2019年3月6日水曜日

暮らしのゆとり度

 前回は,47都道府県の区市部・郡部別に所得中央値を出しました。「ウチの県は内部地域差が大きい」「わが県は,郡部のほうが所得が高いのか」といった声が寄せられています。

 私が地域別の所得を何度も出すのは,富の地域格差を浮き彫りにしたい,という意図からです。そのたびに,「地方は家賃や物価が安いので,所得だけでは豊かさ(暮らしやすさ)は測れない」という意見をよくいただきます。

 仰せの通りです。私は鹿児島と東京の暮らしを知ってますが,たとえば家賃4万円だと,東京では1ルーム・ユニットバスの部屋を借りるのがやっと。ところが鹿児島だと,そこそこのマンションを借りれます。食料品等の物価も違います(本代や自販機のジュース代は一緒ですが)。

 所得をはじき出した後,固定経費の代表格である家賃を除き,さらに物価差を考慮して調整する必要がありそうです。私の年代の借家世帯に焦点をあて,その作業をやってみようと思います。

 2013年の総務省『住宅土地統計』から,借家世帯の年間収入と家賃月額の分布表を得ることができます。私は,主たる家計支持者が35~44歳である借家世帯について,年収と月家賃の中央値を計算しました。下表は,都道府県別の数値をまとめたものです。年間家賃(b)は,家賃月額の中央値を12倍して出しています。黄色は全県の最高値,青色は最低値です。


 世帯年収をみると,最高が東京の465万円,最低が沖縄の290万円です。予想通りマックスは東京です。しかし東京は家賃も高く,月額8万円,年間96万円なり。

 右端の数値は,世帯年収から年間家賃を引いたものです。これだと231万円から369万円の分布幅になり,世帯年収の地域差よりも縮まります。固定費の代表格の家賃を除いた結果です。しかし順位構造はあまり変わらず,東京が首位で,沖縄が最下位なのは同じです。
 
 あと一つ,加工を施します。地域の物価差を考慮すべく,年収から家賃を引いた額を,各県の消費者物価指数(家賃除く)で割ります。2019年の『日本統計年鑑』によると,2017年の鹿児島の消費者物価指数は0.97で,上表の285.7万円をこれで割ると294.5万円となります。物価が安い分,額面の収入がちょっと高く評価されます。

 対して東京は,消費者物価指数が1.025なので,上表の369.1万円は,360.1万円に下方修正されます。

 この数値が,家賃・物価を考慮して調整した収入額です。各地域の暮らしのゆとり度に,より接近した指標といえるでしょう。同じ数値を都道府県別に計算し,高い順に並べてみました。左欄は,加工を施す前の世帯収入中央値(上表のa)のランキングです。


 生の世帯年収と,家賃・物価調整額の対比するとどうでしょう。家賃・物価を考慮すると,東京は首位の座から引きずり降ろされます。

 代わって,北関東の茨城がトップに躍り出ます。収入はそこそこで,家賃や物価が地方県並みに安いからです。つくばエクスプレスなどで都心へのアクセスもよく,東京通勤者も多し。東京の会社でガッツリ稼げて,生活費のほうは地方県並みに安く上がると。いいとこ取りができる県ですね。

 郷里の鹿児島は,家賃・物価を考慮すると,ランクが結構上がります。逆に大阪は,ガクンと下がりますね。

 アラフォー借家世帯を切り取って,ラフなやり方で試算した「暮らしの豊かさ指標」ですが,いかがでしょうか。参考に与するところがあれば幸いです。こういう数値も,毎年公表してみるといいかもしれませんね。願わくは,県よりも下った市町村レベルのデータも出したいところです。