昨年は,自殺統計を頻繁にいじった年でした。コロナ禍の影響を可視化するためです。性別・年齢層別の分析をすることにより,コロナが社会のどの層に影を落としているのかも見て取れました。
日本だけではなく他国はどうかも見たいのですが,国際統計の場合,月別の細かいデータは得られません。公表されているのは年単位のデータです。WHOサイトにデータベースがあるのですが,久々にのぞいてみたらリニューアルされていました。以前よりも使い勝手がよくなっています。
「World Health Data Platform」というもので,代表的な統計指標がアルファベット順に掲げられています。自殺率は,suicide rateです。各国の年齢構成を影響を除いた自殺率は,頭に「Age-standardized」がつきます。
年明けから物騒ですが,自殺率の国際比較をやってみましょうか。年齢調整自殺率の最新年次は国によって違いますが,2015年だと,多くの国のデータがとれます(183か国)。この年の自殺者数が,国民10万人あたりでみて何人かです。日本だと,2015年の年齢調整自殺率は15.1となっています。15年前の2000年は18.8でしたので,3.7ポイントの減です。世紀の変わり目は,平成不況のどん底で大変でしたからね。私の世代は,この時期に大学を卒業したロスジェネです。
183か国のデータがありますので,それを視覚的に表現してみます。2015年の自殺率はいくらか,2000~15年にかけて何ポイント伸びたか,でみてみます。前者は近年の絶対水準,後者は過去と比した相対水準(伸び幅)です。横軸に前者,縦軸に後者をとった座標上に,各国を配置すると以下のようになります。
縦軸によると,今世紀になってからの15年間で自殺率が低下した国が多くを占めます(138か国)。しかし上がっている国もあり,アメリカは3.2ポイント,お隣の韓国は7.2ポイントの伸びです。韓国の2015年の自殺率は21.4で,183か国中9位,過去15年間の伸び幅は最も大きくなっています。
最近,「ヘル朝鮮」という言葉をよく聞きますが,韓国は大変な状況になっているようです。よく言われるのは若者の就職難で,国内の一流企業に就職するには,一流大学卒で海外留学経験が必須であるとのこと。日本なんかを鼻で笑う,超競争社会です。
しからば韓国の自殺率を年齢層別にみた時,若者の自殺率が高いのでしょうか。上記のWHOデータベースから,各国の年齢層別の自殺率も呼び出せます。男女で分けることも可能です。日本を含む主要7か国の自殺率の年齢カーブを描くと,以下のようになります。
儒教社会の韓国では,子が老親の面倒をみるという慣行が続いてきましたが,近年,それが急速に崩れつつあります。その一方で,年金等の社会保障は未整備で,生活苦にあえぐ高齢者が多くなっています。前にニューズウィーク記事で書きましたが,韓国の高齢者の貧困率はダントツで高くなっています。男性の場合,さらに孤独という要因が加わりがちです。
高齢者を家族が養うべきという意識が韓国社会で弱まっていることは,データで示せます。先ほど取り上げた7か国の国民に,「高齢者の世話は誰がすべきか」を問うてみると,以下の図のような回答分布になります。
変わっている国民の意識と,現実の社会保障制度の落差。上記は2012年の意識調査ですが,最近では,意識と制度のラグがもっと開いている可能性もあります。韓国の高齢層の苦悩の源泉が垣間見られます。最初のグラフで,韓国の自殺率は主要国でトップで,過去からの伸び幅も大きいことを知りましたが,その原因は,高齢層の生活状況悪化にあるとみられます。
海を隔てた異国の話と,他人事のように思ってはいけないでしょう。日本でも,高齢者福祉の「公」志向は強まることはあれ,その逆はないはず。何度も言っていますが,成熟社会では「公」の仕事の比重が増してきます。それに携わる公務員を増員し,きたる超高齢社会に備えないとなりますまい。労働者の公務員比率は,北欧では半分近くですが,日本では1割ほど。変革の余地は多分にあると,前から思っています。
今の韓国の状況は,我が国の近未来への警告と取るべきかと思います。