2016年4月5日火曜日

新規学卒就職者の組成の変化

 教育の役割(機能)は,社会が求める人材を育て,輩出することですが,学校から送り出される人材の組成は昔に比して変わってきています。

 大雑把に学校段階別にみると,昔は義務教育卒(中卒)がマジョリティーだったのですが,今は超マイノリティーです。代わって,以前はわずかしかいなかった大卒者が多くを占めるようになっています。社会が高度化したためですが,「こんなに大卒が要るもんかいな」と腹の底では思っている人も多いでしょう。

 おっと,つまらない推測を挟む前にデータをみてみましょう。高度経済成長期の只中の1960年,そして2015年現在について,中卒,高卒,大卒の就職者数を調べ,その内訳をとってみました。資料は,文科省の『学校基本調査』です。各年3月卒業の就職者数(就職進学含む)です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 高卒は普通科と専門学科(普通科以外),大卒は文系と理系に分けています。下表は,これら5つの群でみた,新規学卒就職者の組成の変化です。学校から社会に送り出される就職者には,専門学校卒,短大卒,大学院卒もいますが,大まかな変化を把握する分には,メジャーな3段階(中卒,高卒,大卒)を拾えば十分でしょう。


 中卒・高卒・大卒の就職者の数は,1960年では167万人,2015では60万人です。少子化もあり,社会に送り出される若き労働力は大幅に減っています。

 組成をみると,昔は中卒が4割を占めていました。「金の卵」と重宝され,地方から都市へと,大量の中卒就職者が集団就職列車で移動したことはよく知られています。その次に多いのは高校専門学科卒(当時でいう職業学科)で,こちらも4割ほど。高度経済成長を担う中堅技術者を育てようという意図から,当時の高校では専門学科の比重が高かったことと対応しています。

 それから55年の歳月を経た現在では,学校から社会に輩出される人間の組成は大きく変わりました。2015年春では,文系の大卒者が半分となっています。人文・社会系を中心に,大学進学率が上昇していることを思えば,さもありなんです。

 上表の組成をビジュアル化してみましょう。最近覚えた,ツリーマップグラフを使います。1960年と2015年の組成図を左右に並べてみました。


 数の激減もさることながら,学校から社会に送り出される若き労働力の組成も大きく変わっています。先ほど述べたように,最近では文系の大卒が半分。果たしてこれは,社会が高度化した故なのかどうか・・・。

 教育というのうは,社会の機能的必要とは無関係に自己増殖する傾向も持っています。それに踊らされ,一人前になるためのハードルが(無意味に)引き上げられ,保護者にすれば子どもを育てるのにかかる教育費が高騰する。今の日本は,こんな状態です。

 時計の針を巻き戻すことはできませんが,1960年のような組成図になったら,出生率はさぞ上がるだろうなと思います。教育費がかからなくなるからです。社会の機能的必要とも,それほど大きくはズレていないと感じます(さすがに高卒学歴は要るでしょうが)。ズレているのは,右側の現在の組成ではないか。

 選挙年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが,18歳時(高卒)での就職・自立を意図的に促してもよいのではないか。無職博士を雇ったら500万円とかいう政策がありましたが,高卒者に適用したらどうでしょう。高卒者を雇ったら報奨金なんてね。昨年の12月27日の記事でみましたが,専門高校の正社員就職率は高し,侮るべからず。

 大学は,後から行けるようにすると。いわゆるリカレント教育ですが,これを阻んできた日本的条件(終身雇用,年功序列賃金)は徐々に崩れてきています。個々の労働者が自分のスキルをウリにして,複数の組織を渡り歩くような時代もくるでしょう。

 人生の初期に教育機会が集中しない,本当に必要を感じたときに学べる。こうなったら,どれほど素晴らしいでしょう。学校から社会に送り出される新卒労働者の組成図(上記)において,もっとオレンジ色の比重が増えていい。灰色に押しつぶされてはならない。こんなふうに思います。