人生100年の時代,高齢期を引退期として過ごすのは経済的にも心理的にも不可能ですが,高齢期の働き方のメインは,会社勤めではなくフリーランスです。ITの普及により,こういう働き方が容易になる条件も整ってきています。
しからば,そのフリーランスというのは,どれくらい稼げるのか,普通の暮らしをするに足る収入を得られるのか? こういう疑問が出てくるのが道理です。
フリーランスは,労働者の従業地位の区分では,自営業の中の「雇人のいない業主」に相当します。自分一人で事業をやっている人,専門的なスキルを切り売りして収入を得ている人です。労働者の稼ぎを知るのに最もいいのは『就業構造基本調査』ですが,従業地位の自営業が,「雇人のある業主」と「雇人のない業主」に分かれていません。両者が一緒くたにされちゃっています。
ですが,2017年調査の公表統計を丹念にみると,全国編の表03001「男女,所得(主な仕事からの年間収入・収益),年間就業日数・就業の規則性・週間就業時間,従業上の地位・雇用形態別人口(有業者)」では,セパレートされています。この表は,前回,雇用労働者の時間給を出すのに使った表です。
これはありがたい。私は早速,雇人のない業主(フリーランス)と正社員のボックスにチェックを入れ,この2群の所得分布を比較することを思い立ちました。賃金のジェンダー差の影響を除くため,男女で分けます。
男性正社員,男性フリーランス,女性正社員,女性フリーランスの4群について,年間の所得分布(税引き前)を出しました。%の母数は順に,2306万人,289万人,1109万人,106万人です。所得の階級区分は,原資料によります。
赤字は最頻値(Mode)で,正社員は男女とも300万円台となっています。「低すぎじゃない」と思われるかもしれないですが,入職して間もない若者や高齢の継続雇用者も含まれますので,こんな所でしょう。
注目のフリーランスはというと,なななんと,男女とも一番下の50万円未満が最多となっています。男性の53.7%,女性の79.7%は,所得200万円未満のワーキングプアです。目を疑うような分布で,何度も資料を確認しましたが,こういう結果です。
フリーランスというと,若いライターやデザイナーとかを思い浮かべますが,数の上では高齢者が大半です(『国勢調査』2015年)。年金の足しに家庭菜園をやっている程度の老人が多く含まれるので,こういう結果になるのでしょうか。
年齢を統制できるといいのですが,それは叶いません。しかし,年間就業日数・週間就業時間でソートすることはできます。そうですねえ。年間300日,週60時間以上働いている,長時間労働者に絞ってみましょうか。これなら,本気でフリーランスをやっている人に近くなるでしょう。
男性のフリーランスは,正社員と同じく,所得300万円台が最も多くなります。しかし女性フリーランスは,全体と同じく50万円未満が最多です。年間300日,週60時間以上働いてコレです。この長時間労働者に限定しても,男性フリーの4割,女性フリーの6割が所得200万円未満のワーキングプアであるとは驚愕です。
フリーランスの場合,報酬は1つの仕事あたりであって,それに費やした時間は考慮されません。残業代という概念もありません。オンとオフの境界が曖昧で,労働時間も際限がなくなりがちですが,もらえるお金は仕事あたり。長時間労働者に絞っても,上記のような結果になるのは分からないではありません。
データは省きますが,就業時間の分布をみると,フリーランスは正社員より長くなっています。それでいて,その対価は上記のごとし。労働時間あたりの時間給にすると,さぞ悲惨な数値が出てくることでしょう。
「年間就業日数×週間就業時間×所得」の統計表から時間給を割り出す方法は,前回の記事で考案しました。それと同じやり方で,正社員とフリーランスの時間給の分布を明らかにしてみました。以下は,その結果です。
ぐうう。フリーランスは男女とも,時給500円未満の階級が最も多くなっています。男性は27.7%,女性は43.0%です。明らかに違法な賃金レベルですが,フリーランスは法の適用外。
労働時間と給与と組み合わせた時間給という指標でみても,フリーランスは正社員に比して明らかに劣悪であるのが分かります。
最近称賛されることの多いフリーランスですが,現実はかなり厳しいようです。最初の所得分布表をみると,所得300万円以上は男性フリーで28.2%,女性フリーで10.5%となっています。これが独り身を養えるレベルかと思いますが,並大抵のことではないですね(とくに女性)。私は幸い,この群に入っていますが,いつ転落するか分からないので,常に気を引き締めて仕事しています。
まあ,「正社員かフリーランスか」というように,労働者を2分して考える必要はありません。正社員の保障,フリーランスの自由(融通)を折衷させた働き方も考えられます。それを導入しているのが,体脂肪計などを作っているタニタです。できる社員は,フリーランスの形で働いてもらい,その才能を存分に発揮していただく。社長曰く「社員とフリーランスのいいとこ取りができる制度だと自負しています」。
働き方を変える,素晴らしい取り組みだと思います。来年のオリンピック開催時の交通混雑を避けるため,大規模なテレワーク(在宅勤務),時差通勤の実験が行われるそうです。これを機に,社会が変わるといい。
今回のデータでみたように,フリーランスは低収入で労働時間も際限がなくなりがち。身体を壊しても,何の保証もなく自己責任です。国保や年金等もキツイ。
一定以上の量を仕事を発注している企業は,当該フリーランスの社会保険を幾ばくか負担する。こういうシステムはどうでしょう。当人の努力や才能に依存して,儲けさせてもらっているのですから。フリーランスにベーシックインカムを支給するという発想も出てきています。
超高齢化,情報化社会では,フリーランス的な働き方を欲する人が増え,それへの需要も高まります。当然,そういう人への生活保障も必要になるわけです。その必要性がきわめて高いことは,今回のデータから嫌というほどお分かりいただけたかと思います。