コロナ禍によって,人々の生活や意識はどう変わったか。いろいろな調査がされていますが,このほど,内閣府から信頼のおける調査データが公表されています。『新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査』というものです。
今年の5月下旬から6月初頭に,15歳以上の国民1万92人に対してなされた調査で,感染症拡大前と拡大後で,生活や意識がどう変わったかを訊いています。ありがたいことに,個票データも申請可能で,私は早速申請し,エクセルファイルをメールで送ってもらいました。
調査票みると,興味深い設問が満載で,どこから分析していいか迷いますが,まずはオーソドックスな部分から攻めましょう。Q41ではズバリ,全体としての生活満足度を尋ねています。感染症が拡大する前と,感染症の影響下に分けて,0~10点で評定してもらう形式です。
まずはシンプルな単純集計からです。15歳以上の対象者全体(1万92人)の評定分布は以下のようです。
経済停止による失職,経済苦,対人関係減少などの影響からか,コロナ拡大後,国民の生活満足度が下がっているのが分かります。0~10点の評定分布の平均値を出すと,拡大前が5.97点,拡大後が4.48点です。
全体の傾向を見た所で,次は層別の分析です。コロナにより生活満足度を下げているのは,どの層か。生物学的な属性である性別・年齢層別の傾向をみてみます。私は,15歳以上のサンプル(1万92人)を,男女・10歳刻みの年齢層別の14グループに分け,コロナ拡大前と拡大後の生活満足度の分布を出し,各々の平均点を算出しました。以下は,結果の一覧です。
年齢層別にみると,どの年代でも満足度は落ちていますが,その幅は例外なく「男性<女性」となっています。1.5ポイント以上減は赤字にしましたが,女性は真っ赤です。60代以上の女性は,2.0ポイント以上落ちています。外出自粛により,対面で語らう機会が減っているからでしょうね。高齢女性の場合,単身者も多いと思いますが,おそらくSNSなんかはやってないでしょうから,デジタルコミュニケーションで補う術もなく,まさに孤独です。高齢男性にも,これは当てはまるでしょう。
生活満足度の低下が女性で大きいのは,対面でのコミュニケーション(おしゃべり等)で精神の安定を得ている度合いが男性より高く,コロナでそれが一気に失われたからではないでしょうか。
若い女性の満足度低下は,巣ごもり生活に伴うDV被害や,失職による経済苦の影響かと思います。女性は,簡単に解雇される非正規が多いですからね。低賃金なんで貯金もなし。失職=即生活破綻です。その苦悩は自殺者数の変化に出ていて,今年3~10月の自殺者数の対前年比は,20~40代女性で高くなっています。
コロナが渦巻いて以降,女性の場合,家族関連の悩みが増えているとも言います。外出自粛,在宅勤務の増加で,自宅での生活の比重が増していますが,そこでのタスク(家事)は女性の方にのしかかっています。テレワークや臨時休校で夫や子が家にいるようになったら,さあ大変。役割分担の変革がうまくいっているならいいですが,そうでなかったら溜まりません。単純計算で,家にいるようになった家族の数だけ,女性(母親)の負荷が増していることになります。
残念ながら,この危惧はある程度当たっているように思えます。データでも示せます。家族持ちか否かで分け,コロナによる生活満足度変化を比較するのです。
25~54歳男女を,①配偶者なし,②配偶者あり,③配偶者と18歳未満の子あり,の3グループ(③は②の内数)に分け,生活満足度の平均点が,コロナ感染前と感染後でどう変わったかを出してみました。
第一次集団としての家族は,成員の情緒安定機能を果たし,本来は安らぎの場であるはずです。コロナ禍の大変な時期にあっては,とくにそうでないといけないのですが,悲しいかな,現実には,不満が渦巻く葛藤の場になりつつあるようです。特に女性にとっては。
まあこれは,普段からの家庭生活の矛盾が噴き出た結果ともいえます。コロナ禍によって,全体社会の悪しき慣行(対面での取引,出社義務,東京一極集中…)は変格されつつありますが,家庭という小社会の内部も変わるべき時です。夫婦の家事分担の歪みを可視化し,是正しましょう。
対面でのコミュニケーションを奪われて寂しい高齢者は,SNSを始めてみるのもいいかもしれません。