2019年5月7日火曜日

高学歴マザーのフルタイム就業率

 前回は,大卒率のジェンダー差の国際比較をしました。15歳生徒の父母のデータで見る限り,日本はそれが最も大きいことが分かりました。父の大卒率が44%,母が27%,その差は17ポイント。こういう社会は類を見ません。発展途上国を含めてもです。

 だいぶ前に,これと同種のデータを出したことがあるのですが,「そりゃあ,女性は大学出たって,結婚したら仕事辞めてパートのおばちゃんなんだからね」という声がありました。辛辣ですが,現実を言い当ててていると思います。

 前回は「PISA 2015」のデータを使いましたが,その前の「PISA 2012」では,15歳の生徒に母親が何をしているかを尋ねています。フルタイム就業,パート就業,求職中,専業主婦の4択です。母親が大卒ないしは大学院卒(ISCEDレベル5A以上の学歴保有者)の生徒は,この問いにどう答えているか。

 リモート集計ではじき出してみると,フルタイム就業と答えた生徒の率は,日本は41%となっています。主要国の数値をみると,韓国は49%,アメリカは68%,イギリスは58%,ドイツは445,フランスは70%,スウェーデンは76%です。高学歴マザーのフルタイム就業率は,日本は低いようです。

 他国はどうでしょう。「PISA 2012」から,64か国のデータを得ることができます。高学歴マザーのフルタイム就業率が高い順に並べると,以下のようになります。


 日本は先進国の群れから外れて,下から7番目という位置です。近辺には,カタール,アラブ首長国連邦,ヨルダンといった社会があります。日本の高学歴マザーの社会進出度は,中東と同レベルのようです。

 ドイツやスイスも低いですが,雇用形態による賃金差がないので,積極的にパートの働き方を選んでいるマザーが多いのかもしれませんね。

 私はこの表をみて,日本は高学歴女性のハイタレントを活用できてないのだなあと思いました。こういう状況があるのを若き女子が感じ取って,大学進学の効用を見限り,大学進学率のジェンダー差が大きくなってしまうのでしょうか。冒頭で引いた「女性は大学出たって,結婚したら仕事辞めてパートのおばちゃんなんだからね」という声が突き刺さります。

 上記の表は昨日ツイッターで発信しましたが,多くの人が見てくださっています。私と同様,「日本はスゴイ無駄をしている」という声が多数ですが,「社会進出できないでいるのか,しないでいるのかを区別しないといけない」という意見もありました。

 そうですねえ。右下の中東諸国では,大卒女性は石油富豪と結婚していて,望んで(優雅な)主婦生活をしているのかもしれません。対して左上の旧共産圏の社会では,国民皆労働の伝統が強く,かつ貧しいので,好むと否とに関係なく働かないといけない。こういう社会の女性は「日本の女性を羨ましく思っている」。こんなリプもありました。

 これが妥当であるなら,社会的地位の高い男性と結婚しやすい大卒女性のフルタイム就業率は,普通の女性よりも低いように思えます。しかし現実は逆です。どの社会でも例外なく,高学歴マザーのフルタイム就業率は,母親全体よりも高くなっています。

 横軸に高学歴マザーのフルタイム就業率,縦軸に母親全体との差分をとった座標上に,64の国を配置したグラフを作ってみました。


 トルコとベトナムでは,高学歴マザーのフルタイム就業率は,母親全体より40ポイント以上高くなっています。ハイタレントの女性は歓迎され,当の女性も身に付けた高度な能力を活かしたい,という欲求が強いのでしょう。三世代世帯が多いという条件もあるでしょうが…。

 程度の差はあれ,それはどの社会も同じのようですね。しかし,日本の位置が気になります。高学歴マザーのフルタイム率が低く,かつ母親全体との差分も小さいのです。能力に関係なく,女性は「マミートラック」に絡めとられやすい,ということでしょうか。お隣の韓国も近い位置にあります。くどいですがもう一度。「女性は大学出たって,結婚したら仕事辞めてパートのおばちゃんなんだからね」。

 最初のランキング表を見て,日本を含む右下の諸国は「豊か」であることの証,何も問題ない。こういう声がありましたが,果たしてそれは正しいのか。日本でも,自身のタレントを発揮したいと願う女性は多く,共働きでないとやっていけないという圧力に晒されている夫婦が多いのは同じです。だからこそ,多くの夫婦が血眼で「保活」に取り組むのです。

 大卒・大学院卒の母親のフルタイム就業率=4割。日本のこの数値は,非自発的な要素を多く含んでいるとみていいでしょう。

 高学歴の既婚女性にフォーカスを充ててみると,日本では,女性の社会進出を促す余地は多分にあるのだなと感じさせられます。三世代同居を促すような時代錯誤のやり方ではなく,公的な保育の受け皿を増やすことによってです。