
お役人が言うようなつまらぬ「伝統」を払拭し,どういうライフスタイルを選ぼうが子を産み育てられる社会になればいいな,と願います。