2018年8月3日金曜日

都道府県別の大学進学率(2018年春)

 昨日,2018年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00400001&tstat=000001011528

 学校数,生徒数,教員数といった基本データが載っている資料で,大学生の女子比率が過去最高になったなど,いろいろ報じられています。私はというと,この資料のデータが公表されたらまず,都道府県別の大学進学率を計算することにしています。毎年のことですので,本ブログを長くご覧いただいている方は「またか」とお思いでしょう。

 わが国の4年制大学進学率(以下,大学進学率)は,2009年に50%を超え,同世代の半分が大学に行く時代になって久しくなっています。昨日公表のデータによると,2018年春の大学進学率は53.3%だそうです。

 大学進学率とは,その年の大学入学者数を,推定18歳人口で割った値です。後者は,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者数が宛てられます。今年春の大学入学者は62万8821人で,3年前の2015年春の中学校・中等教育学校前期課程卒業者は117万9808人。よって大学進学率は,前者を後者で割って53.3%となる次第です。

 分子には上の世代(浪人)も含まれますが,今年春の18歳世代からも浪人経由で大学に入る者が同数出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。毎度書きますが,これは私が独断で考えたやり方ではなく,公的に採用されている計算方法です。

 18歳人口ベースの浪人込みの大学進学率は53.3%。同世代の2人に1人が大学に行くことの,数値的な表現です。

 しかるにこれは全国の数値で,地域別にみるとべらぼうに大きい格差があります。上記と同じやり方で47都道府県の大学進学率を計算しましたので,それをご覧いただきましょう。県別に出す場合,分子は,当該県の高校出身の大学入学者数となります。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。上位5位の数値は赤字にしました。

 左端の男女計をみると,全国値は53.3%ですが,最高の72.7%から最低の37.6%までの開きがあります。東京の進学率は,沖縄の倍近くです。同じ国内とは思えぬほどの格差です。

 性別にみると,女子の大学進学率が最も低いのは,わが郷里の鹿児島ですか…。鹿児島は男子が43.4%,女子が34.1%とジェンダー差が大きくなっています(9.3ポイント)。数年前,本県の知事が「女子に三角関数を教えて何になる」と発言したのが思い出されます。最も性差が大きいのは山梨で,男女で15.7ポイントも違っています。

 逆に「男子<女子」の県もあり,四国の徳島は毎年そうです。自宅から通える女子大でもあるのか,大学以外の魅力的な中等後教育機関があり,男子の大学進学志向が相対的に小さいからなのか…。今年になって,首都の東京もこのタイプになっています(男子72.2%,女子73.2%)。自宅から通える大学がたくさんあるのが大きいでしょうね。

 表をざっとみると,大学進学率は都市部で高く,地方で低い傾向がみられます。当然といえばそうですが,地図にするとクリアーです。下図は,男女計の大学進学率で塗り分けたマップです。


 濃い色は50%を超える県ですが,その数は多くありません。同世代の半分が大学に行く,大学教育のユニバーサル化というのは,都市部に限った話です。

 この事実(fact)をどう見るかですが,皆が皆,大学に行かねばならないというのではありません。奨学金という借金だけを負わされ,後々人生を狂わされるようなFラン大に行くくらいなら,別の進路に進んだほうがいい,という考えもあります。

 県によって大学進学率が異なることは,各県の生徒の意向を反映した「差」であり,是正を要すべき「格差」ではないのかもしれません。「大学進学率の地域差なんてあって当たり前,何が悪いのか?」。こう言いたくなる人もおられるでしょう。

 しかしながら,各県の大学進学率は,社会経済指標ととても強く相関しているのも事実です。たとえば,県民所得が高い県ほど大学進学率は高い傾向にあります。地域移動も含め,進学にはコストがかかるのですから当然ですよね。

 これは経済的要因ですが,親世代の高学歴率とはもっと強く相関しています。親や地域の人が大学をどういうものと考えるか,子の大学進学に価値を置くかです。2017年の『就業構造基本調査』から,各県の45~54歳人口の大学・大学院卒比率を出し,上表の男女計の大学進学率との相関をとると,以下のようになります。


 右上がりの傾向が明瞭です。親世代に大学を出た人が多い県ほど,子世代の大学進学率が高い傾向にあります。相関係数は+0.8237にもなります。スゴイですねえ。

 他にも,地域に大学(定員)がどれほどあるかという大学収容力の要因も効いています。自宅から通えない場合,コストがかかる地域移動を強いられるのですから,進学率は低くなりますね。

 ざっと考えて,所得,親の学歴,大学収容力というファクターがあるのですが,これらを同時に取り込んだ重回帰分析によると,各県の大学進学率への影響が最も強いのは,2番目の親学歴のようです。ブルデューを引くまでもなく,文化資本の影響が大きいようです。

 なお,男子よりも女子の大学進学率のほうが,これらの社会経済指標の影響を強く被っています。さもありなんです。1人しか行かせられないならば男子優先,女子は自宅からでないとダメ,という家庭も多いでしょうし。郷里の鹿児島では,進学率のジェンダー差が大きいのですが,こういう風潮が強いのではないか。実体験に照らしても,分からないではありません。

 上記の相関図をみると,子どもの学力首位の秋田の大学進学率は低くなっています。福井の進学率も,さほど高くはありません。グラフは示しませんが,各県の子どもの学力テストの成績と大学進学率の間には,相関関係はナシです。地方には,埋もれた才能も多そうですね。

 各県の大学進学率は,子どもの能力よりも,社会経済指標と強く相関している。どうやら,大学進学率の地域差は,子どもの自発的な意志を反映した単なる「差」と片付けることは難しいようです。地方には,能力があり希望するにもかかわらず進学できない子が多い。こういう不平等の要素も含んでいると考えるべきでしょう。私は,今回のデータを,大学進学率の都道府県格差と呼ぶべきだと考えています。

 わが国の大学進学率は年々上昇し,50%を超えてから久しいですが,著しい地域格差を内包していることを忘れてはなりますまい。