2018年6月1日金曜日

スキーの実施率

 『ニューズウィーク』の連載も,一昨日公開の記事で80回目になりました。2015年の夏から,原則2週間に1回のペースで記事を載せていただいています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10274.php

 一昨日の記事は,若者の趣味の変化をデータで明らかにしたもので,注目を集めているようです。大雑把に言って,アウトドア系が減りインドア系が増えているのですが,ツイッター上での反応をみると,「スキー・スノボがこんなに減っているのか」という声が多し。

 博報堂生活総研の『生活定点1992-2016』のデータによると,スキー・スノボをよくする20代の割合は,1992年では39.2%でしたが,2016年では11.9%に減じています。四半世紀にかけて,3分の1以下に減っているわけです。

 松任谷由実さんの「恋人はサンタクロース」が流れる,1987年の映画「私をスキーに連れて行って」の時代とは,隔世の感がありますねえ。バブルの頃と比して,カネもヒマもない今の若者の状況が投影されているのは,間違いないでしょう。

 道具費や交通費等,おカネがかかるスキー・スノボの実施率によって,よく言われる「おカネの若者離れ」現象を可視化できるような気がします。官庁統計の『社会生活基本調査』に該当データがありますので,ちょっとばかり深めてみましょう。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200533&result_page=1

 まずは,実施率の年齢曲線です。上記のNW記事では,20代の若者だけを取り上げましたが,他の年齢層はどうでしょう。1991年と2016年について,スキー・スノボの実施率の年齢カーブを描くと,以下のようになります。過去1年間に,スキー・スノボをしたという者の比率です。学校の授業や職場研修等によるものは除く,自発的な実施に限ります。


 40代以降ではさして変化はないですが,それより下の年齢層では,実施率が下がっています。とくに20代は下落が顕著で,1991年の38.6%から2016年に13.7%に減じています。奇しくも,博報堂調査の「よくする」率の数字と近似しているではありませんか。

 大学進学率の上昇により,今の20代は,自由時間が多い学生が増えているはずなんですが,現実はかくのごとし。そうはいっても,今の学生は学費稼ぎのバイトをしたり,最近は大学の締め付けも厳しくなっているので,いろいろ勉強をしたりと,一昔前と比して忙しくなっているのかもしれません。親世代も苦しく,仕送りも90年代の頃に比して大きく減っていますので,カネもないと。

 学生だけでなく,働いている若者も苦しい。やや古いですが,2012年の『就業構造基本調査』から,20代前半の正社員の年収中央値を出すと245万円です。
http://tmaita77.blogspot.com/2017/05/20.html

 むろん今の若者は,たとえカネがあってもスキー板をかついで遠出するような,かったるいことはしない。自宅でネットをする。こういうメンタルの要因もあるかと思います。

 さて当然ながら,スキー・スノボの実施率には地域差があります。上記のグラフは全国のデータで,雪が多い北国では事情は違うだろう,という疑問があるかもしれません。しかし,スキーの実施率は地域を問わず,全国的に減っているのです。

 『社会生活基本調査』では,都道府県別のデータも計算できます。このレベルだと年齢は10歳間隔ですので,15~24歳の年齢層の実施率を取ることにしましょう。1991年と2016年について,この層のスキー・スノボ実施率を県別に出し,高い順に並べたランキングにしました。


 どうでしょう。1991年では15%以上が34県(30%以上が20県)でしたが,四半世紀を経た2016年ではわずか4県です。

 雪が多い県といえど,スキーの実施率は下がっており,北海道,秋田,群馬,神奈川,新潟,富山,石川,山梨,長野,そして愛知では,この四半世紀で25ポイント以上落ちています。上記の表の3色で,47都道府県を塗り分けた地図にすると,変化の様相が実にクリアーです。


 実施率が大きく低下しているの加え,ベースの人口も減っていますので,スキー人口はかなり少なくなっていることになります。「スキーはオワコンか?」「スキー場の閉鎖相次ぐ」といったニュースが耳目に入るのは,必然のこと。

 聞けば,日本の良質な雪の上を滑りたいと,スキー板をかついでやってくる外国人が多いそうです。日本語より中国語や韓国語が多く飛び交っているスキー場もあるとのこと。目下,多くのスキー場が「インバウンド消費」を狙った活路を模索しています。

 スキー板やウェアのレンタルも考えられていいでしょう。カネがなく,面倒なことを忌み嫌う若者の需要喚起に,いささかでも寄与すると思います。

 時代の変化ゆえなので,どうこう言うことではないかもしれませんが,総じて,若者のアウトドアライフの頻度は減ってきています。釣りやキャンプなども同じ傾向です。災害が起きた時の「生きる力」の源泉は,アウトドアライフの経験といいます。若者の視野や経験が広がるよう,意図的に仕向ける必要もあるかもしれません。学校の特別活動は,この面で主要な役割を果たすことを求められるでしょう。