2014年7月13日日曜日

就業日数・就業時間別の学生バイト数

 学生のブラックバイトが問題化していますが,7月8日の記事では,大学生等のバイト実施率・平均時間を出してみました。全国値でみると,平日の実施率は24.2%,実施者の平均時間は278分(1日当たり)です。

 これは平均値ですが,している学生はメチャクチャしていることでしょう。『社会生活基本調査』では,全体を均した平均値しか分かりませんが,『就業構造基本調査』のデータを加工することで,バイト学生の年間就業日数・週間就業時間の分布を出せることを知りました。その試算結果をご報告します。

 『就業構造基本調査』では,パート・バイト等の非正規就業者の年間就業日数・週間就業時間分布が集計されています。結果表の中に,非正規就業者全体の数と,そのうちの学校卒業者の数を分けて掲げた表があります。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 私は,前者から後者を差し引くことで,在学者(学生)の数を割り出してみました。在学者の非正規就業者は,ほとんどが学生バイトとみてよいでしょう(以下,学生バイト)。下の表は,このようにして出した,学生バイトの年間就業日数・週間就業時間の分布表です。最新の2012年度調査のデータから作成しました。


 年間就業日数と週間就業時間の双方が判明する,学生バイトの総数は95万600人です。このうち,「年間200日未満・週15時間未満」のカテゴリーが33万8千人と最も多くなっています。およそ3人に1人。月15日,1日2~3時間程度の適度なバイトといえます。

 しかし,長時間バイトをしている学生もいるようで,年間200日以上・週35時間以上のフルタイム並みのバイト学生が6万3600人,全体の6.7%,15人に1人です。問題になっているブラックバイトの出現率の近似値とみてよいかと思いますが,いかがでしょう。ネグリジブル・スモールではありませんね。

 この値が業種や地域などの条件でどう変異するかは興味ある課題ですが,公表資料では,そこまでは明らかにできません。ただ,ジェンダー差や時系列変化は出すことができますので,やってみようかと思っています。

 ひとまず,上記の分布表を資料としてここに掲載いたします。

2014年7月12日土曜日

5歳児の非在園率

 教育課程の国家基準である学習指導要領は,大よそ10年間隔で改訂されますが,次期改訂において,小学校1年生の教育内容の一部を幼稚園や保育園に移行する方針が発表されました。
http://mainichi.jp/shimen/news/20140712ddm001100209000c.html

 上記の毎日新聞記事によると,「絵本などの普及で5歳児の識字率も上がっているため,国語のひらがなの読み書きのほか,算数の足し算,引き算なども検討対象にする」とのこと。「小1プロブレム」に象徴されるような,就学前教育と小学校教育の段差を解消する上でも効果あり,と期待されています。

 しかるに,注意しないといけないのは,幼稚園や保育所に通っていない幼児の存在です。幼稚園は義務教育学校ではありませんし,保育所は,日中わが子を保育できない親が子を預ける児童福祉施設です。したがって,これらの学校・施設のいずれにも通っていない幼児もいます。

 昔は,こういう非在園児が結構多かったのですが,今はどれくらいいるのでしょう。小学校に上がる直前の5歳児に焦点を当てて数を出してみましょう。

 私は,5歳人口と,同年齢の幼稚園・保育所在園児の数をそろえ,前者から後者を差し引いてみました。5歳人口は『国勢調査』の実施年しか正確な数が分かりませんので,年次がやや古くなりますが,2010年のデータを使うこととします。

 2010年の①5歳人口,②5歳の幼稚園児数,③5歳の保育所在所児数は以下のごとし。

 ①:人口 ・・・ 105万8489人 *10月時点 総務省『国勢調査』
 ②:幼稚園児数 ・・・ 61万942人 *5月時点 文科省『学校基本調査』
 ③:保育所在所児数 ・・・ 41万8645人 *10月時点 厚労省『社会福祉施設等調査』

 ①-(②+③)をして,5歳の非在園児数は2万8902人となります。ベース人口中の出現率は2.7%,およそ37人に1人です。

 最近はもっと減っているかもしれませんが,ネグリジブル・スモール(無視できる数)ではありません。上記の改革を実行するに際しては,これらの非在園児に対するフォローも必要になります。

 それはさておき,①~③の原資料には都道府県別の数も掲載されています。これを使って,5歳児の非在園率を都道府県別に計算してみました。幼稚園にも保育所にも通っていない幼児が多いのは,どの県か。県別一覧表をご覧ください。


  右欄の数が,先ほどと同じやり方で算出した非在園児率ですが,なぜか値がマイナスになる県もあります(6県)。これは,調査実施時期のビミョーな差や,『国勢調査』の5歳人口が不正確であるためと思われます。『国勢調査』の年齢統計をみると,「年齢不詳」人口も結構います(全国で98万人ほど)。ここでは,グレーの網掛けの数値は度外視しましょう。

 ひとまず形になっている値をみると,マックスは宮崎の11.5%です。2010年の数値ですが,5歳児の10人に1人が幼稚園にも保育所にも通っていないと見積もられます。赤字は上位5位ですが,九州が多いですねえ。私の郷里の鹿児島も5位にランクインしています。

 全体的にみて,東北や九州などの周辺部の値が高いようですが,地域性もあるのでは。この点を確認するには地図化(マッピング)が一番。上表の出現率を4段階で塗り分けた地図をつくってみました。マイナスの値が出た6県は,一番下の白色にしています。


 北と南が濃い色になっています。祖父母が同居(近居)の世帯が多いなど,共働きであっても,家庭内保育をしやすい条件があるのでしょうか。しかし,小1の教育内容が5歳児に下りてくるとなると,これらの県では,フォローの対象となる幼児が多いことになります。

 ところで,気になるデータもあります。上図の県別非在園児率と経済指標の相関です(非在園率がマイナスの6県は除外)。地図の模様からも察しがつくことですが,一人当たり県民所得が低い県ほど,5歳児の非在園児率が高い傾向にあります。相関係数は-0.414であり,1%水準で有意です。


幼稚園や保育所の子を通わせるのにも費用がかかりますしね。高等教育(大学)段階では,進学率と所得は非常に強く相関していますが,就学前の段階においても,こうした現象があることにちと驚かされます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/09/blog-post_12.html

 小1の学習内容を幼稚園や保育所に移行するに際しては,これらのいずれにも通っていない「幼児への対応」が重要な課題となるといえましょう(上記,毎日新聞記事)。もしかすると,5歳段階からの義務教育化が想定されているのかもしれませんが。

2014年7月10日木曜日

大学生のバイトの国際比較

 前回は,学生のバイト実施率・平均時間を県別に出したのですが,今回は国際比較をしてみようと思います。依拠する資料は,内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』です。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 私は本調査のローデータを開いて,各国の大学生サンプルを取り出しました。取り出されたサンプル数は,日本が237人,韓国が339人,アメリカが176人,イギリスが99人,ドイツが150人,フランスが99人,スウェーデンが199人です。英仏がやや少なくなっていますが,分析に耐えない数ではありません。

 これらの学生の就業状態を明らかにすると,下図のようです。無回答・無効回答はありませんでした。


 フルタイムの仕事を持つ学生(≒社会人学生)を別にすれば,日本の学生が一番バイトをしていますね。実施率は6割近くです。

 まあ,遊ぶ金を稼ぐ程度の「ユルい」バイトが大半でしょうが,高学費を稼ぐための長時間バイトも少なくないことでしょう。昨今よくいわれる「ブラックバイト」の被害者もね。

 それをうかがわせるデータもあります。日本の大学生を,バイトしている群(139人)としていない群(96人)に分け,各種の心配事の量をとってみました。4段階の回答のうち,一番強い肯定の「心配である」の比率です。結果をチャート図でお見せしましょう。


 全体的にみて,バイト群のほうが心配事が多くなっています。非バイト群との差は,友人や異性関係の項目で大きくなっていますが,勉学や将来に関わる不安についても然りです。長時間のバイト学生だけを取り出したら,値はもっと高くなるのではないでしょうか。とくに勉強や将来の項目で。

 日本学生支援機構の『学生生活実態調査』では,学生のバイト時間の量も調べています。また,各種の心配事の設問も盛り込んでいるようです。それを使って,今述べたような問題のデータをつくってみたらどうかしらん。学生支援のための貴重なエビデンスにもなるでしょう。ローデータを出してくだれば私がやるのですが…。公的調査はさまざまな角度から分析され尽くすべし。
http://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/12.html#arubaito

 ローデータという点でいうと,昨日公表された内閣府の『2013年度 小学生・中学生の意識に関する調査』は,それを提供してくれるそうです。もちろん無償。下記サイトの連絡先に一報を入れるだけでよし。私は早速申請し,先方からの連絡を待っているところです。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/junior/pdf_index.html

 何度も言いますが,公的調査のデータは国民の共有財産。多くの人による多様な視点から,十分に活用されるべきものであることは言うまでもありません。最近,そういう機運が高まっていることは,とても好ましいことだと思っています。

2014年7月8日火曜日

都道府県別の学生バイト

 最近,ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」の存在も知られるようになってきています。メチャクチャな条件のバイトのことで,正社員並みの責任を負わされる,試験前でも休ませてくれない,というようなものです。言わずもがな,主な被害者は学生です。

 学生のバイト実態については各種の調査がなされていますが,官庁統計からもそれを知ることができます。総務省の『社会生活基本調査』では,在学者の1日当たりの平均生活行動時間を明らかにしているのですが,設けられている属性カテゴリーの中に,小・中・高校生以外の「その他の在学者」があります。大学生や専門学校生など,中等後教育機関の学生とみてよいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/h23kekka.htm

 「その他の在学者」(以下,学生)は,平日1日あたりどれほど仕事(バイト)をしているのでしょうか。原資料には,①総平均時間,②行動者平均時間,③行動者率,の3つが掲載されています。最新の2011年調査の数値は,以下のようです。

 ①:総平均時間 ・・・ 67分
 ②:行動者平均時間 ・・・ 278分
 ③:行動者率 ・・・ 24.2%

 ①をみると67分(1時間7分)と短いですが,これは,調査対象の平日にバイトをした者もしなかった者もひっくるめて出した平均値です。当該の日にバイトをした者(24.2%)だけを取り出して平均時間を出すと,278分(4時間38分)に跳ね上がります。これが②の行動者平均時間です。

 コンビニとかで,夕方の6時から10時半までバイトしたら4時間半ですので,行動者平均でみたらまあこんなとこでしょう。

 これは平均値(average)ですが,している学生はメチャクチャしていると思われます。残念ながら時間の分布までは分かりませんが,平均値が県によってどう違うかを知ることができます。47都道府県について,上記の①~③の値を整理してみました。左欄は平日,右欄は日曜日です。

 最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しています。赤色は上位5位の数値です。


 平日をみると,東北の青森は行動者率と総平均がマックスになっています。しかし,行動者平均はさほど長くありません。多くの学生が,適度な範囲でバイトをしている県です。

 新潟はその逆で,行動者率はわずか2.9%(34人に1人)ですが,この層だけを取り出して平均時間を出すと473分,8時間近くにもなります。している学生としていない学生の差が激しい県といえます。

 次に日曜に目を移すと,九州の大分がスゴイですね。調査対象の日曜に4割近くがバイトをしており,その平均時間は558分,9時間以上にもなります。これはもう,平均でみてもブラックの域に達しているといえるのではないでしょうか。

 県ごとにみると結構すさまじい実態が出てくるのですが,たまたま調査日がそうであったというだけの偶然でしょうか。ひとまず,各県の大学関係者の参考資料として提示したく思います。

 といっても,ベタの表を載せて終わりというのはいささか無精ですので,左欄の平日のデータを視覚化しておきます。横軸に行動者率(実施率),縦軸に実施者の平均時間をとった座標上に47都道府県をプロットしてみました。点線は全国値(24.2%,278分)です。


 右上にあるのは,実施率が相対的に高く,平均時間も長い県です。学生バイトが多い県ですが,青枠の中には首都圏の1都2県が入っていますね。

 右下にあるのは多くの学生が適度にバイトしている県,左上は少数の学生が長時間バイトをしている県です。新潟はかっ飛んでいますが,何かの偶然かしらん。平日にして,している学生の平均時間は8時間近く。むーん。

 しかるに,私の周りでもこういう学生さんを見かけます。授業中いつも居眠りをしている学生がいて,呼び出して話を聞いたところ,週5日コンビニ夜勤をしているとのこと。夜の11時から朝7時までの8時間です。

 この学生は地方出身の下宿生ですが,仕送りはゼロ。オール自活(親は学費負担だけで手一杯)。奨学金は借りたくないとのこと。だとしたら,これくらいバイトしないとやれんでしょう。

 最近は,学生に勉強させるためガンガン課題を出してくれと言われるのですが,こういう学生をみると,そうする気も起きなくなります。この学生の場合は,「奨学金をフルに借り込んで学業に専念しろ」という意見もあるでしょうが,借金を勧める(強制する)のもどうかと。

 2012年8月の中教審答申では「学生を鍛え上げる」方針が明示されているのですが,こうした方向と現行の高学費は明らかに相容れないと感じています。それは私だけではありますまい。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm

 日経デュアルの連載記事(第3回)でも書いたのですが,わが国の高等教育の費用負担は明らかに「私費依存型」です(北欧は,ほとんどが公費負担)。私費依存型の高等教育は限界に達しつつあるように思います。

 この問題を可視化しているのが,学生の長時間バイト,ブラックバイト被害です。バイトという劣悪な条件で働かされる中,そういう状況に学生が慣れ切ってしまうのも恐ろしいことです。「これが当たり前なんだ」と。

 アルバイトに教育効果を認める向きもありますが,それは諸刃の剣であり,負の社会化効果も多分に含んでいます。それは,昨今流行っているインターン・シップなどについても言えること。われわれは,この点を絶えず認識しておかねばなりません。

2014年7月6日日曜日

家計に対する妻の寄与率

 今朝の南日本新聞に,「家計は妻の給料頼み?コープかごしま調査」と題する記事が載っていました。私の郷里のローカル紙ですが,向こうは共働きじゃないとキツイだろうなと思います。給与水準も低いですし。
http://373news.com/modules/pickup/index.php?storyid=58013

 こういう新聞記事からブログのネタのヒントを得ることが多いのですが,「家計に占める妻の稼ぎの比率って,どれくらいが相場なんだろう」という疑問を持ちました。正社員の夫が500万稼いで,妻がパートで100万稼ぐとすると,この場合の妻の寄与率は,100/(100+500)=16.7%となります。

 これは架空の例ですが,総務省『就業構造基本調査』の結果表の中に,夫の年収と妻の年収をクロスさせた表があります。これを使って,上記の問いに答えるデータをつくれないものか。

 最新の2012年調査でみると,子がいる核家族世帯(夫が30代)のうち,夫の年収が400万円台,妻の年収が100万円台前半の世帯は61,900世帯です。階級値の考え方に依拠して,夫の年収を450万円,妻の年収を125万円とみなすと,妻の寄与率は,125/(125+450)=21.7%となります。

 私はこのようにして,各セルに該当する世帯の妻寄与率を計算し,その分布を明らかにしました。妻が無業(専業主婦)の世帯は,0%となります。下の図は,この値の相対度数分布をとったものです。夫婦とも無業の世帯,いずれかが家族従業の世帯は分析から除外しています。


 0%,すなわち妻が専業主婦の世帯が最も多くなっていますが,その比率は10年前に比して減っていますね。その分,共働き世帯が増えており,総収入に占める比重が2~3割の世帯の増分が大きくなっています。妻のほうが稼いでいる世帯(50%超)も。

 これは夫が30代の世帯のデータですが,他の年齢層ではどうでしょう。子どもの発達段階によって,妻の寄与率も変わってくると思われます。私は,寄与率の分布を明らかにした元データ(上図の大カテゴリーにまとめる前)から,その平均値を出しました。夫の年齢層別の平均値をグラフにすると,下図のようになります。


 どの年齢層でも平均値はアップしていますが,とりわけ30代で増加幅が大きいですね。冒頭の南日本新聞でも,39歳以下の妻の年収が大幅に伸びているとありましたが,それと合致します。子どもが小・中学生の年代であり,何かと「物入り」の時期です。

 年齢が上がるにつれて率が上がっていくのは,子育てから解放された妻が働きに出ることが多くなるためでしょう。

 まあしかし,妻の寄与率が15~20%くらいというのは,絶対水準でみればやはり低いのでしょうね。北欧の社会で同じ値を出したら,どうなるだろう。4割くらいが相場だったりして…。

 でも,以前に比して増えていることは明らかであり,今後もこのトレンドは継続することでしょう。3日に公表した日経デュアルの記事でも書きましたが,昔の高度経済成長の時代はいざ知らず,男性の腕一本で一家を養える時代はとうに終わっています。夫婦共に力を合わせて生計を立てていく時代です。

 これから先,高齢化も進行することで,育児だけでなく介護の負担も現役世代にのしかかってきます。否が応でも共働きでないとやっていけず,今回みた妻の寄与率も,2030年頃には3~4割になっているのではないかしらん。

 現在でも,地域によっては,妻の寄与率が高い水準にあるケースもあることでしょう。残念ながら,地域(県)別のデータをつくることはできませんが,ぜひ知りたいところですなあ。

 それではみなさん,よい日曜日の午後をお過ごしください。

2014年7月3日木曜日

貧困と学業不振・問題行動の関連

 言わずとも知れた教育社会学の典型テーマですが,教員を対象とした調査からも,この現象を浮かび上がらせることができます。今回はそれをご報告しようと思います。

 用いるのは,ここのところ毎回使っている,国際教員調査(TALIS 2013)です。ローデータをゲットしましたので,任意の設問間のクロスも自由自在。いろいろなことを明らかにできる「お宝」です。ローデータは,下記サイトにてダウンロードできます。

 本調査では,対象の中学校教員に,自分が担当している特定の1クラス(Target Class)を想定してもらい,当該クラスにおける授業実践について深く尋ねています。調査日直近の木曜日の午前11時以降に,最初に教えたクラスとされています。

 設問の中に,当該クラスの生徒のうち,社会経済的に不利な家庭環境の生徒は何%いるかを問うものがあります。適切な住環境,栄養,ないしは医療的ケアを欠いた家庭の生徒です。俗にいう,貧困家庭の生徒といってよいでしょう。

 日本の中学校教員の回答分布は,以下のようです(無回答・無効回答は除外)。各教員が大雑把に見積もった結果です。

 ①:全くいない(None) … 1,018人
 ②:1%~10% … 1,712人
 ③:11%~30% … 579人
 ④:31%~60% … 113人
 ⑤:60%以上 … 30人

 ①をA群,②をB群,③をC群,④と⑤は合わせてD群といたしましょう。D群に行くほど,貧困家庭の多いクラスを受け持っている教員ということになります。貧困家庭の生徒が3割以上いると答えたD群は,量的には少ないですね(143人)。

 さて各群の教員は,同じクラスにおいて,学業不振児や問題児(行動に問題がある生徒)はどれほどいると答えているか。下の図は,群ごとの回答分布をとったものです。


 左側をみると,D群の教員の半分は,同じクラスに学業不振の生徒が3割以上いると答えています(黒色)。図の模様がおおむね右下がりになっていることから,貧困児と学業不振児の割合の相関関係が見て取れます。

 右側の問題行動いついても,貧困の量との関連を認めてよいでしょう。A群の教員の半数は「全くいない」と答えていますが,C群やD群では白色は少なく,その代わりグレーやブラックの比重が多いのです。

 貧困と学業不振・問題行動の因果経路の説明は省きますが,こうした社会的規定性があることを常に疑い,それを可視化する努力を怠ってはなりますまい。

 と同時に,事態の打開策を探るという視点でいうなら,次のような問題を立てることも必要です。D群の白色のクラスでは,どういう実践が行われているか?

 貧困家庭の生徒が3割以上いるクラスにもかかわらず,学業不振児や問題児が一人もいない。こういうクラスですが,そこではどういう教育実践が行われているか。このような問題です。おそらく,「下」に手厚い実践がなされているのではないでしょうか。

 上記のデータでは,D群の教員は143人しかいません。白色の部分に限定したらサンプルがごくわずかになってしまいますので,この問題を追及できませんが,重要な課題です。いや,量的に少ないというなら,いっそ一人一人を対象としたインタビュー調査も可能でしょう。私に権限があれば,そういうことをするな…。こんなふうに思います。

2014年7月1日火曜日

教員の社会人経験の国際比較

 教員は視野が狭い,社会を知らないといわれます。22歳まで「学校」で学び,その後もずっと「学校」で勤務するわけですから,確かにそうかもしれません。

 このことにかんがみ,最近は教員採用試験でも社会人の特別枠を設けたり,研修でも民間企業等に教員を派遣する社会体験研修が取り入れられています。

 それはさておき,わが国の教員のうち,社会人経験もある者はどれほどいるのか,国際的にみて多いのか少ないのか。今回は,こういう基本的な部分を明らかにしてみようと思います。

 OECDの国際教員調査(TALIS 2013)では,対象の中学校教員に対し,教育職以外の職で働いた経験を尋ねています。働いた年数を記入してもらう形式です。同調査のローデータには,記載されたままの数値が入力されていますが,私はこれを6つの階級にまとめ,その分布をとってみました。校長は除く,一般教員のデータであることを申し添えます。
http://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/


 上に掲げたのは主要4国の分布図ですが,日本は8割が「0年」,すなわち経験ゼロです。フランスも日本と同じ型ですが,日本よりは社会人経験ゼロ教員は少なくなっています。

 英仏をみると,この2国の場合,社会人経験のある教員のほうがマジョリティーです。アメリカでは,全教員の6割が,5年以上教育職以外の職で働いたことがあると答えています。あらゆる機会が開かれている国といいますが,こういう職業移動(mobility)の機会も開かれているのですね。

 ローデータに記録されている社会人経験年数(上図のカテゴリーにまとめる前)をもとに,その平均年数を計算すると,日本が0.8年,アメリカが8.0年,イギリスが5.3年,フランスが1.6年となります。日本が最も短いですね。

 では,対象となった32か国の布置図を描いてみましょう。多くの国を対象とする場合,簡便な代表値を使うことになりますが,まずは,先ほど出した社会人経験の平均年数を用います。教育職以外の職に勤務した年数の平均値です。

 それとあと一つ,教育職以外の職に就いた年数が教員の勤務年数よりも長い,「社会派教員」の割合も出してみます。日本でいうと,両方の年数を答えた教員2,861人のうち,後者よりも前者が長い教員は92人です。よって,社会派教員の出現率は3.2%となります。アメリカは32.4%!。3人に1人が,「社会人経験年数>教員経験年数」の社会派教員です。

 この2つの指標を使って,各国の教員の社会人経験の量を測定し,結果をグラフで表してみます。横軸に社会人経験の平均年数,縦軸に「社会人経験>教員経験」の教員の比率をとった座標上に,32の社会をプロットしてみました。点線は平均値です。


 2指標は相関していますので右上がりの分布になっていますが,日本はお隣の韓国と並んで右下にあります。教員の社会人経験量が少ない社会です。対極には,先ほどのアメリカのほか,カナダとメキシコがありますね。アジア型と北中米型のコントラストが際立っています。

 わが国では,社会人経験のある教員が少ないことがデータで分かりました。そういう教員を増やすべきかについて,教職課程の学生さんとたまに議論するのですが,「増やすべきだ」という意見が大半です。中高の頃,偏差値とは別の「実社会」を知っているセンセイに出会えたなら…。こういう声も聞きます。それに,社会に出た後で,やっぱ教員になりたいと思う人だっているじゃんと。

 なるほどと頷かされますが,大阪の民間出身校長が立て続けに不祥事を起こすなど,負の判断材料も多し。正負の材料とも,掘ればいくらでも出てくるでしょうが,政策とはやはり客観的なエビデンスで決められるべきもの。

 純粋培養教員と社会人教員とで,職務のパフォーマンスがどう異なるか。こういう問題を実証的に明らかにすることが求められるでしょう。TALISでは,対象教員の自己有能感や職務満足度についても尋ねています。これらの回答が両群でどう違うか。

 さしあたり,この問題を追及することは可能です。今後の課題とし,興味ある結果が出ましたら,この場で報告しようと思います。