昨年の2月29日の記事では,学歴別の刑務所入所率を計算したのですが,ここ2~3日ほど,この記事をみてくださる方が多いようです。日本は学歴社会といわれますが,学歴によって,刑務所入りする確率がどれほど異なるかは,世人の関心をひくところと思います。
むろん,この問題は興味本位の次元にとどまらず,「社会階層と犯罪」という,犯罪社会学の重要テーマにも連なるものです。
今回は,分析をもう少し掘り下げてみたいと思います。先の記事では,全罪種をひっくるめた刑務所入所率を出したのですが,ここでは,入所率の学歴差を罪種ごとにみてみます。一口に犯罪といっても,コソ泥もあれば,よりシリアス度の高いものもあります。学歴による違いは,どういう罪種において大きいのでしょう。この点を吟味します。
法務省『矯正統計』の2010年版によると,同年中に刑務所に入った,男性の刑法犯新受刑者は16,497人だそうですが,その学歴別内訳は以下のように記録されています。
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_kousei.html
①:小学校中退 ・・・ 42人
②:小学校卒業 ・・・ 108人
③:中学校中退 ・・・ 63人
④:中学校卒業 ・・・ 6,870人
⑤:高校在学 ・・・ 9人
⑥:高校中退 ・・・ 3,631人
⑦:高校卒業 ・・・ 4,426人
⑧:大学在学 ・・・ 13人
⑨:大学中退 ・・・ 493人
⑩:大学卒業 ・・・ 812人
⑪:不就学 ・・・ 9人
⑫:不詳 ・・・ 21人
②+④+⑥を「小・中学校卒」,⑥+⑨を「高校卒」,⑩を「大学卒」とします。順に10,609人,4,919人,812人なり。この数を,2010年の『国勢調査』から分かる学歴人口(男性)で除して,3群の刑務所入所率を計算してみましょう。
ほう。刑務所の門をくぐる確率というのは,学歴によって違うものですね。とくに小・中卒の率が飛び抜けており,この群の入所率は全体の4.6倍,大卒の27.5倍です。
次に,今回の分析の主眼である,罪種別の傾向です。私は同じようにして,男性の学歴別刑務所入所率を,包括罪種ごとに計算しました。下表は数値をまとめたものです。
罪種を問わず,小・中>高>大,という傾向になっています。しかし,学歴差の程度は罪種によって違っています。小・中卒者の値が,最下段の合計値の何倍かに注意すると,粗暴犯では5.5倍にもなりますが,風俗犯では2.8倍というところです。シリアス度の高い凶悪犯(殺人,強盗,強姦,放火)は4.2倍なり。
このやり方にて,学歴差の程度を罪種ごとに可視化してみましょう。それぞれの学歴グループの入所率が,全学歴をひっくるめた合計値の何倍に相当するかを折れ線にしてみました。
線の傾斜が急なほど,学歴差が大きいことを意味します。これによると,粗暴犯の学歴差が最も大きいようです。粗暴犯とは,暴行,傷害,脅迫,および恐喝の総称ですが,この手の暴力犯罪を犯し刑務所に入る確率は,学歴による違いが大きいことが知られます。
その次は窃盗ですが,これは,小・中卒者が高齢者に多いためかもしれません。生活苦から万引きを繰り返し刑務所に入るというのは,高齢者に多いと思われます。窃盗の学歴差は,各群の年齢差の反映であるとみられます。
一方,風俗犯の折れ線は傾斜が緩くなっています。つまり,学歴差が比較的小さい,ということです。賭博とわいせつですが,この手の罪は,高学歴者も結構やらかしますしね。学歴による差が小さいというのも,さもありなんです。
当局の資料から割り出せる,学歴別の刑務所入所率は以上ですが,年齢の影響を除去できたらな,と思います。たとえば20代の若者だけでみたら,学歴差はもっと大きくなるのではないでしょうか。
というのも,この年齢層では中卒者は完全なマイノリティーです。上級学校進学率が低かった上の世代と比べて,諸々の偏見や社会的圧力を被る度合いは増していることでしょう。この点をデータで明らかにし,社会的な対応を促していくことが,「学校化」された子どもの世界に風穴を開けることにもつながると思います。
私は,不登校や高校中退はれっきとしたオルタナティヴだと考えています。情報化が進んだ現在,学校の教室という四角い空間の中でなくとも勉強はできます。しかし,こうした見方はまだ共有されていないようで,早期に標準レール(上級学校進学)を外れた者に対する仕打ちが殊に厳しいというのが,わが国の現状です。
年齢別・学歴別の逸脱統計が整備され,学歴社会の病理をより鮮明にえぐり出せるようになったらな,と思います。