2017年6月13日火曜日

フリーの著述家・芸術家

 フリーランスと呼ばれる人たちがいます。組織に属さずして,自分のスキルを売りして生計を立てている人たちで,最近,この手の働き方をしている人は増えていることでしょう。

 たとえば,フリーライターです。『国勢調査』の職業小分類でいう「著述家・記者・編集者」で,従業地位が「雇人のいない業主」という人たちが該当します。2015年の『国勢調査』の速報抽出結果によると,その数は3万3200人。30年前の1985年の2万2214人に比して,1.5倍に増えています。

 フリーランスが多い職業としては,他に美術家,デザイナー,写真家,音楽家などが挙げられます。これらも加味した,フリーの著述家・芸術家が30年間でどう推移してきたかを整理してみました。『国勢調査』は5年間隔の実施なので,データは5年刻みになっています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02100104.do?tocd=00200521


 フリーの著述家,美術家,音楽家が増えていることが知られます。右端の合計をみると,1985年では9.1万人だったのが2000年には13.3万人になり,2015年では16.4万人になっています。この30年間で,フリーの著述家・芸術家は1.8倍に増えました(下段の指数)。

 この人たちについて,ちょっとばかり詳しくてみてみましょう。最新の2015年の『国勢調査』は抽出速報集計しか出てませんので,職業小・中分類の子細なデータは得られません。そこで,2010年のデータによることにします。上表に記載の通り,3つの職業のフリーランスの合計は,13万7070人です。以下,フリーの著述家・芸術家ということにします。

 まずは年齢構成です。2010年のフリーの著述家・芸術家13万7070人の年齢構成を,就業者全体と対比してみました。下図は,5歳刻みの構成比のカーブです。


 就業者全体のカーブは,人口全体のそれを反映しています。ご覧のように,団塊と団塊ジュニアに山がある「2こぶ」です。

 しかるに,フリーの著述家・芸術家は,30代後半から40代が膨らんだ型になっています。全体の4割がこの年齢層です。

 最初は会社勤めをして,30代後半あたりで独立。しかし淘汰が激しいので,長く続けられる人は少なく,50代あたりから減少。こんな感じでしょうか。

 なお厳しいのは,仕事上のサバイブだけではありません。結婚して家庭を持つことも,フツーの人に比して難しいようです。それは未婚率によって可視化されます。フリーの著述家・芸術家の未婚率の年齢カーブを描くと,下図のようになります。


  男女とも,フリーの著述家・芸術家の未婚率は,全人口よりも高くなっています。如何せん,収入が不安定ですからね。

 しかるに,経済力が期待される度合いが高い男性よりも,女性の未婚率が高くなっています。40代以降の女性は,全人口との落差も大きい。40代後半と50代前半の未婚率を均した生涯未婚率は,全女性は10.6%ですが,フリーの女性著述家・芸術家では39.3%にもなります。4倍近くの差です。

 女性の場合,家庭を持つといろいろ縛りが出てきますが,クリエイターの魂がそれを許さないのでしょうか。

 最後に,地域差をみておきましょう。フリーの著述家・芸術家は,どの県に多く住んでいるか。2010年のフリーの著述家・芸術家は,最初の表でみた通り13万7070人で,就業者全体に占める割合は0.23%です。

 以下の表は,この値を都道府県別に出し,高い順に並べたランキングです。


 東京がダントツですね。予想通りですが,やはり都市部に多く生息しているようです。文化は都市に偏在していますが,実際に会って仕事をもらったり,取材などをするには,都会に住まないといけない。

 まあ今はネットがありますので,こういう障壁は,昔に比したら低くなっているでしょう。私などは,人と会って取材をするスタイルではなく,作品を生み出すのに使う統計資料は大半がネットで見れます。よって,全国のどこに住んでもよし。この春,横須賀に越したのは,こういう理由からです,家賃が下がり部屋が広くなり,言うことなし。

 今回は,あまり知られていないフリーランスの生態について,いくつかの観点からデータを見てみました。その数は増加していますが,言わずもがな,厳しい世界です。

 ネットメディア隆盛の時代で,「ライター募集」なんていうサイトがゴロゴロありますが,そういう所に自分から応募するようでは,搾取されるだけだと思います。「2000字の記事1本の原稿料は500円。PVが少ない場合,原稿料は払いません」とかね。
https://twitter.com/tmaita77/status/707481273086836736

 イケダハヤトさんは,「ネット記事の原稿料は1本5万円から」と公言しています。ここまで強く出れないにしても,自分でブログを書いて,編集者のほうから声がかかるレベルに到達しないとダメでしょう。
 
 1年くらい成果物を発信し続けて,どこからも声がかからないレベルならば,フリーランスの道に進むなんて,考え直したほうがいい。クライアントのほうから声がかかるか。この点が,業界でやっていけるかどうかを見極めるポイントになります。

 私は現在,4つのメディアで連載を持っていますが(1つは休止中),「どうやって仕事を得たのか?」とよく聞かれます。何のことはありません。ブログをみた編集者さんから,「連載をお願いできませんか」と言ってきただけのことです。

 小学生の志望職業の上位に「ユーチューバー」が挙がっているそうですが,最初の表でいう「映像撮影者」に該当するのでしょうね。この手のフリーランスも,これからどんどん増えてくるでしょう。