コロナ禍が社会を大きく変えつつありますが,就労の世界でいうと,その最たる変化は,テレワークの普及です。オフィス以外の多様な場で業務をこなすことで,「密」を避けようという意図から,こういう働き方が導入されています。
しかし,「テレワークができるのは一部のホワイトカラーだけ,現業職はまず不可能。TWができているのは,全労働者の1割もいないのではないか」という声も聞かれます。いやいや,さすがに1割はいるかと思いますが,どうなんでしょう。
前々回で使った,内閣府の『新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査』では,感染症の影響下で経験した働き方を尋ねています(Q13)。対象は,仕事をしている15歳以上の就業者(6649人)です。9つの選択肢を提示し,当てはまるものを全て選んでもらっています。以下は,各項目の選択率(%)です。
テレワーク,勤務日制限,フレックス,時短といった項目が挙げられてますが,就業者の41.1%が最後の「いずれも実施していない」を選んでいます。コロナ禍にあっても,働き方が変わってない人たちです。多くが現場作業の人たちでしょう。
テレワークについては,3つのレベルに分けられています(1~3)。100%TWが10.5%,50%以上が11.0%,50%未満が6.9%,です。これら3項目の選択に重複はないので,独立した割合と読めます。TW中心の就業形態に移行したのは,1と2を足して21.5%と見なせそうです。
結構いますね。国内の全労働者は6000万人ほどで,このうちの2割(1200万人)がTW中心の働き方に変わっていると推測できます。1200万人といえば,東京の人口よりちょっと多い程度ですが,地方移住を考えている人も少なからずいるでしょう。この人たちを取り込めたら強い。そのカギは,子育て支援を充実させることです。コロナ禍の影響で,大都市を出て行っているのは子育て年代ですので。
テレワークに移行した労働者のパーセンテージの見当はつきました。次に見たいのは,コロナ禍でTWに移行したことで,意識にどういう変化が起きたかです。「通勤地獄から解放された,自宅で自分のペースで仕事ができる」といったプラスの声もあれば,「孤独を感じる,労働時間に際限が無くなった」というマイナスの声も聞かれます。私はずっと,在宅の自営業ですが,後者については肌感覚でよく分かります。
上記の表によると,コロナの影響で100%テレワークに移行したのは,調査対象の全就業者(6649人)の10.5%,実数にすると696人です。この696人を取り出し,感染症拡大前と拡大後で,仕事の満足度がどう変わったかを比べてみましょう。
Q43において,拡大前と拡大後に分けて,仕事の満足度を10段階(0~10点)で問うています。分布は以下です。
ピークが5点であるのは変わりないですが,コロナ拡大後では,0~2点の低得点層が増えています(6.6%→10.9%)。その代わり,高得点層(8~10点)の比重は24.4%から17.5%に減っています。
10段階(0~10点)の平均値は拡大前が5.95点,拡大後が5.32点で,ほぼ全面的にTWに移行したことで,仕事の満足度が落ちていることが知られます。先ほど書いたメリットとデメリットを天秤にかけたら,後者の方が大きい,ということでしょうか。
ちなみに,仕事満足度の低下幅は年齢によって違っています。コロナによって100%TWに移行したのは696人ですが,この人たちを10歳刻みの年齢層に分け(20代は156人,30代は144人,40代は159人,50代は119人,60代は94人),拡大前と拡大後の仕事満足度の平均点を出してみました。*20歳未満と70歳以上は人数が少ないので分析対象から除きます。
以下は,各年齢層の変化を視覚的に見れるグラフです。
折れ線の型も変わっていて,拡大前では中高年層で高かったのが,拡大後はおおむね若年層ほど高い傾向になっています。
興味深い変化ですね。高齢層は情報機器の扱いに不慣れなので,TWに馴染めないのでしょうか。また決済なども省略されているでしょうから,自分がいなくても部下だけで業務が進められていく様をみて,自分の存在意義のなさを見せつけられているのかもしれません。
ある人がツイッターで,「テレワークは,仕事しないおじさんを可視化する」と言っていました。コロナ前では,機械的な年功賃金でいい思いをしていたオジサンたちも,コロナによって,自身の無力を思い知らされていると。これまでが異常で,コロナ拡大によって,実力主義の萌芽が出始めているという点で,歓迎すべきことと言えるかもしれないです。
奥のデスクにでんと座って,部下が持って来る書類に決裁印を押しているだけで高給がもらえていた,甘い環境は消えつつあると。働き方の変化に適応できていないオジサンは,辛い思いをしていることでしょう。私もこのステージに達しつつありますが,こういうオジサンにはなりたくないなと思います。