日本ではリケジョが少ない。これは前から問題視されていて,国策としてリケジョを増やす方針が示されています。
しかし,こうも言われます。男子と女子では理系教科の出来が違うし,そもそも女子は理系職を自分の意志で志望しない。これは自然なことなので,仕方ないのではないか。「理系教科は男子の方ができて当たり前,脳のつくりが違うから」。こういう生物学的な説を出されると,身も蓋もありません。
ですがね,このブログで何度も示しているように,理科学力が「男子>女子」というのは普遍的ではないのです。最新の国際理科学力調査「TIMSS 2019」の結果が公表されましたので,このデータを使ってみることにしましょう。
国立教育政策研究所の結果概要レポートでは,日本の算数・理科の平均点が上位であることが言われていますが,性別の数値を知れません。男女別の結果を知るには,調査実施主体のIEAのサイトに当たって,詳細資料を見ないといけません。私は国別・性別の結果一覧のエクセルをダウンロードし,小4の理科,中2の理科の平均点を,国別・性別に整理しました。
調査対象は,小4は58か国,中2は39か国ですが,日本を含む主要7か国のデータは以下のようになります。*ドイツは中2が調査対象ではないので,対象から外しています。
中学生になるとこれがひっくり返り,日本の中2では男子が女子より10点高くなります。以後,発達段階を上がるにつれて,理科学力が「男子>女子」の傾向が固定すると。OECDの「PISA」の対象は高校1年生(15歳)ですが,科学的リテラシーの平均点はどの年も「男子>女子」ですよね。
ここで押さえたいのは,理科平均点が「男子>女子」というのは思春期以降ということです。児童期はそうではないと。教科の内容が高度化し,かつ進路を意識し始める時期ですが,「女子なのに理科ができるなんて変なの」「女子が理系に進んでもいいことない」などと,周囲からジェンダーメッセージを受け,女子は理科から遠ざけられるのではないでしょうか。そういえば私が中学の頃,数学がバリバリできる女子がいましたが,教師から「お前,嫁のもらい手がなくなるぞ」と冷やかされていました(許されざることですが)。
それはどこの国も同じ,というのではありません。上表をみると,アメリカは小4では「男子>女子」でしたが,中学になると女子のほうができるようになります。北欧の2国は小4の時から「男子<女子」で,中2になるとそれがもっと顕著になります。思春期におけるジェンダー的社会化(gender socialization)は,社会によって違うのです。日本のそれを大いに問題視し,是正する余地は大有りです。
他の対象国のデータも見てみましょうか。女子の理科平均点が男子より何点高いか。以下は,小4と中2の両方のデータがとれる33か国です。「男子<女子」の差分が大きい順に並べています。
小4と中2の違いをみると,位置変化が最も大きいのは日本です。思春期になって,理科平均点が急激に「男子>女子」になります。繰り返しますが,この時期における(よからぬ)ジェンダー的社会化を疑ってみる必要がありそうです。そうですねえ,小6~中2あたりの児童生徒に,周囲からどういうジェンダー的言葉がけをされるかを,アンケートで訊いてみたらどうでしょう。
在籍学校の理科教員の女性比率によって,理科得点の性差がどう異なるかも興味深い。仮に,女性の理科教員が多い学校で,理科得点が「男子<女子」という傾向が出るなら,下駄をはかせてでも女性の理科教員を増やすべし,というエビデンスになります。
毎年行われる『全国学力・学習状況調査』の質問紙に,こういうジェンダー的観点の設問も入れたらどうでしょうか。この調査の対象は小6と中3で,ちょうどいいではないですか。信頼度100%の悉皆調査によって,思春期の人間形成の闇が暴かれたなら,それはもう説得力抜群というものです。