年収は職業によっても違いますが,地域によっても違います。地方出身ということもあってか,私はこちらのほうにも関心を持ちます。今回は,正規職員の平均年収を都道府県別に出してみようと思います。性や年齢といった基本変数も組み込みます。
「地域×性別×年収」。こうした細かいデータを出すのが,ここでの作業のオリジナリティーです。
使うのは,2012年の総務省『就業構造基本調査』のデータです。この資料から,各県の正社員の年収分布を性別・年齢層別に知ることができます。この分布のデータを加工して,平均年収を計算した次第です。
東京の30代男性正社員を例にして,原資料の分布からどうやって平均値を計算したのかを説明します。下の表をご覧ください。下記サイトの表23から数字を採取して,作成したものです。
年収が判明する東京の30代男性正規社員は77万人で,その年収分布は表のようになっています。真ん中の400万円台にピークがある,きれいな分布ですね。
この分布を一つの平均値に均すわけですが,度数分布から平均値を計算するには,階級値の考え方に依拠します。各階級の年収を,軒並み中間の値とみなすわけです。年収300万円台は350万円,400万円台は450万円というように。上限のない1500万円以上の層は,ひとまず2000万円と仮定しましょう。
この場合,平均年収は以下の式で求められます。全体を100とした相対度数を使うほうが計算は楽です。
{(25万×0.2人)+(75万×0.1人)+・・・(2000万×0.9人)}/100.0人 ≒ 535.6万円
東京の30代男性正社員の平均年収は,536万円なり。まあ,こんなものでしょうか。このやり方で,都道府県別・性別・年齢層別の平均年収を計算しました。以下に掲げるのは,その一覧表です。全県中の最高値には黄色,最低値には青色マークをしています。上位5位の数値は赤色にしました。
働いて得られる収入は,地域によってかなり違っています。男性をみると,最高値はどの年齢も東京,最低値は軒並み沖縄です。30代でいうと,東京の536万円と沖縄の326万円では210万円の開きがあり,50代になるとその差は358万円にまで拡大します。
エンリコ・モレッティ流にいうと,「年収は住むところで決まる」ですね。この本は米国の実態を明らかにしたものですが,同じテーゼは海を隔てた島国の日本にも当てはまっています。
あと,ジェンダーの差にも注目。同じ正社員,同じ年齢層であっても,年収にはジェンダー差があります。東京の30代でいうと,男性は536万円,女性は418万円で,118万円の開きで,この差は加齢とともに大きくなります。
各県の年齢層別のジェンダー差をわかりやすく「見える化」してみましょう。男性が女性の何倍かという倍率にしてみました。下表は,割り算の結果の一覧です。少数の影響で,上表の整数の割り算で出てくる数値とは違っている個所もあります。
正社員の年収のジェンダー差が最も大きいのは,20代では三重(1.34),30代では大分(1.40),40代では兵庫(1.63),50代では愛知(1.78)です。愛知と三重は赤字が多く,給与の性差が大きい県と評されます。製造業が多いためでしょうか。
年齢が上がるほどジェンダー差は大きくなります。愛知の50代では,男性が686万円,女性が385万円と,1.78倍もの格差になります。
一方,沖縄はジェンダー差が小さくなっています。平均年収は低いのですが,性差が小さいことは注目されます。各県の男女共同参画施策担当者のみなさん,上表のジェンダー倍率一覧表を参考になさってください。
2番目の表に戻りますが,20代男性の平均年収は,最も高い東京でも370万円です。前に電車の週刊誌のつり広告で,「20代女性が結婚相手に求める年収は600万円」というフレーズを見かけましたが,それが叶う確率は限りなくゼロに近いとみてよいでしょう。
著名ブロガーのちきりんさんが,「現実を知ってる人が理想を語るのは意味があるけど,現実を知らない人が理想を語るのは百害あって一利なし」とつぶやいておられます。
その現実を明らかにするための道具がデータです。