2020年12月9日水曜日

理科平均点の性差の学年変化

  日本ではリケジョが少ない。これは前から問題視されていて,国策としてリケジョを増やす方針が示されています。

 しかし,こうも言われます。男子と女子では理系教科の出来が違うし,そもそも女子は理系職を自分の意志で志望しない。これは自然なことなので,仕方ないのではないか。「理系教科は男子の方ができて当たり前,脳のつくりが違うから」。こういう生物学的な説を出されると,身も蓋もありません。

 ですがね,このブログで何度も示しているように,理科学力が「男子>女子」というのは普遍的ではないのです。最新の国際理科学力調査「TIMSS 2019」の結果が公表されましたので,このデータを使ってみることにしましょう。

 国立教育政策研究所の結果概要レポートでは,日本の算数・理科の平均点が上位であることが言われていますが,性別の数値を知れません。男女別の結果を知るには,調査実施主体のIEAのサイトに当たって,詳細資料を見ないといけません。私は国別・性別の結果一覧のエクセルをダウンロードし,小4の理科,中2の理科の平均点を,国別・性別に整理しました。

 調査対象は,小4は58か国,中2は39か国ですが,日本を含む主要7か国のデータは以下のようになります。*ドイツは中2が調査対象ではないので,対象から外しています。


 男子と女子の平均点で,右端は,女子が男子より何点高いかの差分です。小4をみると,韓国とアメリカを除いて,男子より女子が高いではないですか。日本もそうで,男子が559点,女子が565点と,女子のほうが高くなっています。

 中学生になるとこれがひっくり返り,日本の中2では男子が女子より10点高くなります。以後,発達段階を上がるにつれて,理科学力が「男子>女子」の傾向が固定すると。OECDの「PISA」の対象は高校1年生(15歳)ですが,科学的リテラシーの平均点はどの年も「男子>女子」ですよね。

 ここで押さえたいのは,理科平均点が「男子>女子」というのは思春期以降ということです。児童期はそうではないと。教科の内容が高度化し,かつ進路を意識し始める時期ですが,「女子なのに理科ができるなんて変なの」「女子が理系に進んでもいいことない」などと,周囲からジェンダーメッセージを受け,女子は理科から遠ざけられるのではないでしょうか。そういえば私が中学の頃,数学がバリバリできる女子がいましたが,教師から「お前,嫁のもらい手がなくなるぞ」と冷やかされていました(許されざることですが)。

 それはどこの国も同じ,というのではありません。上表をみると,アメリカは小4では「男子>女子」でしたが,中学になると女子のほうができるようになります。北欧の2国は小4の時から「男子<女子」で,中2になるとそれがもっと顕著になります。思春期におけるジェンダー的社会化(gender socialization)は,社会によって違うのです。日本のそれを大いに問題視し,是正する余地は大有りです。

 他の対象国のデータも見てみましょうか。女子の理科平均点が男子より何点高いか。以下は,小4と中2の両方のデータがとれる33か国です。「男子<女子」の差分が大きい順に並べています。


 どうでしょう。小4でみても中2でみても,理科平均点が「男子<女子」の国が多いではないですか。中東ではそれが顕著です。宗教要因で女子への統制が強い社会ですが,科学立国に寄与する理系分野なら男女平等の教育機会が開かれているので,女子は奮起するのだそうです。

 小4と中2の違いをみると,位置変化が最も大きいのは日本です。思春期になって,理科平均点が急激に「男子>女子」になります。繰り返しますが,この時期における(よからぬ)ジェンダー的社会化を疑ってみる必要がありそうです。そうですねえ,小6~中2あたりの児童生徒に,周囲からどういうジェンダー的言葉がけをされるかを,アンケートで訊いてみたらどうでしょう。

 在籍学校の理科教員の女性比率によって,理科得点の性差がどう異なるかも興味深い。仮に,女性の理科教員が多い学校で,理科得点が「男子<女子」という傾向が出るなら,下駄をはかせてでも女性の理科教員を増やすべし,というエビデンスになります。

 毎年行われる『全国学力・学習状況調査』の質問紙に,こういうジェンダー的観点の設問も入れたらどうでしょうか。この調査の対象は小6と中3で,ちょうどいいではないですか。信頼度100%の悉皆調査によって,思春期の人間形成の闇が暴かれたなら,それはもう説得力抜群というものです。