2016年9月16日金曜日

OECD 「Education at a Glance 2016」

 本日,表記の資料が公表されました。OECDの教育白書で,教育の国際比較のデータが数多く載っています。

 この資料のファインディングスについて,いろいろ報じられていますが,日本の教育費構造の特異性(異常性)に言及した記事が多いようです。私が目を通したのは,以下の2本(いずれも本日付)です。

・「教育への公的支出,日本なお低水準 13年OECD調べ」日本経済新聞
・「日本の大学私費負担,OECD平均の2倍超える」読売新聞

 最初の日経記事によると,日本の教育費支出額の対GDP比は3.2%で,OECD加盟国中下から2位だそうです。その影響か,日本の高等教育費用の64.8%は私費(家計負担)で賄われているとのこと(読売記事)。後者は,大学のバカ高の学費を説明してくれます。

 まあ,以前から言われていることで,新しい知見ではないですが,最新の2013年データでもこうであり,「相変わらずだな」という印象です。

 私は,この手の報道に接すると,原資料にて詳細なデータを確認したくなります。タイトルの資料に当たって,上記の2本の記事で使われたデータを揃えてみました。 「Education at a Glance 2016」ですが,下記サイトにて,全文のPDFを無償でダウンロードできます。エクセルファイルのデータも呼び出すことができ,入力の手間も要りません。ありがたや。

 先の2本の記事で使われている国際データは,下表のとおりです。


 日本は,公的教育支出の対GDP比が低く,高等教育支出の私費負担率が高い。前者は32位(下から2番目),後者は2位です。

 その対極はノルウェーで,高等教育費の私費割合はたった4.0%です。なるほど,この北欧国では大学の授業料がタダなわけですな。

 上表のデータをグラフにすることで,教育費構造のタイプを可視化することができます。横軸に公的教育支出の対GDP比,縦軸に高等教育費の私費割合をとった座標上に,両方のデータがある32か国を配置すると,下図のようになります。


 右下にあるのは,教育の公的支出が多く,国民(家計)の費用負担が軽い社会です。北欧国が固まっています。

 左上はその逆で,政府が教育にカネを使わず,負担が個々の家庭に押し付けられる社会。悲しいかな,その典型は日本です。大学生の親御さんは,「何でこんなに学費が高いんだ」と嘆いておられるでしょうが,上記のグラフをご覧になれば,事情をお察しいただけると存じます。大学教員が,べらぼうに高い給料をもらっているからではありません。

 前にニューズウィーク記事で書きましたが,こういう構造にもかかわらず,日本国民は「家庭の富裕度に関係なく,頑張れば成功できる」イデオロギーを持っているのも恐ろしい。大学の学費が無償の北欧なら,こういう意識が生まれるのも分かるのですが・・・。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5055_2.php

 日本の「私」依存型の教育は,少子化や未婚化という,社会の維持・存続に関わる問題を引き起こしています。後者は,奨学金返済が足かせになり,若者の結婚が阻まれる,というようなことです。

 このグラフを拡大して国会の壁に貼り,為政者の皆さんには,「国民に負担を強いる構造を変えよう」という決意を,絶えず新たにしてほしいと思います。

 最後にもう一つ。新聞記事で報じられるデータを,原資料から再現させるという作業を,調査法の授業で学生さんにやらせるのもいいかな,と思います。他者の研究成果の追試(test)も,調査の一角を構成します。今後の授業立案のメモとして。

2016年9月12日月曜日

幼少期のコンピュータ利用と学力の関連

 「幼少期に**すべし」「頭のいい子は,幼少期をこう過ごした」・・・。いつの時代でも親御さんの関心をひくトピックで,私が関わっている『日経デュアル』でも,この手の記事がウケています。

 正直言って,私はこういう話はあまり好まないのですが,偏見ばかりというのはよくないと思い,あるデータを分析してみました。それは,タイトルにある通りです。

 日本はICT後進国で,子どものパソコン所持率は低く,学校の授業での利用頻度も低くなっています。この点の国際データは何度も提示しましたが,コンピュータの利用開始年齢も,諸外国に比して遅くなっています。

 OECDの国際学力調査「PISA 2012」のICT調査では,対象の15歳生徒に対し,「初めてコンピュータを利用したのは何歳の時か」と問うています。下図は,主要国の回答分布です。下記サイトにて,リモート集計ができます(粗い整数値でしか%が出せませんが)。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 米英仏は,ICT関連の設問には回答していないようです。


 詳細なコメントは要りますまい。差が出ているのは,就学前の幼少期にコンピュータに触れたという生徒の率です。日本はたった13%ですが,北欧諸国で半分を声,ICT先進国のデンマークでは6割近くにもなっています。

 まあ,さもありなんという結果ですが,本題はここからです。実は日本のデータでみると,パソコンの使用開始年齢が,「PISA 2012」で測られる学力水準と相関しているのです。

 「PISA 2012」では,15歳生徒の数学リテラシー,読解力,科学的リテラシー,問題解決能力を測定していますが,その平均点は,初めてコンピュータを使った年齢によって違っています。

 下図は,その関連のグラフです。学力は社会階層に規定されますので,その影響を除くべく,両親のいずれかが大卒(ISCED 5A or 6)以上の生徒に限定しています。このグループに絞っても,コンピュータの利用開始年齢分布は,上図の全体とほぼ同じです。


 どの面の学力でみても,コンピュータの使用開始年齢が早かった群ほど,平均点が高くなっています。数学リテラシーでいうと,乳幼児期にコンピュータを使い始めた群の平均点は592点ですが,7~9歳の群では566点,10~12歳の群では556点,中学校に上がって初めて使い始めたという群では522点という有様です。

 むーん,全く攪乱のないきれいな傾向ですね。幼少期にパソコンに触れさせることは,ゲーム脳をつくる,よからぬことを覚えるというように,否定的に捉えられることが多いのですが,その後の学力とこうも相関しているとは。

 この点について何か言われていないかと検索してみたら,ズバリ「子どものパソコン所有は学力アップにつながる」という記事(2016年8月10日公表)を見つけました。
http://news.mynavi.jp/kikaku/2016/08/10/003/

 子どもにパソコンを使わせた親御さん曰く,「ITへの理解が増した」「情報収集力が高まった」「資料作成力が高まった」「勉強意欲が高まった」「様々なことに対する興味が高まった」とのこと。

 なるほど,とりわけPISA型学力の問題解決能力につながるような要素が盛りだくさんですね。コンピュータを使って,自分の創作物を発信することなどは,何のために勉強するかという,勉学意欲も高めるでしょう。いろいろな反応がもらえますしね。

 上記記事にて,脳科学者の中野氏も言われていますが,ネットから受ける刺激は,本やテレビから受けるそれよりもはるかに広範で,子どもの興味の幅を大きく広げてくれるでしょう。頭が柔らかい年少の子どもがそれに接することは,いい効果をもたらすのかもしれません。

 言わずもがな,ネットの情報は玉石混交です。幼児はそれをジャッジする能力を持ちませんので,保護者が適切なコントロールをすることが必要です。使わせるなら,フィルタリングつきのパソコンにするなど。

 社会階層の変数を統制しても,幼少期のコンピュータ使用経験と学力の間にリニアな相関がある。これは因果の可能性ありか。だとしたら,具体的にどういうことか。議論のタネにでもなればと思い,データをここに提示しておきます。

2016年9月10日土曜日

教員養成大学 VS 一般大学

 新規採用教員に占める,国立教員養成大学出身者の割合が低下しているそうです。公的資源の投入を受けて,教員を輩出することを使命とする教員養成大学にとって,これは看過できないこと。

 曰く,「国立の教員養成大学は未だに研究重視の風潮があり,社会の変化を見据えた教育ができていないのではないか」。むう,関係者にとっては,耳の痛い指摘ですね。

 危機感を持ったのか,文科省内に,国立教員養成大学の改革の方向を議論するチームが立ち上げられている模様です。

 2015年度の公立小学校教員採用試験のデータでみると,試験を突破した採用者のうち,教員養成大学出身者は33.2%となっています。およそ3人に1人ですが,過去最低です。一方,一般大学出身者の比率は58.3%で,こちらは過去最高となっています。

 しかるにこれは,一般大学からの受験者が増えているためとも考えられます。近年,私立大学の教職課程が増えていますからね。「教員免許を取得できますよ」は,学生獲得のための格好のアピールになります。

 ゆえに,教員養成大学が劣勢になっているかを判断するには,受験者(ベース)の構成変化を考慮する必要があるでしょう。小学校教員採用試験の受験者・採用者に占める,教員養成大学出身者,一般大学出身者の割合を推移をとると,下表のようになります。記録のある,1980年代以降のデータです。

 観察期間中の最大値には黄色,最小値には青色のマークをしています。


 採用者に占める教員養成大学出身者の割合は下がっていますが,受験者でみてもそうです。ピークの99年度試験では受験者の半分でしたが,2015年度では24.8%,4分の1にまで萎んでいます。

 対して,一般大学出身者は受験者でも採用者でも増加傾向。先に述べたように,私立大学の教職課程が増えているためです。

 受験者での割合(A)と採用者での割合(B)を照合すると,まだ,教員養成大学出身者のほうが優位ですね。受験者では24.8%だが,採用者では33.2%いる(2015年度)。この群からは,通常期待されるよりも1.34倍多く採用者が出ていることになります。

 BをAで除した採用者輩出率という指標を出し,推移をグラフにしてみましょう。この数値が1.0より大きい場合,通常期待されるよりも高い確率で採用者が出ていることになります。1.0を下回る場合は,その反対です。


 どの時期でも,教員養成大学出身者の輩出率は1.0を超えており,受験者の比重から期待されるよりも高い確率で採用者が出ています。一般大学出身者はその逆です。

 今から10年前の2006年には,2つの曲線がかなり接近しましたが,それ以降,再び乖離しています。関係者の杞憂といいますか,採用試験における国立教員養成大学学生の出来は落ちてはいないようです。上記は小学校試験のデータですが,中高でみても同じです。

 ただ,教員養成大学では採用試験の受験者が減っている,ということはあり得るかもしれません。試験の受験を希望するという時点で,それなりに質がセレクトされていると。ゆえに,卒業での割合を勘案した輩出率だと,カーブは違った型になるかもしれません。

 データがないのでこの点は検討できませんが,仮にそうだとしたら,教員養成大学の機能不全の問題が提起されます。

 新規採用教員の多くは,教員養成大学出身者で占められるべき。関係者はこう考えているのでしょうが,私はそうは思ってません。新規採用教員の組成は,できるだけ多様化したほうがいいと考えています。それこそ,「開放制」というわが国の教員養成の趣旨が具現されるというもの。

 大卒の教員就職者が,大学で何を学んだか(専攻)の内訳をみると,下表のようになります。2015年春の大学学部卒業者のデータです。


 教員就職者のうち,理学部や工学部などで理系の学問を学んだ者は少なくなっています。小学校では,ほぼ皆無です。

 教育専攻の中に,教育学部の理科教育専攻の学生がいるでしょうが,バリバリの理系畑出身の教員がもっと増えてもいいのではないか,と思ったりします。次期学習指導要領の目玉は「アクティブ・ラーニング」ですが,AL型の理科教育を行うに際して,こういう専門性のある教員は力を発揮してくれるでしょう。

 教員養成大学出身と一般大学出身で,教員としての力量にどういう違いができるか。こうしたパフォーマンスの比較研究に興味を持ちますが,そういう研究ってあるのかしら。それなりの資源を投入して,長期的な追跡調査をやってみる価値はあると思います。

2016年9月8日木曜日

自殺の潜在量

 昨日,衝撃的な記事を見かけました。朝日新聞の「4人に1人『本気で自殺したい』 日本財団4万人調査」と題する記事です。
http://www.asahi.com/articles/ASJ975JVJJ97UTFL00J.htmll

 4人に1人が本気で自殺を考えたことがあり,推計53万人が過去1年間に自殺未遂を図ったことがあると。性別・年齢層別の未遂率を,2015年の『国勢調査速報』の人口に乗じて出したそうですが,妥当な推計だとしたら,日本はヤバい。明らかに病んだ社会ということになります。

 最近の年間自殺者は2万5千人くらいですが,その下には膨大な潜在量(予備軍)が存在することが示唆されます。

 その潜在量の指標ですが,自損行為をして,救急車で運ばれた人間の数というのはどうでしょう。これには,リストカットやOD(オーバードーズ)などによる,自殺未遂者も多く含まれると思われます。

 総務省『消防白書』によると,2014年中の自損行為の救急搬送人員は4万742人となっています。同年の自殺者数2万4417人のおよそ1.7倍。結構,乖離がありますね。

 1990年から2014年にかけて,年間の自殺者数と自損行為搬送者数がどう推移してきたかをグラフにすると,下図のようになります。前者の出所は厚労省『人口動態統計』,後者は『消防白書』です。
http://www.fdma.go.jp/concern/publication/


90年代の末までは,両者の数は近似していました。97年から98年にかけての激増傾向もそっくりです。

 しかしその後,自殺者は横ばいなのに対し,自損行為搬送人員は増加し,両者は乖離しています。近年は,自殺者の背後に少なからぬ潜在量があることが知られます。自殺者の統計だけを見ていると,社会の危機量を見誤る恐れがある。

 ちなみに,自殺者と自損行為搬送人員の属性は,大きく違っています。性別・年齢層別でみると,自殺者は「男性>女性」「高齢者>若者」ですが,自損行為搬送人員はその逆です。

 全国の自損行為搬送人員の属性は分かりませんが,東京都のそれは知ることができます(『東京都消防統計書』)。2014年中の都内の搬送者数は4055人ですが,そのうち女性が2551人(62.9%)を占めます。自殺者と違い,男性より女性が多し。
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/tfd/hp-kikakuka/toukei/index.html

 年齢構成も,自殺者とは異なっています。下図は,2014年の全国の自殺者(2万4345人)と,東京都の自損行為搬送人員(4055人)の年齢分布です。前者は,年齢不詳者は除いています。


 自殺者は高齢層の比重が高いですが,自損行為搬送者は若者が多く,ピークは20代で,この層だけで全体の4分の1近くを占めます。

 潜在量をも考慮すると,生の危機は若者に多く分布しているとみられます。自殺対策の重点層を割り出すに当たっても,自殺者の統計だけを見ていると,事態を見誤るなと感じます。

 冒頭の朝日新聞記事でいわれている,推計自殺未遂者53万人のマジョリティーは,若年の女性でしょう。この層の自殺率は低く,自殺対策の重点として注目されにくいのですが,膨大な危機の潜在量を抱えた層です。

 「生きづらさ」の指標は,絶えず点検されないといけない。でないと,対策の在り方を間違えてしまう。昨日の朝日新聞記事を読んで,このことを強く認識させられます。

2016年9月6日火曜日

全国1271市区町村の「家賃/年収」比

 前々回の記事では,47都道府県別,首都圏の市区町村別に,借家世帯の「家賃/年収」比を出してみました。生活の基礎経費と収入を照合して出した,生活の余裕度を測る指標です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/09/blog-post.html

 県別にみると,最高の22.4%(東京)から最低の13.8%(島根)まで分布しています(25~34歳の借家世帯)。首都圏の市区町村別では,27.0%(東京・中野区)から12.0%(埼玉・吉身町)までの分布幅です(全借家世帯)。

 首都圏とは埼玉・千葉・東京・神奈川の1都3県ですが,全国の市区町村に射程を広げると,「家賃/年収」比はもっと幅広く分布しています。地方県の郡部では,この値が格段に低い地域もあるでしょう。こういう例の提示は,地方創生の促進の上でも意義あることと存じます。

 私は,総務省『住宅土地統計』(2013年)のデータをもとに,全国1271市区町村の借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみました。同資料に載っている,各地域の借家世帯の平均家賃月額を12倍した年額を,同じく借家世帯の平均年収で除した値です。借家世帯の年収のうち,家賃の比重は何%か?
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm

 できれば若年世帯というように,世帯主の年齢を統制できたほうがいいのですが,市区町村レベルの統計では,家賃額・年収とも,全借家世帯のものしか知ることができません。今回お見せするのは全借家世帯の「家賃/年収」比であることに留意ください。

 1271市区町村の「家賃/年収比」は,幅広く分布しています。全市区町村の一覧を掲げることはできませんので,2%間隔のヒストグラムを見ていただきましょう。


 きれいなノーマル分布です。最頻階級(mode)は,14%以上16%未満の階級なり。1271市区町村の「家賃/年収」比の平均値は15.7%となります。アベレージは,およそ7分の1というところです。私も,そんな感じかな。

 さて分布をみると,20%を超える地域もあれば,10%にも満たない地域もそこそこあります。この両端を顔ぶれをご覧に入れましょう。まずは,「家賃/年収」比が高い市区です。下表は,25%(4分の1)を超える市区です。


 トップは,大阪市の西成区で28.7%です。家賃はそんなに高くないですが年収が極端に少ないので,こういう比重になっています。生活保護世帯が多いためでしょう。

 2位は福井の永平寺町で,3位以下は東京特別区,京都市,大阪市内の区で占められています。東京の港区や渋谷区は,家賃がメチャ高であるためです。他の区は,年収が少ないことがファクターになっています。京都市は学生の単身世帯が多いこと,大阪市は生活保護受給世帯が多いことも関連していると思われます。

 次に,借家世帯の「家賃/年収」比が低い地域の一覧です。こっちのほうに関心をお持ちの方が多いと思いますが,家賃年額が年収の10%(1割)に満たない自治体は以下です。


 一番下をみると,2011年の震災の被災地が顔をのぞかせています。仮設住宅などが公的に供給されているためでしょう。

 鳥取の八頭町(3.3%)や岐阜の大野町(5.1%)などはスゴイ。家賃メチャ安なのに,借家世帯の年収は高し。地域の借家のほとんどが公務員住宅とか,特殊事情でもあるのでしょうか。わが郷里・鹿児島のさつま町や肝付町なんかも,家賃比重が低いのだなあ。

 生活の基礎経費の比重が低い地域は,予想通り地方の郡部に多いですが,市部も多く含まれています。移住者の大半は賃貸住まいをチョイスすると思いますが,こういうデータも,わが町に人を吸い寄せるエビデンスになるのではないでしょうか。

 前々回の記事でも言いましたが,白々しいPRよりも,こういう数値のほうが,人を吸い寄せる磁石として強力なのは確かだと思います。

2016年9月4日日曜日

非貨幣経済指数

 先日,野菜への年間支出額の世帯平均値を県別に出し,ツイッターで発信しました。

 それに対し,①物価の地域差を考慮すべし,②田舎では,野菜は贈与や物々交換で賄われることが多い,という意見が寄せられました。

 どちらも,ごもっともな指摘です。②でいう「贈与や物々交換」というのは,非貨幣経済という語で括られると思いますが,あらゆる財やサービスが貨幣を介して供される現在にあっても,こうした非貨幣経済が若干は残っているのも事実です。

 統計によって,この非貨幣経済がどれほど幅を利かせているかを可視化することができます。野菜への支出額と,実際の消費量(摂取量)を照合することによってです。前者が少ないのもかかわらず,後者が多いならば,野菜を非貨幣で賄っている度合いが高いことになります。

 私は,この2つの数値を都道府県別に収集し,消費量を支出額で除した,非貨幣経済指数を計算してみました。

 東京都でいうと,野菜・海藻への平均月間支出額は9744円です(2人以上世帯,『全国消費実態調査』2014年)。これを,東京の食料物価地域差指数(1.037)で除して,物価を考慮して標準化した支出額にします。その額,月間9396円(①)。*物価地域差指数とは,全国値を1.0とした場合の値です。

 2012年の厚労省『国民健康・栄養調査』によると,東京の成人男性の1日あたりの平均野菜摂取量は332.1グラム(②)となっています。年齢調整値です。

 よって東京の非貨幣経済指数は,②を①で除して,3.534となります。非貨幣経済の相対的強度を測る指標です。

 これは大都市・東京の値ですが,言わずもがな,田舎では値はもっと高いでしょう。下表は,47都道府県の計算表です。右端が,算出された非貨幣経済指数です。全県の最高値には黄色,最低値には青色マークをしています。上位5位は,赤字にしました。


 非貨幣経済指数が最も高いのは,中部の長野県です。相対比較ですが,全国で最も,贈与や物々交換などの非貨幣経済が幅を利かせていると判断されます。

 この結果に対しては,「さもありなん」という声も寄せられています。曰く,お米の3割は「縁故米」なのだとか。
https://twitter.com/39chibi/status/772095904425705472
https://twitter.com/tomoida/status/772221048351633408

 2位は,わが郷里の鹿児島県です。これは,よく分かります。離島に赴任した教員は,食べ物の費用がかからないのだそうです。「先生,食べんね」と,住民の方が野菜や魚をわんさと持ってきてくれます。それでいて,へき地手当もつくし,お金がたまり,市内に戻ったら家が建つと。

 ほか,指数の上位県は西に多いような印象を受けます。上表の指数をマップにしてみましょう。4つの階級幅を設け,47都道府県を濃淡で塗り分けてみました。


 中部のほか,西南で色が濃いですね。非貨幣経済が相対的に残存しているゾーンです。

 日本では,失業と自殺はとても強く相関しています。失業率が分かれば,自殺率を予測できるほどです。失職して収入(貨幣)が得られなくなるや,生活に必要な財やサービスが賄えなくなり,生活困窮に陥る。貨幣経済が浸透した社会の病理ともいえましょう。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/06/blog-post_24.html

 しかるに,非貨幣経済が残存している社会では,失業と自殺がリンクする度合いは低いのではないか。貨幣がなくても,生きていけるからです。アフリカや中南米の発展途上国は,失業率はメチャ高ですが,自殺率はとても低水準。その日暮らしに精一杯で,自殺などを考える暇がないためでしょうが,非貨幣経済が幅を利かしていることも要因としてあるでしょう。

 これは,海を隔てた遠い異国の話ですが,日本国内でも,非貨幣経済の残存度に地域差がある。今回みたのは都道府県差ですが,市区町村レベルまで下りれば,もっと高い指数値も出てくると思われます。鹿児島の離島部とかは,スゴイ値になりそう。

 ここで試算した非貨幣経済指数は,地域連帯の測度と読むこともできます。この高低によって,人々の生活の満足度(安定度)がどう違うか。人々の「つながり」の学である社会学の,重要課題といえましょう。

2016年9月2日金曜日

借家世帯の「家賃/年収」比

 海の見える街に住みたい。賃貸サイトにて,先日行った三浦半島(神奈川)の物件を探してみると,安くて広い物件があるわあるわ・・・。
https://twitter.com/tmaita77/status/771250273331257344

 私のような文筆業の場合,どこに住んでも収入は一緒。それで,家賃等の基礎経費が浮くとなると,生活はかなり楽になるだろうなと思います。部屋も広くなるので,本もたくさん置ける。至れり尽くせりです。

 生活にどれほど余裕があるかは,収入と支出のバランスで見て取れますが,後者の代表格は住居費,借家世帯でいうと家賃ということになります。生活の余裕の程度を測る指標として,借家世帯の「家賃/年収」比というのはどうでしょう。

 地域別の平均年収に注目されることが多いのですが,地域によって生活費の相場が違いますので,収入の多寡を見るだけでは不十分です。そこで,生活の基礎経費を測る指標として,家賃も考慮しようというわけです。

 私は,47都道府県について,借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみました。依拠した資料は,2013年の総務省『住宅土地統計』です。この資料から,借家世帯の平均年収と平均家賃額を知ることができます。世帯主の年齢層別にみることも可能です。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm

 東京を例に,世帯主が25~34歳の借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみましょう。下記サイトの表48(都道府県)の年収分布より,当該の借家世帯の平均年収を出すと,427.6万円(①)となります。平均家賃額は,7万9753円(②)です。こちらは,表50に計算済みの数値が出ています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001056226&cycode=0

 したがって,「家賃/年収」比は,(②×12)/①=22.4%となります。年間の家賃が年収に占める割合は,およそ5分の1ということです。これは,東京の25~34歳の数値ですが,値は地域によって違います。年齢層による差もあります。

 東京と私の郷里の鹿児島について,借家世帯の「家賃/年収」比の年齢曲線を描くと,下図のようになります。


 どの年齢層でも,鹿児島より東京が高いですね。収入・家賃とも「東京>鹿児島」ですが,家賃の地域差が収入のそれを凌駕しているので,こういう結果になります。東京は,家賃高いですものね。

 しかし,東京の若年世帯はキツイ。「家賃/年収」比は45.0%! 年収の半分近くを,家賃で持って行かれることになります。何と言いますか,これでは,家賃を払うために働いているようなものですね。

 この指標は,収入が多い働き盛りの層では低くなり,収入が少なくなる高齢層になると反転して上昇します。

 上記は東京と鹿児島の例ですが,他県はどうでしょう。同じやり方で計算した,県別・年齢層別の借家世帯の「家賃/年収」比の一覧表をご覧いただきましょう。黄色は全県の最高値,青色は最低値です。赤字は,上位5位を意味します。


 マックスは,どの年齢層も東京かと思いきや,25歳未満だけは京都が最も高くなっています。「家賃/年収」比は53.0%,半分を超えます。

 これは,学生の単身世帯が多いためでしょう。京都は,大学が多いですし。しかしこの事実は,日本の下宿学生の生活が大変苦しいことの証左です。収入(仕送り,奨学金,バイト代・・・)の半分以上が家賃に食われる。こんな社会が,他にあるでしょうか。

 赤字の分布をみると,借家世帯の「家賃/年収」比は,やはり都市部で高いようです。地方で低いのは,収入は少ないですが,家賃がそれを補って余りあるほどバリ安ということ。地方では,家賃のほかに,自動車の維持費などの経費もかかるでしょうが,生活のゆとりという点では,地方に軍配がある気がします。

 言わずもがな,住居の面積も広いですし。昨日,ツイッターで発信しましたが,東京の富裕層よりも鹿児島の貧困層のほうが,広い家に住んでいるようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/771340346542297088

 しかしまあ,若年の借家世帯の「家賃/年収」比がメチャ高であることに,驚きを禁じ得ません。都市部では,ほぼ半分。収入が少ないためですが,これでは,実家を出れず親にパラサイトせざるを得ないだろうなと思います。その結果,未婚化が進行する。この点は,山田昌弘教授も指摘されています(『パラサイト・シングルの時代』1999年)。

 状況は,過去に比して悪化しているでしょう。90年代以降の不況により,若者の収入は下がる一方で,家賃は据え置き(上昇?)なのですから。ヨコの国際比較でみても,若年世帯が住居費負担にこれほど苦しんでいる社会は,日本だけではないでしょうか。藤田孝典さんの『貧困世代』(2016年)にも書いてありますが,日本の住宅支援政策(公営住宅整備,家賃補助等)がきわめて貧弱であることは,よく知られていること。

 こういう要因により,若者の自立(離家)が阻まれ,未婚化が進行。消費も低迷し,社会の維持・存続が脅かされる事態になっている。「」は生活の基盤ですが,この面の支援を,若年層に重点を置いて行うべきでしょう。

 話がそれましたが,最後に,首都圏(1都3県)の市区町村別のデータもお見せしましょう。214市区町村について,借家世帯の「家賃/年収」比を計算し,マップにしてみました。市区町村レベルでは,年齢層別のデータは出せませんので,借家世帯全体のデータであることに留意ください。


 東京の都心の色が濃くなっています。都心は,家賃がメチャ高ですからねえ。千葉は全体的に真っ白。相対的に安い。私が白羽の矢を立てている,神奈川県の三浦半島の南端もホワイト。

 これは首都圏の地図ですが,全国に視界を広げれば,値がもっと低い地域もたくさんあるでしょう。5%未満の町村とかもあったりして・・・。

 政府が推奨している「地方創生」を促すに際しては,こういうデータも積極的に公開するのがよいと思います。白々しいPRよりも,ずっと説得力に富んでいることは間違いありません。