2020年4月5日日曜日

性別・地位別・学歴別の所得グラフ

 「またか」とお思いでしょうが,工夫を凝らしたグラフを作ってみました。ツイッターで発信したところ,やや注目されているようですので,元データを併せてブログにも載せます。

 私は今年で44歳のオトコで,学歴は大学院卒。同じ属性で,正社員として勤務している人は,さぞ稼いでいるだろうなあと思います。見たくもないですが,毎度使う『就業構造基本調査』でデータを出せちゃいます。「年齢 × 性別 × 従業地位 × 学歴 × 所得」のクロス表があるのです。

 40代前半の大学院卒の男性正規職員を取り出して,年間所得(税込み)の分布をとると以下のようになります。最新の2017年調査のデータです。


 所得が分かる20万2500人の分布です。一番多いのは,1000~1250万円の階級ですね。階級幅が広いとはいえ,最頻階級が1000万越えとは驚きです。下の3つの階級を足すと23.2%,全体の4人に1人が1000万プレーヤーです。

 中央値(累積%=50)は700万円台の階級に含まれるようです。按分比例で割り出すと・・・

 按分比=(50.0-35.6)/(51.9-50.0)=0.883
 中央値=700万円+(100万円 × 0.883)=788.3万円

 中央値は788万円と出ました。働き盛り,男性,正社員,そして高学歴という条件が加わると,稼ぎは多いようです。私はというと,この中央値の半分にも及びません。上記の分布表に自分を位置づけてみると,暗い気持ちになります。

 これは好条件がそろった属性の稼ぎですが,性別2(男性,女性),従業地位2(正規,非正規),学歴6(中卒,高卒,専門卒,短大・高専卒,大卒,院卒)をかけ合わせて,合計24のグループの所得中央値を出してみると面白い。

 私は40代前半の雇用労働者を取り出し,24のグループの年間所得分布表をつくり,それをもとに中央値(median)を計算しました。


 同じ40~44歳の勤め人ですが,違うものですね。ジェンダー差,正規・非正規の差,そして学歴差。唖然とさせられます。

 今朝ツイッターで発信したグラフは,この表を視覚化したものです。縦軸上の高さで所得の背比べをすると同時に,各グループの量(人数)をバブルの大きさで表現しているのがミソです。ここにて再掲します。


 所得の学歴差を主眼においたグラフですが,ツイッターでは,男性と女性の差に注目したリプが多かったです。女性の院卒は男性の大卒,女性の大卒は男性の専門卒,…女性の高卒は男性の中卒以下。女性の場合,男性の一段下とほぼ対応してしまっていると。

 同じ年齢の正社員でコレですからね。労働時間や職種といった他の要因もあるでしょうが,学歴別の所得が男女で一段ズレていることは,不当なジェンダー差があると推測させるのに十分です。これは40代前半のデータですが,結婚・出産によるキャリアの中断も響いているのかもしれません。

 正規と非正規の差も大きくなっています。正規の場合,学歴が上がるほど所得は多くなりますが,非正規はそれがなくフラットです。男性の大学院卒の場合,正規が788万円,非正規が205万円と,差がべらぼうに大きくなっています。うまく正規職に就けた人と,そうでない人の格差。大学の専任教員と非常勤講師の格差を想起させます。私自身,後者を長く経験した身です。

 ドットの大きさから,女性にあっては,正規より非正規の方が多いことが知られます。家計補助のパートをしている既婚女性が多いかもしれないですが,派遣社員で,正社員とほぼ同じ仕事をしているにもかかわらず,正社員との大きな給与差に理不尽を感じている人も多いでしょう。

 この4月から,同一労働同一賃金の原則が徹底され,正規と非正規の非合理な待遇差を設けることは禁じられます。同じ仕事にもかかわらず待遇差をつける場合,労働者から求められたら,合理的な説明をする義務が使用者に生じるのだそうです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html

 当然ですよね。そもそも労働者を正規と非正規に分け,待遇に傾斜をつけるのは,日本独特の慣行です。よく「正規・非正規の給与差の国際比較をしてくれ」というリクエストをいただきますが,海外ではそんな区分はないのです。労働時間に依拠して,フルタイム・パートっていう区分があるだけです。異国の人にすれば,「セイキ・ヒセイキって何なんだ?」という思いでしょう。

 何ができるかではなく,「何であるか」(属性)によって,待遇に差をつける。この慣行でいい思いをしているのは中高年男性ですが,彼らとて,60歳を越えたら待遇の急落に腰を抜かすことになります。定年後,再任用されたものの,同じ仕事なのに年収が800万円も減らされたのは不当と,会社を相手どって訴訟を起こした男性が注目されています。

 私としては,50代の高レベルの賃金を70歳あたりまで維持するのは,現実問題として,企業にとっては不可能かなと思います。機械的な右上がりの年功賃金であるから,ピークを越えた後の急落に戸惑うことになるのです。前に,給与の年齢カーブの国際比較をしたことがありますが,欧米では機械的な年功賃金がない代わりに,定年制もありません。日本のように,60歳を越えたら給与がガタ落ちするなんてことはないのです。
https://tmaita77.blogspot.com/2019/01/blog-post_20.html

 機械的な年功賃金も,ピラミッド型の人口構成で,経済成長が望める時代ならいい方向に機能したのでしょうが,今では立ちいかなくなりつつあります。これから変わっていくでしょう。