保育士不足が深刻化していますが,その原因の一つとして,待遇の悪さがあることがよくいわれます。なるほど,3月20日の記事でみたように,保育士の年収は他の職業に比して低くなっています。介護職も然り。
しかるに,様相は地域によって違うでしょう。昨日,厚労省『賃金構造基本調査』の公表統計表を眺めていたら,都道府県別・職種別に一般労働者の賃金をまとめた表を見つけました。私はこれを使って,保育士の年収を都道府県別に計算してみました。今回は,その一覧をお見せしようと思います。
集計の対象となるのは,短時間労働者を除く一般労働者の枠に含まれる保育士男女です。各県について,①決まって支給される給与月額と②年間賞与額を知ることができます。最新の資料には,2013年6月の①と,前年(2012年)中の②が掲載されています。ここでは,①を12倍した額に②を足して,年収を推し量ることにします。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html
東京でいうと,保育士男女の月収(①)は23万円,年間賞与額(②)は53万円です。よって,大都市・東京の保育士の年収は,(23×12)+53=328万円と見積もられます。言い忘れましたが,①には時間外勤務等の手当も含まれます。
同じやり方で,全県の保育士の年収を出してみました。下表は,その一覧です。参考までに,全職業の従事者の年収も掲げています。右端の数値は,これと照合して算出した,保育士の年収の相対水準です。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色の数値は,上位5位を意味します。
保育士の年収は全国値は310万円ですが,県別にみると385万円から218万円まで幅広く分布しています。マックスは京都で,その次は群馬となっています。聞けば,群馬は保育士の待遇改善により,保育士不足を大幅に緩和したそうな。
最低は福島なのですが,当県の保育士の年収は2009年の318万円に比して,100万円もダウンしています。これは,2011年の東日本大震災の影響でしょうか。
なお,保育士の年収は,各県の労働者全体の年収水準に規定されると思われるかもしれませんが,必ずしもそうではないようです。表のaとbを比べると,順位はあまり一致していません。相関係数を出しても,+0.362という程度です。
やはり,各県の保育政策の影響もあるのでしょうね。それがどういうものかは,右端の相対水準値からうかがうことができます。保育士の年収が全従業者の何倍かです。どの県でも,保育士は全体に比して見劣りしていますが,九州の宮崎ではほぼ等しくなっています。全体と比した相対水準でいえば,保育士の待遇が最もよい県です。一方,福島や東京では,保育士の年収は全体の約半分なり。
ちなみに右端の相対水準値は,保育士の平均勤続年数と有意に相関しています。保育士は離職率が高く,平均勤続年数も他の職業に比して短いのですが,県別にみると結構バラけています。これが,上表の右端の数値と相関しているのです。
保育士の年収の相対水準が高い県ほど,平均勤続年数が長い傾向にあります。相関係数は+0.5675であり,1%水準で有意です。東京は右下にありますが,大都市の生活に見合う給与を保育士が受け取れていないことに,勤続年数の短さ(離職率の高さ)の一因があるのではないでしょうか。いわゆる「相対的剥奪感」が,東京の保育士にあっては大きいのかもしれません。
保育士の待遇改善の必要性が繰り返し指摘されていますが,公的なマクロデータも,それを支持しているように思います。
最後に,上表の左端に掲げた,保育士の年収の実値を地図にしておきます。昨日,ツイッターで発信した図にちょっと誤りがありましたので,これでもって訂正いたします。
今回のデータが,各県の保育施策の参考になれば幸いに思います。今日は,気持ちの良い秋空。よい連休をお過ごしください。