2014年11月2日日曜日

東京の中学受験地図の変化

 エンリコ・モレッテイ著『年収は住むところで決まる』(プレジデント社)を読み終えました。地域格差の問題に関心を持っている者として,とても勉強になりました。


 この本に載っているグラフはどれも衝撃的なものばかりで,日本版を作りたくてウズウズします。本書の主張の一つは,特定地域に富が集積する傾向が強まっている,ということですが,それを可視化する図法として,地域別の上位10位と下位10位の平均推移をとっているものがあります。

 たとえば141ページには,大卒者の年収が1980年に比してどれほど伸びたかを,上位10位と下位10位の都市の平均推移で表されています。1980年から2010年にかけて,上位10位の群では2万ドル以上伸びましたが,下位10の群の伸び幅は1万ドルに満たないことが見て取れます。

 私は同じやり方で,都内の中学受験率の地域変化を可視化してみました。早期受験の進行により,中学受験をする子どもが増えているといいますが,それは地域的な偏りがあるのではないか。こういう仮説においてです。

 私は,都教委の『公立学校統計調査(進路状況偏)』にあたって,公立小学校卒業生の国・私立中学進学率を,都内の市区町村別に明らかにしました。1980年,1985年,1990年,1995年,2000年,2005年,2010年,2013年のデータです。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/25sotsugo/toppage.htm

 各年の地域別データをランキング表にし,上位10位と下位10位の平均を計算しました。2013年の上位10位は,千代田区(40.0%),文京区(39.7%),中央区(37.3%),渋谷区(36.9%),港区(35.5%),世田谷区(32.9%),目黒区(30.3%),新宿区(29.2%),豊島区(27.6%),武蔵野市(27.5%)ですから,これらの平均をとって33.7%となる次第です。


 上表は30年余りの変化の過程ですが,上位10位の群は20ポイント近く伸びていますが,下位10位のほうは一ケタのままです。右欄の数値は,1980年に比してどれほど伸びたかを示しています。この指標をグラフ化してみましょう。


 上位10位と下位10位の群の違いが明らかです。むーん,早期受験の進行は都内でも特定地区に集積しているようですね。ちなみに,『年収は住むところで決まる』の中にも,似たような曲線のグラフがしばしば出てきます。

 最後に,1980年と2013年の国・私立中学進学率地図を掲げておきます。この30年における,東京の中学受験率地図の変化です。


 この期間中,都全体の国・私立中学進学率は7.5%から16.7%へと上昇しましたが,伸び幅は地域によって一様ではありません。色が濃くなっているのは東部の特別区がほとんどで,西の市群は相変わらず白いままです。

 中学受験の進行に地域的な偏りがあることが分かりました。国・私立中学進学率の伸びが大きい地域は,富裕層が多く住んでいる地域であることは言うまでもありません。東大などの有力大学合格者の中に,国・私立校出身者が多いことはよく知られていますが,教育を媒介にした,親から子への富の密輸が強まっていることを示唆するデータでもあります。

 エンリコ・モレッテイ著『年収は住むところで決まる』には,日本のデータで追試(再現)してみたいグラフがわんさとあります。当面の仕事は,これになるかもしれません。