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現在データが公開されている最新のものは,2012年の第4回「家族とジェンダー役割に関する調査」です。この調査の属性項目をみると,属する世帯の年収を尋ねているではありませんか。『世界価値観調査』のように,社会の中でどの辺りかを自己評定させる形式ではなく,前年(2011年)の年収の実額を聞いています。
データは,度数分布の形で国ごとに知ることができます。私はこれを使って,各国内部における富の格差の大きさを測る,ジニ係数を計算してみました。国民の富の格差が大きい国はどこか,日本は他国と比してどうか,という関心からです。これをみるには,個々人の収入ではなく,共に暮らし,生計を同じくする世帯(household)の収入分布に注目するのがよいかと思います。
わが国を例に,計算のプロセスを説明いたしましょう。
日本では,1084人の国民が,自分が属する世帯の年収を答えています。左端の人数はその分布ですが,年収200万円台の世帯で暮らす者が167人と最多です。中間ではなく,低い層に山があります。貧困単身世帯などが増えているためでしょう。
人数の右隣の富量とは,それぞれの階級が得た富の総量です。各階級の世帯年収を中間の値(階級値)とみなすと,年収200万円台の世帯の167人は,167×250万=4億1750万円の富をゲットしたわけです。12の階級の富量を合算すると,60億7200万円なり。
さて,この巨額の富が各階級にどう配分されているかですが,真ん中の相対度数をみると,結構偏っていることが分かります。年収300万未満の世帯の人間には,全富の8.8%しか届いていません(青色)。この層は281人で,人数の上では4分の1を占めるにもかかわらず,です。逆に,人数では1割ほどでしかない年収1000万超の富裕層が,富全体の26.7%をもせしめています(黄色)。
人数と富量の分布のズレは,右端の累積相対度数をみるとクリアーです。赤の数字をみると分かるように,全体の4割を占める年収400万未満の層は,18.1%の富しか受け取っていない。残りの8割の富は,それより上の階層に持っていかれているわけです。
上表にある,人数と富量の分布の隔たりが大きいほど,国民の富の格差が大きい社会ということになります。それは,右端の累積相対度数をグラフにすることで「視覚化」されます。下図は,横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に,12の年収階級をプロットし折れ線でつないだものです。これを,ローレンツ曲線といいます。
きれいな弓なりの曲線ですが,この曲線の底が深いほど,人数と富量のズレが大きい,つまり富の格差が大きい,ということになります。われわれが求めようとしているジニ係数は,この曲線と対角線で囲まれた面積(色つき)を2倍した値です。
人数と富の分布が等しい完全平等の場合,ローレンツ曲線は対角線に重なりますので,ジニ係数は0.0となります。反対に極限の不平等状態の場合は,色つきの面積は四角形の半分になりますから,ジニ係数は,0.5×2=1.0となります。したがって,ジニ係数は0.0~1.0の範囲に分布し,現存する社会はこの間のどこかに位置します。
上図から,日本の曲線と対角線で囲まれた面積を求めると,0.1767となります(詳しい計算方法は,2011年7月11日の記事を参照)。よって,日本のジニ係数は,これを2倍して0.3534となります。世帯年収でみた,国民の富の格差のレベルです。
これをどう評価するかですが,一般にジニ係数が0.4を超えると,社会が不安定化するといわれます。日本はこのラインには達していませんが,今後はどうなるやら・・・。2020年にオリンピックが開催される頃は,高齢化や孤族化がもっと進み,この危険水域に届いていしまうかもしれません。そうなったら,この年に来日する多くの外国人を驚かせることになるでしょう。「日本は格差が小さく,安全な国ではなかったのか」と。
ちなみに,南アフリカのジニ係数は0.611にもなります。上図をみればわかるように,この国のローレンツ曲線は底が深くなっています。一部の富裕層が,国全体の富の大部分を占有している,ということです。この社会では,凶悪犯罪が日常的に起きているといいますが,「そうだろうな」と頷かされます。
では,同じやり方で計算した,37か国のジニ係数をみていただきましょう。ISSPの第4回「家族とジェンダー役割に関する調査」の対象は38か国ですが,トルコだけは,世帯年収のデータがないようです。下図は,ジニ係数が高い順に並べたランキング図です。
トップは,オーストラリアで0.649です。この国の事情は存じませぬが,2位は先ほどみた南アフリカ,3位はフィリピン,4位はメキシコと,発展途上国が続きます。これらの社会では富の格差がべらぼうに大きいことは,いろいろな旅行記からも教えられます。
人口大国の中国は6位,その次はフランス,アメリカは10位です。危険水準の0.4を超えているのは,インドまでの13か国となっています。
日本の0.353は,37か国の中では「中の下」というところ。東欧の旧共産圏の社会では,ジニ係数は小さくなっています。なんとなくわかる・・・。
世帯の年収分布から,各国の富の格差の程度を「見える化」してみました。それぞれの社会の性格が見えてきます。参考資料として,ご覧ください。