コロナ渦も一段落?し,学校が再開されています。油断禁物ということで,分散登校させたり,傘をさして登下校させたりと,自治体は「密」を避けるための工夫を色々凝らしています。傘をさすのは熱中症防止にもなり,好いアイディアだと思います。
むろん,教室内でも「密」を避けないといけません。そのために分散登校しているものの,1学級あたりの子どもがあまりに多いとなると,その効果も薄いものとなります。これは,教育行政の姿勢に関わることです。
昔は,40人学級,50人学級というのはザラでした。1955(昭和30)年の1学級あたりの児童・生徒数を出すと,公立小学校は43.8人,公立中学校は46.4人です(『文部科学統計要覧』2019年版)。これが時代と共にどんどん少なくなり,2016年では公立小が27.2人,公立中が32.2人となっています(OECD「Education at a Glance 2019」)。
すごい変わりようですね。「教員数や学級数を増やし,少人数教育を!」という声を上げると,「昔に比したらだいぶよくなっている」と,年輩の人から一蹴されることが多し。教育行政の上層部は,こういう人ばかりなんで始末に負えません。
しかしタテの時系列比較ではなく,ヨコの国際比較だとどうでしょう。日本の2016年の数値は上記の通りですが,OECD加盟国の中に位置づけるとどうか。下表は,小・中のデータが分かる31か国を高い順に配列したものです。
日本は小学校が3位,中学校は1位ですね。国際的にみると,大規模学級の国のようです。コロナと関連付けて言うと,教室の「密」の度合いが高いようです。
むろん,教室の面積も考慮しないといけませんが,日本の住居を「ウサギ小屋」とバカにする国が多いので,学校の教室もゆとりあるサイズにしているのではないでしょうか。日本と比して,教室が著しく小さいなんてことはないでしょう。
でも,考えてみると不思議ですよね。日本は少子化が進み,子どもが少ない社会です。2015年の子ども人口(15歳未満)比率は13.0%と,OECD加盟国では最低です。子どもは減っているものの,学校の施設はそのままなんで,空き教室も増えているはず。どうして? 異国の人にすれば,こんな疑問もわくでしょう。
公立小学校の1学級あたりの児童数(上表)を,各国の子ども人口比率と絡めると以下のようになります。
右上には,子どもが多く,1教室の子どもも多い国があります。これは分かりやすい。対極の左下には,子どもが少なく,教室の子どもも少ない国があります。これも道理です。しかし日本は傾向から外れていて,子どもが少ない社会であるにもかかわらず,1つの教室に押し込められる子どもも多くなっています。
教員や学級を増やさない,つまりは教育にカネをかけてないってことでしょうね。それは,公的教育費の対GDP比が毎年最低であることに裏付けられています。いじめのような問題も,こうした教室の「密」に由来する部分もあるのではないでしょうか。
教育行政のお偉方は,昔の超過密学級の記憶が頭に残っていて,「今の状況は全然マシ」と思っているのかもしれませんが,国際的にみたら大規模学級の部類であることが,データでお分かりかと思います。これを改善することは,子どもの命を守る上でも必要なこと。今の状況の診断基準は,遠い過去の記憶ではなく,今現在の国際標準に置くべきです。
ただ,国内の地域差もあります。公立小学校の児童数別の学級数から,1学級の児童数の中央値(median)を都道府県別に計算し,高い順に並べると以下のごとし。2019年5月時点のデータです。
全国値は,先ほどの国際統計と同じく27人ほどですが,県別にみると東京の30人から高知の17人まで大きな開きがあります。
東京は少子化など「どこ吹く風」。子どもが増えていますので,1学級の児童数も相対的に多くなっています。一方,地方は比較的ゆとりがあるようです。
コロナを経て,地方への移住志向が高まっているといいますが,「密」を避け,子どもに手厚い少人数教育を受けさせるというのもいいのではないでしょうか。仕事もリモートでできるのなら,人口密度の高い東京にいる必要はなしです。
私は大学を辞めた(クビになった)のを機に,2017年春に横須賀に移り住みました。横須賀といっても,三浦半島の南西のはずれで,人口密度は低し。外を出歩く分には,マスクなんてする必要なしです。この選択に間違いはなかったと思っています。