2019年5月15日水曜日

ロスジェネの一人として朝日新聞に登場

 今朝の朝日新聞ウェブ版に「40代,貧困ポスドクの悲哀,時給バイト以下,突然クビ」という記事が出ています。この記事に顔出しで登場させていただきました。
https://digital.asahi.com/articles/ASM4T747JM4TULZU017.html

 同紙の連載「ロスジェネはいま」に含まれる記事です。学校卒業時が就職氷河期と重なり,正規就職が叶わず非正規や無職に留め置かれている人が多し。団塊ジュニアのちょっと下の世代で,人数的にも多いです。

 ロスジェネも40代前半に達し,介護保険の支払い等,重みを増す税負担にあえいでいます。今は働き盛りですが,老後もチラチラ見え始め,一体どうなるのだろうと絶望に駆られている人もいるでしょう。年金など碌にもらえない人も多し。

 国も,この世代が高齢期に達したらどうなるかと懸念を抱き,また学校卒業期の状況がどうだったかで,こうも割を食うのは不公平だと,この世代の救済に乗り出しました。まずは名前からと,「人生再設計第一世代」とネーミングしてくださっています。

 朝日新聞の連載「ロスジェネはいま」は,こういう時流に即したものです。当該世代の当事者に会って,生の肉声を集めているようです。語り手は駒崎弘樹さん,雨宮処凛さん,小林美希さん,阿部真大さん…。なるほど,この世代の人たちですね。


 76年生まれの私も,末席に加えていただきました。当事者として私もロスジェネ問題に関心があり,いろいろデータを集め,ブログやニューズウィーク記事で言いたいことを申してきました。編集委員の真鍋弘樹氏が,それに関心を持ってくださったことによります。

 ロスジェネといっても色々な人がいますが,優秀なポスドク女性の自殺事件が起き,高学歴ワーキングプア問題への関心が集まる中,似たような状況に置かれているこいつの話を聞いてみよう。こういう意図もお持ちだったと推測します。

 連休前の平日に昼下がりに,横須賀中央駅までお越しいただき,行きつけの南蛮茶屋でお話ししました。まずは私の身の上話から。99年に学部卒業,01年修士修了,1年ダブって05年に博士修了,博士号を取得し,数校で非常勤講師をしながら大学専任職への道を模索したと。

 今でこそブログやツイッターで大学の悪口を言ってますが,05~10年頃は,私もせっせと教員公募に応募していました。1年間に8つくらい出してましたから,トータルで40ほど落選したことになります。今朝の記事で書かれている通りです。自殺された優秀な仏教研究者は20校ほど落選とのことですが,私はその倍以上です。

 経験者はお分かりでしょうが,「貴意に沿えず」を何回も食らっていると,心が荒んでくるのですよね。送った書類や業績がきれいなまま戻ってくるのもしばしば。30代半ばになると状況が厳しいのが分かってきて,「もういいや」となりました。最後の公募に応募したのは,2011年の3月半ばだったと記憶しています。東日本大震災の直後です。

 非常勤講師は続けましたが,給与が激安であること,そもそも採用時に給与すら聞けないこと,という話に驚いておられましたねえ。真鍋氏も,われわれの業界でいう「1コマの意味」をご存知ないようでした。1コマ3万円というのは,1回90分の講義ではなく,月4回の講義の対価です。1回あたりにすると7500円。授業準備や学生への質問対応の時間を入れたら,時給は学生バイト以下になります。記事で書かれていますが,「ボランティアや名誉職」という感じです。
https://tmaita77.blogspot.com/2015/01/blog-post_20.html

 給与を聞けないというのも,この業界では常識。代わりはいくらでもいますので,給与を聞こうものなら「じゃあいいいです,他の人に頼みます」と言われます。私自身,それをやってしまったことがあります。紹介してくれた先生にも話がいったようで,「非常識なことを聞くな」とお叱りを受けました。給与を聞けないことのほうが,よっぽど非常識だと思いますがねえ…。

 この業界は,やはり異常なんだなと感じました。

 その非常勤講師も,40歳になった2016年度をもって,軒並み雇い止めになりました。記事に書かれている通り,「若い人に代わって欲しい」という理由からです。専任職に応募する場合,教歴が問われますので,後進に道を譲らないといけません。この仕事にうんざりしていた面もあるので,「ああそうですか」と,大人しく職を退きました(懇親会や会合に全然出ない,私の態度が問題になったという話も聞きましたが)。2017年春に横須賀に越したのは,都内に居続ける必要がなくなったのもあります。

 今は文筆で生計を立てていますが,まあ,独り身を養う分の額は稼げています。「今後も,正規の研究職を目指すのか」と聞かれ,「いや,もういいっすわ」と答えたところ,相手はちょっと意外そうな顔をされていました。「はい,今後もトライします」と答えたら,「ロスジェネの救済を!」というトーンの美談を書けたのでしょうが,申し訳ありません…。

 ロスジェネは20年も社会の片隅に置かれ,メンタルを病んでいる人も多いです。「正社員化,正社員化というけれど,それは通用しないと思いますよ」と,私は言いました。

 「ロスジェネという,このさ迷える世代をレールに戻すには,どうしたらいいか」という問いには,「レール自体がおかしくなっている」と答えました。正社員を是とし,年功によって給与が決まる年功賃金制を改めない限り,ロスジェネが社会に入る隙などありません。時代にそぐわなくなった,昭和以来のレールを修理してほしい。ロスジェネ難民を乗せた列車の車輪に合うようにです。

 具体的にどういうことかは,記事の最後のほうをご覧くださいませ。ネット限定の有料記事ですが,朝日新聞には良質な記事が多いので,有料会員登録しても損はないと思います。私も,この4月から登録しています。月に980円,社会を語るなら必須の投資です。

 「ロスジェネはいま」は,とても楽しみな連載です。今後も,この世代の面白い人が続々登場するでしょう。最後になりましたが,モノ申す場を設けてくださった,朝日新聞編集委員の真鍋弘樹氏にお礼を申し上げます。