2016年4月16日土曜日

理系職志望の要因

 4月10日の記事では,中学校2年生の数学学力と得意度が,国際データでみると逆相関にあることを知りました。

 今回は,理系職志望率という変数も加味し,3者の関連を検討してみます。理系職志望と関連しているのは,学力か,それとも自己意識か。こういう問題です。

 私は,IEAの「TIMSS 2011」のデータを使って,中学校2年生の以下のデータを国別に作りました。

 ①:科学(science)が得意という生徒の比率
 ②:科学の平均点
 ③:理系職志望率

 ①は,「科学が得意だ」という項目に,「とても当てはまる」ないしは「少し当てはまる」と答えた生徒の比率です。③は,「理系職(job that involved using science)に就きたい」という項目に,「とても当てはまる」ないしは「少し当てはまる」と答えた生徒の比率を指します。

 下の表は,3つのデータが得られる26か国の数値一覧です。下記サイトのリモート集計で出しましたので,粗い整数値になっていることをお許しください。黄色は最高値,青色は最低値です。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/



 日本は,科学の得意率は11%,理系職志望率は21%と,すこぶる低くなっています。両者とも26か国の中では最低です。マックスは,アフリカのガーナ。この国では,中学校2年生の8割以上が科学は得意と答え,9割近くが理系職を志望しています。

 しかし科学の平均点は,ガーナは最低です。一方,日本の値は高い水準にあります。

 学力か,それとも意識か。どういう事態になっているか予測できますが,それをハッキリ「見える化」してみましょう。上記の3変数の関連が分かるグラフを作ってみました。横軸に得意率,縦軸に平均点をとった座標上に,26の社会をプロットし,ドットの大きさを使って,各国の理系職志望率を表現する図法です。


 中2生徒の科学の得意率と平均点は,マイナスの相関関係にあります。得意な生徒が多い国ほど,科学の学力は低い。

 「?」という傾向ですが,これは,「得意」という意識が各国の文脈に規定されるためです。学校で教えられる理科の内容や,求められる到達水準も国によって違いますしね。それに,出来の絶対水準と関係なく,周囲との対比によって,生徒の得意・不得意意識も影響されます。

 さて,問題の理系職志望率が学力と得意意識のどちらと強く関連しているかですが,ドットが大きい国は右下に多くなっています。軍配は明らかに後者です。やはり,生徒に自信をつけさせることが大切なようです。

 一国の危機にかんがみ,「理系学力の強化を!」とよくいわれますが,学力を鍛えても,それを活かし社会に貢献しようという若者,すなわち理系職志望者が増えなければ何にもなりますまい。日本のように,集団内での順位をつける相対テストに繰り返し晒される国では,生徒の理系有能感が剥奪されています。左上に,日本,韓国,台北,シンガポールといった,受験競争が激しい社会が位置しているのも象徴的です。

 相関係数も示しておきましょう。26か国のデータによると,中2生徒の理系職志望率は科学得意率と+0.766,科学平均点と-0.809という相関です。パッと見,「なんじゃこりゃ?」って感じですね。

 生徒の自信を剥奪する相対テストを減らすこと,過密カリキュラムをちょっと緩めること,選り分けることを主眼とする入試においても「関心・意欲・態度」を重視することなど,なすべきことは色々あります。

 国の科学力を高める方策は,当該社会がどの発展段階にあるかによって異なるようです。日本のように成熟を遂げた社会では,生徒の自信を高めることが重要であるのは明らかです。現在進行中の大学入試改革,そして2018年の学習指導要領改訂では,このテーゼを念頭に置いていただきたいと思います。