2017年5月9日火曜日

貧困と高校生のバイト率の相関

 『国勢調査』の労働力状態の統計を使って,生徒・学生のアルバイト率を出せることを知りました。計算式は以下です。

 バイト率=通学のかたわら仕事/(通学のかたわら仕事+通学)

 何からの学校に通学している生徒・学生のうち,通学のかたわらで仕事(バイト)をしている者が何%かです。前回みたところによると,15~24歳の生徒・学生のバイト率は,データがとれる1980年以降の推移でみて,過去最高です。学生の生活困窮化の表れと思われます。

 今回は,地域別のデータをみてみようと思います。都道府県別は,都市県で高く地方県で低い構造は分かり切っていますので,飛ばしましょう。ここでは,東京都内23区の15~17歳の生徒のバイト率を計算してみます。高校生のバイト率です。

 仮説は,所得水準の低い区ほど高校生のバイト率が高い,というものです。

 2008年のリーマンショック以降,学費稼ぎのバイトに明け暮れる高校生の存在がメディアでクローズアップされ,2010年に公立高校の授業料が無償になりました。現在では,一定の所得以下の家庭の生徒に対し,就学支援金が支給される制度になっています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/index.htm

 全日制高校の場合は月額9900円で,私立校にあっては,家庭の所得水準に応じて最大2.5倍まで増額されます。よく考えられた制度ですが,貧困とバイトの結びつきを解消するに至っているのかどうか。

 15~17歳の生徒(以下,高校生)のバイト率を,都内の23区別に出してみましょう。下記サイトの表1から。計算に使う数値を採取しました。ピンクの「DB」というボタンを押して,必要な変数だけを使ったクロス表を自分で作れます。便利なものです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001085798&cycleCode=0&requestSender=search

 念のため申し添えますが,これは居住地に基づく統計であって,学校の所在地に基づくものではありません。


 同じ大都市のデータですが,高校生のバイト率は,最低の0.9%(千代田区)から最高の5.5%(足立区)までの幅があります。

 赤字は4%超の区ですが,墨田区,江東区,大田区,足立区,葛飾区,江戸川区が該当。23区の地図が頭に入っている人ならピンとくるでしょうが,明らかに地域性があります。

 上記の各区のバイト率を地図に落としてみましょう,4つの階級を設けて,23区を塗り分けてみました。


 東が軒並み濃い色に染まっており,中心部や西部は真っ白。都内23区を上から俯瞰してみると,高校生のバイト率には,ある傾向をもった地域差がありそうです。

 その傾向は,所得水準との相関です。2013年の『住宅土地統計』のデータを使って,23区の平均世帯年収を出したことがありますが(下記リンク先),この経済力指標との相関図を描くと下図のようになります。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/03/214.html


 明瞭なマイナスの相関です。相関係数は-0.74にもなります。平均年収が低い区ほど,高校生のバイト率が高い傾向にあります。

 当然といえばそうですが,家庭の貧困とバイトの結びつきのマクロ的な表れといえましょう。高校就学支援機制度がしかれている現在でも,こういう現実がある。都内23区という局所の地域単位のデータですが,この点は知っておくべきでしょう。

 今度の『国勢調査』は2020年に実施されますが,そのころには,上記のような明瞭な相関関係はなくなっているかどうか。それでもって,高校就学支援機制度の効果も測られるでしょう。

 私は前に,都内の地域別に中卒者の高校非進学率を出したことがあります。2010年施行の高校無償化政策の効果があったのか,2009年と2012年を比較すると,多くの地域で高校非進学率は減じ,各地域の所得とのマイナスの相関も消えていました。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/08/blog-post_11.html

 ここで明らかになってしまったような,所得とバイト率の負の相関は果たしてどうなるか。別にバイトが悪いとはいいませんが,家庭の事情によって,高校生のうちから過重なバイトに絡めとられ,学校での勉強もままならない生徒がいるとしたら,法律が定める「教育の機会均等」原則に抵触します。

 そのような生徒が,社会階層構造内でどう分布しているか。個人単位のデータで明らかにするのも重要な課題でしょう。